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新しい禿を買い入れたがこういうときにケチケチしないのは大事だ

 さて、蛍狩りも無事終わり、あれこれやってれば夏も、もうすぐ終わりだ。


 そして、吉原にも品川にも娘や妻を売るものは絶えない。


 基本的に米が主食の日本では田植えの後が一番米が少なくなる。


 そして江戸時代前期から中期は小氷河期であったこともあって、寛永19年(1642年)-寛永20年(1643年)の寛永の大飢饉を始めとして、元和の飢饉、寛文の飢饉、延宝の飢饉、元禄の飢饉、天和の飢饉など10年に一度は飢饉が起こるような状態で洪水・地震・大火なども含めれば毎年どこかで災害が起こっていた。


 武士が役目を解かれたことで困窮したり、商家が商いに失敗したりすることも当然あったから、娘や妻や妹を売る男がいなくなることはなかった。


 このときは父や兄、おじ、夫など、男側が家族や親戚の立場であれば、女を妓楼に売る権限があったのだな。


 このあたりは明治に問題になって表向きはそういったことはできなくなるわけだが、実際にはその後も女衒という商売は長いこと続いている。


「ふーむ、じゃまあ、この娘は7両でどうだ」


 今日吉原に売られてきたのは出羽から来た5歳の農民の娘だが結構かわいい。


「わかりやした、それで証文を決めてくんなせえ」


 吉原の遊郭にしても、品川の飯盛旅籠にしても、表向きは年季と給金を取り決めた奉公なので、必ず証文を取り交わす。


 見た目の美しさや要領の良さに加えて、痔持ちなどの持病がないことや、しまりのよい名器であることなども含めて上物とみなされた娘はなるべく高く売ろうとするが、大抵の見世はなるべく安く買い叩こうとする。


 俺はそのあたりを他より少し高めに値段をつけて、優先して女衒がいい娘を連れてくるようにしている。


 21世紀の風俗のスカウトもスカウトバックが高く、女の子が稼げて自分に入ってくる金額もバックが高い店に優先して外見のいい女の子を紹介するが、まあ当然だな。


 逆にスカウトがろくでもない女の子ばかり連れてくると、どんどん店からお断りになって、結局は暇な店に紹介していかなきゃなくなるんだけどな。


「では、これにて契約終了ですな」


「ああ、またいい娘がいたら紹介してくれ」


「はい、今後ともよしなに」


 残された娘はどうすればいいのかおどおどしている。


「ああ、そんなに心配するな。

 まずは飯と風呂、それに服を用意しないとな」


「あ、ありがとうごぜます」


「お前さんの名前は?」


「たけと申します」


「竹かもうちっと大きくきくなったら、もっときれいな花の名前にしたいが、今はまだその名前がいいか?」


「あい、おとさとおかさのくれたもんですので」


「わかった、じゃあ竹、まずは飯にしようぜ」


「あい」


 平成の日本は人に金をかけないことが良いことと思っていた経営者が多かったようだが、それによって日本は技術的に停滞し、本当に能力の高い人間や技術を持った人間は日本よりも高い給料を提示されては海外へいってしまった。


 その結果日本は失われた10年、20年、30年と言われる停滞と衰退をずっとつづけたが人間のやる気を出すにはちゃんと数字で評価をすることは当然、それを提供するものへもケチケチしないでちゃんと見合ったカネを払うのが重要なんだ。


 最終的に所属する人間の評判が良くなれば、見世に客が多く集まって、それに見合った金を落としてくれるようになるんだからな。


 で、いま竹は食事中だ。


「はあ、米の飯はうめなぁ」


「そうか、たっぷり食えと言いたいとこだが、米ばかり食べ過ぎも良くないし、ちゃんと魚や漬物も食うんだぞ」


「あい、ありがとうごぜます」


 そして飯を食わせたら風呂に入らせ、着物を買って、禿たちに新しい仲間として紹介する。


「新しい禿の竹だ。

 みんないろいろ教えてやってくれ」


「あい、わかりやした」


 現代の風俗は店に所属して1年いれば長い方だったりするが、江戸時代の遊郭は働きだしてから10年まではずっとおなじ見世で働くわけで、人が頻繁に入れ替わるわけではないから無闇やたらと遊女として雇うことは出来ないのだけどな。


 まあそのためにも品川にも女が安心して働ける場所を作り、働ける人数そのものを増やしていかなくてはと今行動してるわけなんだが。

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