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火事や地震対策の消防訓練と避難訓練をしようか

 さて、この時代は調理、照明、更に冬の暖房はすべて薪や炭や行灯などの火を直接使うものなので、どうしても火事が起こりやすい。


 夜見世終了の前後に拍子木を打ちながら、若い衆が火の用心を触れ回って歩くことはするんだけどな。


「そろそろ避難訓練や初期消火訓練をちゃんとするか、まずは三河屋からで」


 江戸時代の消火は、あくまでも火事が周りに燃え広がるのを防ぐために、燃えている建物やその周りの建物を破壊する破壊消火という方式がメインだ。


 そして大名が指揮を執る「大名火消」、旗本が指揮を執る「定火消」、町の自治組織である町火消しもいたが町火消は鳶や大工などの建設作業に携わる町人たちが受けおった。


 家を作る人間だからこそ家を壊すことも得意というわけだ。


 ちなみに定火消は火事場の治安維持も担当し、鉄砲の所持と消防訓練も許可されていたが、町人などの住民側の消火訓練や避難訓練というのは行われてないんだよな。


 一応、油火災にも役に立つ防火砂の入れた桶を各見世に用意させることはさせてるが。


 とりあえず三河屋の遊女や禿達女と、若い衆の全員を見世前の道路へ集めて俺は言った。


「火事が起きた時、火元にいる人間はすぐ防火砂の入った桶を持ってきて、砂を火の上にかぶせることだ、実際やってみるぞ」


 俺は道路上においた行灯を倒して、こぼれた油に火がついたところで砂をかけて火を消してみせた。


「まあこんな感じだな、お前たちもやってみてくれ」


 まずは若い衆の二階番から、砂を使った消火を実際にやらせる。


「なるほど、こんな感じでやれば、簡単に火は消えるんですな」


 俺はそれにうなずく。


「ああ、砂がない場合は濡らした大きな布をかぶせててもいいぜ」


 とりあえず火が燃え広がる前に、消す方法を各自が覚えるのは大事だ。


 一通りやらせてから俺は避難の仕方を教える。


「火が天井まで届いたらもう消すのは無理だから逃げろ。

 その時に大事なのは”おはしもちな”だ」


 俺がそう言うと楓は不思議そうに聞いた。


「お箸持ちなって、逃げるときにそんなひまあるんですの?」


 俺は苦笑しつつ言葉を付け加える。


「ああ、コレは逃げるときに大事なことの頭をとっただけだ。

 おは押さない。

 はは走らない。

 しはしゃべらない。

 もはもどらない。

 ちは小さい子を優先。

 なは泣かない。

 だよ」


 楓は納得したようにうなずいた。


「なるほど、押さない、走らない、しゃべらない、戻らない、小さい子優先に、泣かない、でやしたか」


 俺もその言葉に再びうなずく。


「そうだ、火事が起きても慌てず騒がずに火を避けられる広い場所に移動するのが大事だぞ。

 後、怪我したやつを怪我してないやつが運ぶ訓練もしておこう。

 まず怪我人に意識がある場合はおんぶが一番だ。

 小さい子供なんかの場合は前で抱きかかえてもいい。

 意識がない場合は片側の肩の上の俵担ぎでもいが、お腹を背負うようにして両肩できちんと支え、膝と肘を掴んだほうが安定しやすいぞ、といっても分かりづらいだろうからな、誰か運ばれ役をやってくれ」


「あーい、わっちがやりやす!」


 まず、手をあげたのは桃香だった。


「おう、じゃあ、足をけがして動けないってことでまずはおんぶからな」


「あい」


 しゃがみこんでいる桃香の前に俺もしゃがみ、背中におぶって立ち上がる。


「こういう感じだな。

 このときは怪我してる側も肩や腕を掴んでしがみつくのに協力すると運ぶ側も楽だぞ」


「なるほどでやすな」


 すると清花も手をあげた。


「あーいとーしゃ、あちしもやうー」


「ああ、清花もやるか。

 けが人がこどもや体重の軽いやつなら、抱きかかえて運ぶこともできまる。

 ほれ清花」


「あい」


 俺は清花の脇の下と膝の裏に腕を通して抱き上げた。


「わーい」


「ただ、こうやって抱いて運ぶのは腕の力で運ぶんでけっこう大変だからあんまりおすすめはしない」


 楓も手を上げたな。


「戒斗様わっちも!」


「わかった、意識がないときの運び方だがこうやって」


 と楓の腹を方に当てて抱えあげた。


「むぎゅ、なんかわっちだけ荷物みたいな扱われでやすな」


「そりゃ意識がないやつの運び方だからな」


 この後二人で一人を運ぶ方法や畳の上にけが人を載せ運ぶ方法なども教えてみた。


「だいたいわかったか?」


「あい」


「大丈夫でやすよ」


「じゃあ、みんなで運動公園までに避難訓練をするぞ」


「あーい」


「大事なのは”おはしもちな”だからな」


「あーい」


 俺たちは遊女や禿、若い衆の皆で整然と運動公園まで歩いていく。


 そして到着したら名前を呼んで全員居るかの確認もちゃんと行った。


「まあ、こんな感じで火事が起こったら行動してくれ」


「あい」


「わかりやした!」


 そういえば2階への階段が一つだけだとそちらがわから火が出たら逃げられなくなるかもしれないし反対側に非常階段があったほうがいいかもな。


 2階からなら飛び降りても死ぬ可能性は低いが怪我する可能性は高い。


 それで逃げられなくなってしまったのでは意味がないからな。

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