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品川でも芸事教養の教育に力を入れていかねえとな

 さて、品川で行った花火大会は、火事などの事故をこすこともなく無事終わった。


「まずは花火大会が、無事に終わってよかったぜ」


「そうですな、客足も伸びて万々歳ですわ」


 俺の言葉に龍もうなずいた。


 ともかく人寄せを行い、そこから客を拾い上げることには成功したのは、まずはめでたいのだが、それだけじゃ客の維持はできない。


「問題は客の帰りがあるかどうかだな」


「吉原と違い、品川は旅人も多いですからな」


 そう、江戸の端っこに移転したとはいえ、公許の遊郭である吉原は、基本的には最初から遊郭が目当てでくるわけだ。


 もっとも俺はそれ以外の目的でも人間が来るように美人楼を始めとして、万国食堂や花鳥茶屋、室内遊技場や屋外運動場に吉原黒湯温泉と、いろいろ施設を作ったわけだけどな。


 しかし、品川は本来は宿場町であって、最初から遊女が目当てでくるわけでは必ずしもなく、21世紀と違い、旅行は人生に1度できれば運がいいという時代でもあるから、旅人という戻るあてが必ずしもあるわけではない客相手の商売では、リピーターを考えるということもあまりない。


 宿泊客相手に売色を行った飯盛り女の多くは貧困な家の15歳~20歳前後の妻や娘で、吉原に売れるほど容姿が良くないとか、若くないなどで安い金額で売られて働かされたが、それより若かったりしても吉原のように芸事や教養を身につけるための教育を受けるわけではなく、下女として雑用に従事させられていたし、20を過ぎて客が取れなくなった場合は、飯抜きで餓死したり河へ身投げするものもいたりした。


 飯盛女のなかにも、客が気に入って妻や養女として身請けされることはあったが、その数は決して多くはなく30前には何らかの理由で死んでしまうことが多かった。


 吉原と違い品川などの宿場町は塀や壁があるわけではないが、飯盛り女の人数や売春を旅籠で行うことを代官や領主が容認する代わりに、旅籠が飯盛り女一人当たり一定金額を領主や代官に収め、旅籠の運営にあてていたこともあって、飯盛り女が逃亡したときは代官や領主が追っ手を向かわせ捕らえた。


 もともと飯盛女の存在が旅行者をひきつけることから、宿場町の伝馬駅伝助成策として飯盛旅籠屋の設置が認められるようになるわけだが、最終的には近場の人間を対象とするようになっていくのだ。


「やはり吉原のように、客と文のやり取りをできるようにしておいたりもしたほうがいいか。

 どっちにしろ囲碁や将棋、麻雀なども教えていくつもりではあったんだが」


「そうですな。

 明らかな旅人はともかく、芝高輪の武家や坊主などには、吉原のように文のやり取りをさせたほうがいいでしょう」


「やっぱそうだよな。

 よし、吉原に戻って準備を整えることにするぜ」


「へい、よろしくおねがいしやす」


 俺は品川から吉原へ戻って、引退して三河屋の芸事教養の師匠となった、先代藤乃と話をすることにした。


「品川の遊女にも文が書けたり碁や将棋、麻雀を打てるようにさせたいんだ。

 お前さんに師匠をやってもらいたいんだが」


「品川の遊女に……でやすか?」


「ああ、三河屋の先代藤乃に教えを受けたという箔が付けば、それだけ客も取りやすくなるだろうし、客を戻しやすくなったり、身請けしてもらえる可能性も増えるかもしれんからな」


 俺の言葉に藤乃はうなずいてくれた。


「なるほど、そういうことでしたら引き受けやしょう」


「ああ、そうしてくれるとありがたいぜ」


 これで品川の三河屋分店にも、リピーターが増えるといいんだがな。


「それに品川はこちらよりも涼しくて過ごしやすいとも聞きやすし」


「まあそれも確かだがな、そのうち品川の遊女を連れて蛍狩りでもするか」


 藤乃は嬉しそうにうなずいた。


「当然、吉原と品川の両方でやりますん?」


「そりゃそうだ」


「なら、わっちは両方参加できそうでやすな」


「ま、それもいいんじゃねえか?

 本当ならせっかく引退できたんだし、もっとゆっくりさせてやりたいとこでもあるんだが」


「蛍狩りも客を呼ぶために参加するわけじゃありやせんし、それなりにのんびりできてやすよ」


「そうかそれならいいんだが」


 藤乃も三河屋そのものを背負ってるようなもんだったわけだし、今はそこそこ羽は伸ばせてるんかね。

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