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鈴蘭と茉莉花の花嫁修業はちょっとばかり不安だな

 さて、そろそろ鈴蘭と茉莉花の身請け金の分くらいは、親方も稼いでくれたし、本格的に二人の花嫁修業をやらせようか。


 そう考えた俺は、まずは鈴蘭のもとへ向かった。


「おう、鈴蘭、邪魔するぜ。

 お前さん達を身請けする、権兵衛親方も身請け金のめどが付いたし、そろそろお前さん達も本格的に花嫁授業が必要だろう」


 俺がそう言うと、鈴蘭はうなずくのだった。


「あい、そうでやしょうな」


「なんで、今日からは昼見世だけにしよう。

 で昼に予約が入ったとき以外は、裁縫や料理、洗濯、買い物なんかの花嫁授業に専念してくれ」


「わかりやした、ありがたいことでやすな」


「せっかく身請けしてもらっても、家のことが何もできないんじゃ、やっぱまずいしな」


「裁縫とかはある程度は楼主様のおかげで、できるようになっていやすけど」


「まあ、炊事と針仕事に洗濯なんかは、下女を雇ってやらせてもいいだろうが、自分たちでできることに越したことはないし、買い物なんかの金勘定は大切だぞ」


「そうでやしょうな。

 ですが、茉莉花には少し難しいかもしれやせん」


 鈴蘭はうなずきそのように言う。


「ああ、まあ、そうだろうな」


 鈴蘭と茉莉花は外見は、結構にたもの姉妹だが、妹の面倒を見続けてきている鈴蘭と、姉に面倒を見られ続けてきた茉莉花では、生活感がどうしても鈴蘭の方にでてしまう部分があった。


 だからこそ茉莉花は格子太夫となったが、鈴蘭は格子のままであったのだろう。


 21世紀の銀座の高級クラブのホステスや高級ソープなどの風俗嬢は店からこう教わるらしい。


 ”華やかな服装ではなくて、華やかなムードを身につけよ。


 そして、華やかな服装でも淑やかさを身につけ、お客には生活感をみせるな。


 髪と手の手入れが悪いと生活感が泌み出る、髪と手の手入れは欠かすな。


 ヘアセットは毎日行え。


 毎月1着は服を新調し古臭さを感じさせるな。


 帰る客に、また来るように思わせてこそ1人前”


 などというものがある。


 高級クラブのホステスや高級ソープの風俗嬢に対して、客は夢を買いに来ているのであって、ただ単に女を買いに来ているわけではないのだ。


 そして、それは江戸時代の大見世の遊女に対しても同じことが言え、だから普通の遊廓は遊女に針仕事やら洗濯やらはやらせないのだな。


 しかしながら高級クラブのホステスや高級ソープの風俗嬢に対して店は、”店外で一般の常識人として通用しなければ将来良い奥さんになれない。


 今の収入は主として「若さ」による、異常なものであることを自覚すること。


 40歳になった時にどうしているか想像して、準備しておくこと。


 その時に、落ちぶれていても誰も助けてくれない”


 ということも教えられているらしい。


 江戸時代の遊女に比べれば、銀座のホステスなどが、そういったことを教えれてもらえるのはだいぶましだろうと思う。


 もっとも江戸時代の40歳と21世紀の40歳では、まず世間的な感覚そのものが全くちがうけどな。


 そして、本来であれば江戸時代の女性は家事や育児は、ある程度の年令になったら手伝わされ、ままごとなどの遊びも通じて覚えるもので、鈴蘭はおそらく吉原に来る前は少しそういったこともしていたろう。


 しかし、茉莉花はその時はまだ面倒を見られる側で、そのまま吉原に来てしまった


 だからこそ、彼女は浮世離れをした生活感を感じさせない遊女として人気もあったのだと思う。


 そして今は洗濯するために糸をほどいた衣服を二人に仕立て直させたところだが……。


「うーん、衣服の縫い繕いは難しいね。

 お姉ちゃん」


 茉莉花の塗った服はあまり見栄えの良いものではなかった。


「でも、針仕事はお嫁さんになるには大事だよ」


 鈴蘭の方は茉莉花に比べればだいぶ綺麗だ。


「自分でやらないで針子さんに縫ってもらえばいいんじゃないかなぁ?」


「お嫁さんになったらそう言うわけには行かないんだよ」


「そうなんでやす?」


 茉莉花が俺の方を向いてそう聞いてきた。


「まあ親方なら針子ぐらい雇えるだろうけどな。

 でも一般的には女の家の仕事でも、一番重要なものだと言われてるしできる方がいいぞ」


「そうでやすかぁ」


「まあ、向き不向きと言うのはあるし、茉莉花に家事を無理にやらせることもないかとも思うけどな。

 その分挨拶回りとか文書とかでがんばることさ」


「わかりやした」


 生まれ育った環境を、今から変えることはできないしな。


 鈴蘭も茉莉花も遊廓以外の場所で、幸せになってほしいものだ。

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