本格的に西洋リンゴ栽培をするためにネズミ対策を考えてみようか
さて、揚屋の裏手の土地を買い取って作った、自家菜園の作物の種類も結構増えてきた。
現代でも自家菜園や農園を持つホテルやレストランは少なくなく、そういったところでは新鮮でみずみずしい野菜やフルーツを提供することで、利用者に強い印象付を行ったりもしている。
現在俺が手入れをしているのは、セイヨウリンゴの木だ。
林檎などの果樹栽培に関して、本来は専門外だが、弁財天様のおかげだろうかある程度はなんとなく分かったりする。
基本的にリンゴなどの果樹の多くは、穀物や野菜などと違い種を蒔いて育てるのではなく、接ぎ木で育てるので、オランダ人のいる出島で林檎の枝を買い求め、和リンゴであるカイドウを台木として台木と穂木の形成層をなるべく広く密着させて、縄でしっかり縛り付けて接ぎ木苗を育てていく。
そして面倒なのだがリンゴは自家不和合性、、つまり自分や自分と同じ品種の花粉では受粉できない植物なので、開花期がほぼ同じ異品種をそばに植えて受粉させないといけなかったりするうえに、-30度の低温にも耐えられる代わりに、高温多湿には弱いので日本で育てるにはあまり向いていなかったりする。
尤も江戸時代の日本は、平均気温が21世紀に比べるとだいぶ低いので、まだなんとかなってるし、樹勢の強い果樹なので、大きな植え穴にしっかり埋めなくても、根を広げられる程度の穴をほってやれば倒れたりすることもない。
剪定などに失敗しなければ、実は三年目には成り始めるが、十分な量が生るまでには10年位かかり、30年位で質の良い実が成らなくなるらしい。
「津軽あたりのほうが、多分リンゴを育てるのには向いてるんだけどな……」
問題は21世紀と違い、流通のための輸送手段が船くらいしかないので、運ぶのが大変だということだろうか。
基本的に、この時代の果樹は水菓子と呼ばれる嗜好品なので、需要が大きいとも言えないんだよな。
もっともある程度の需要はあるはずなんだが。
「さてネズミ対策もしっかりやらんとな」
リンゴはネズミが好んで食べる食物の一つであり、木の皮や根も好んで食べるため、林檎の木に大きな被害が出ることもある。
ネズミは寒さに弱いため、寒い時期は活動せずに冬眠し、暖かくなると活動を始める。
そこでネズミ対策のために、フクロウの巣箱を設置して置こうと思うのだ。
フクロウは猛禽の一種だが、夜行性で小型の哺乳類が主な餌だ。
中でもネズミが大好物で、他にはモグラや野ウサギ、小鳥なども食べることもあるようだ。
人間が農耕を始めた頃には、すでに人間の居住エリアと密接なかかわりがある動物だったようで、縄文時代でもネズミ退治をしてくれるありがたい鳥として認識されていたらしく、像や土器の意匠が残されている。
フクロウは、畑の近くの雑木林の木の穴などに好んで巣を作り、畑などの近くの林縁部の樹上でネズミなどの獲物が通りかかるのを待ちかまえて、獲物を見つけると羽音を立てずに獲物に近づいて仕留めるという方法を取るため、鷹や鷲とは少し狩りの仕方が違う。
フクロウは目もよいが、耳も良くて、音により獲物の位置を特定することもでき、雪の下にいるノネズミや野ウサギなどを仕留めることもできる。
しかしながら、中国では、梟は母親を食べて成長すると考えられていた為「不孝鳥」と呼ばれ、源氏物語では、再三、フクロウが気味悪いものの代名詞として登場し、梟雄と言う言葉も親殺しを主君殺しに発展させたものだったりするので、武家にはたいへん嫌われているのだが、その原因の一つは鳴き声なんだろうな。
尤もフクロウ自体は人間を襲うことはめったになく、フクロウのこどもは食欲旺盛でネズミを沢山食べるため、親フクロウは自分が食べるネズミを含めて、1日で数十匹のネズミを捕まえなければならないためネズミ退治にはもってこいだったりする。
なので江戸時代も平和になってくると畑の周りにフクロウが待機しやすいようにとまり木を建ててネズミの駆除に利用するようになり、21世紀でも東南アジアや中東、南アフリカの畑や果樹園でネズミ駆除対策として、フクロウの巣箱を設置して大きな効果をあげている。
ネズミ退治をしてくれる動物としては、一般的には猫が有名だが場所によってはキツネ、ヘビ、梟などもありがたがられ、農作物の収穫を左右する重要な存在として祀られていたりもするのだ。
日本だとお稲荷さんが狐な理由の一つが、米を守ってくれる存在だったからだな。
梟は早春から初夏にかけてが育雛期間なので、今はちょうどいいだろう。
ちなみに巣箱はいつものよう親分に頼んでるぜ。
「今度は梟の巣箱作りかい?」
「ああ、頼むぜ親分。
そろそろ鈴蘭や茉莉花の見受け金も必要な額の近くまで貯まってきたし、ここでいっちょ頑張ってくれ」
「くっ、わかったぜ。
鈴蘭ちゃんのためにも、頑張らねえといけねえからな」
ちなみにフクロウの場合、子育ては両親が行うが、抱卵はメスが担当し、その間およそ一ヶ月ほどかかるが、その間の狩りはオスがやり、雛が孵った後小さいときは、オスが餌を狩ってきて、メスがそれを小さく千切りって雛に与える。
その後雛が成長し、ネズミなどを自分で飲み込むことができるようになると、雌雄ともに狩りに出かけ餌を探し回ることになるのだが、それまではずっとひなと一緒にいた母親が突然いなくなることから、ひなが親を食べたと勘違いしたらしい。
「とんだ勘違いだよな、フクロウにはいい迷惑だ」
とにかく、この時代だとネズミの被害はバカにならないので、うまくフクロウが巣作りをしてくれるのを願うとしよう。
そして林檎の枝とは別に、林檎の実も買ってきたから、林檎を使ったデザートも考えんとな。
そのまま食べるのが、一番うまいとも思うけど。