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第一話

 俺は教師になった。

 俺が教師をすることになったイートン村は、人口も大人子供合わせても四十人いくかどうか。一番近い町に行こうにも半日はかかる距離だ。

 ちなみに収入源だが。

 まあ海が近いということで漁などをして稼いでいる。村の力の海から獲れる魚介類はなかなかの種類が多く新鮮でおいしい。


 俺もここで教師をするようになってまだ二週間しか経っていないが……楽しくやっている。転移魔法を使えば城まではすぐに行けるのだが、ここで教師をやる以上いちいち城に戻らずここで暮らしたほうが良いと考え、自分で作ってみた。

 工作など何年ぶりか忘れたが一人暮らしをするには中々の出来栄えだと思っている。


「あの、アレン先生」

「ん? あぁ、ミーナ先生。どうしたんだ?」


 今日も今日とて学校に行き、職員室で次の授業のため準備をしていた。そんな時、普通クラスの担任を務めているミーナ先生が話しかけてきた。

 まだ新任したばかりだが、自然豊かで生徒達も元気が良く温かく迎えてくれて楽しくやっているそうだ。この学校にいる教師は俺を含めればミーナ先生と校長と三人しかいないんだけど。


 生徒だって年齢層がバラバラで二クラスしかないうえに生徒数も少ない。

 全校生徒は十人。

 教師の人数だって、こんな田舎に来る物好きはないとかで誰も来ないんだと。その点、ミーナ先生は中々良い先生だ。

 話を聞く限りじゃ半ば強制的にここへ送られたようだが、挫けずに頑張っている。


 栗色の長い髪の毛を片方だけで束ねており、白いシャツと黒いタイトスカートというシンプルな格好。十九歳という若さでいきなりの担任。

 学校ではかなりの成績優秀者だったと世間話をした時に聞いた。


「その、いきなり教師としての勉強もなくあの子達の担任を任せられて、大変じゃないですか?」


 自分も大変だと言うのに、他人を気遣うこの優しさ。中々できるものじゃない。


「そのことか。俺から言い出したことだからな。それに、あの子達も周りよりちょっと特殊なだけで普通の子供だ。ミーナ先生こそ、新任でいきなり担任をやらされて大丈夫なのか?」

「だ、大丈夫です! 教師になるのはずっと子供の頃からの夢でしたから! それに、生徒達も皆良い子で楽しくやらせてもらっていますから」

「じゃあ、何の問題もないな」


 俺は、教科書を手に持ち席を立ち上がる。

 職員室も三人しかいないので教室より狭いかもしれない。木製の机が三つあり、俺とミーナ先生が向かい合うようになっていてその右隣に校長の机が設置されている。


 基本校長は、学校の庭で花壇の水やりや畑仕事など……うん、校長とは思えない外仕事っぷりだ。だが、これは別に職務怠慢なわけではない。

 やることはちゃんとやっているんだ。

 それに……やっぱり、のどかだからなここ。校長と言っても、やることは少ないんだ。大体俺とミーナ先生でやりくりできる。


「そういえば、ずっと気になっていたんですけど」

「ん?」


 職員室の入り口付近でミーナ先生がふとこんなことを呟く。


「アレン先生ってここに来る前はどんなことをしていたんですか? あの時は、突然窓から現れましたけど」

「……領主的な仕事」

「ええええ!? そそそ、それってかなりすごいことじゃないですか!? そんな人がどうして……」


 俺の名前はもちろん知られていない。人間界からやってきて、侵略なんて一度もやっていないからな。だから俺はアレンと名乗っている。そのおかげで名前を変えることなく自由に行動できる。


「自由を求めてって感じだ。上に立つって言うのは中々大変だが、退屈でもあるんだ。それじゃ、ミーナ先生も遅れずに」

「あー! そ、そうでした!! えーっと、教科書教科書っと……」


 慌てて次の授業の教科書を探しているミーナ先生の姿に苦笑し、俺は自分が担当している教室へと向かっていく。

 そう。上に立つって言うのも退屈で疲れる。もし、部下達が親父と同じ思考のままだったら俺はどうなっていたことか。


「おーい。先生が来たぞ。全員席につけー」


 がらっとドアを開け、教室へと入っていく。

 黒板の前に立ち、生徒達を見る。

 今日は……あぁ、ちゃんと全員揃っているな。


「アイナ。今日も、魔法の実験で遅刻か?」

「はい! 申し訳ないっす!! 実験をしていたらいつの間に太陽さんが昇っていまして!! 十分だけ仮眠を取ろうと思ったらぐっすり眠ってしまいました!!」

「今日も元気でよろしい。とりあえず、お前には後で特別に宿題を出してやるからな」

「ひえー!?」


 元気に包み隠さず何があったのかを発言した水色のセミロングで犬耳を生やした少女アイナ。獣人にしては珍しく魔法の才能に恵まれている少女で、いつも新しい魔法を開発しようと実験を行っている。

 トレードマークの赤いマントを身につけ、俺の言葉に涙目で唸る。


「んで、最後に……起きろ、そこの天使」

「無理ー。今日は無理ー。寝かせてー」


 ユーリの隣で俺が来たというに眠りにつこうとしている白い翼を生やした白銀色の癖のない長髪の少女シルヴィ。普通天使は、人間界の上……つまり魔界とは逆の天界で人々の暮らしを監視し観察。

 今後どのようにしていけばいいのかを会議し実行する。

 人間界を助ける存在が天使や女神。


 そんな天使がどうして田舎の学校に通っているのか。

 聞くところによると、シルヴィは天界での職務をサボリまくった罰として人間界で真っ当な性格になるまで過ごして来いと落とされたらしい。

 だが、この通り怠け者な性格は直っておらず、むしろこのまま人間界でずっとこのまま過ごしても良いという風に考えているらしい。


「そ、そんなこと言わずに。ね? 先生が来たから起きようよシルヴィちゃん」


 と左隣の席に座っているサキュバスのユーリが背中を擦る。

 桃色の長い髪の毛に尖った耳。腰には小さく黒いコウモリな翼とひょろっとした尻尾が生えている。身なりもきちっとしており、露出をかなり抑えている。

 サキュバスは、魔界にも居たが。彼女達は、肌から漏れ出すフェロモンで相手を魅了し精を吸い取る。こっちでも同じらしく、ユーリはフェロモンを抑えるためなるべく肌の隠している。学校に通うため、彼女は日々頑張っているらしい。

 席順は後ろの席にアイナ、シルヴィ、ユーリと三人が並び。前に席にレイラ、カトレアと二人が並んでいる。


 シルヴィは、天使の力を封印されている。

 もし天使の力があったままだと更生せずに自由気ままに生きるだろうと天界は考えたようだが。まったく意味がない。

 いや、おかげで俺が魔族だってことにシルヴィは気づいていないし。俺もシルヴィの近くにいても不快な気分にはならないからこっちとしては助かっているんだが。


「だって~。更生しちゃったら、また天界に戻らなくちゃならないじゃーん。私、ここの生活が気に入っているからさ~」

「でも、このままだとあなた堕ちるんじゃないの?」


 ぐるっと後ろを見た魔剣を抱いたままの少女カトレアが呟く。常にフードつきの服を着用していて、太陽の日差しを避けている。彼女は、人間と吸血鬼のハーフらしく、更に魔剣を愛している。常に魔剣を持っていないと死んでしまうと言っているが、それは嘘だろう。

 金色のショートヘアーで瞳は右目だけ赤で、左目は眼帯で隠している。どうやら、眼帯は目の力を封印するためのものらしいが、まったく力を感じない。


 それにしても堕ちる……堕天使になってしまうということか。

 天使は、罪を犯したり堕落した生活をしていると翼の色が黒く染まり天界に住めなくなってしまうと聞いている。

 今のところは真っ白なままだが。カトレアの言うとおり、このままだと堕ちてしまうかもしれない。


「その時は、そのままここで暮らすよー。毎日ゆる~く暮らしたーい」

「もうだめだね、この天使さん。天界に戻る気なんてこれっぽっちもないみたい」


 まったく、と赤い髪の毛を後頭部で結んだ少女レイラがため息を吐く。見た目は普通だが、彼女は龍人らしい。本来龍人とは、あまり人間とは関わらない存在らしいが、彼女は中でも未熟で力を制御するため試練ということで、人間と一緒に暮らしている。

 これまでも、何度も力の加減を間違えて色んなものを壊してきた。机も今ので何代目になるか数えていないと言っていた。油断すると龍化。つまりは、津のが生えたり、尻尾、翼などが生えることもしばしば。


「じゃあ、今すぐに堕ちる?」

「へ? どういうこと?」


 カトレアが席から立ち上がり、シルヴィを見下ろす。


「天使は片翼を斬られれば堕ちるって聞いたことがある。それに……私に魔剣で天使を斬ればこの子も喜ぶとと思うから」

「いや、あの……痛いのちょっと勘弁してほしい、かなーなんて。え? じょ、冗談だよね? 本当に斬ったりしないよね? え? なんでそんなヤル気満々なの? あのちょっと」


 今にもシルヴィを本気で斬ろうとしているカトレア。カトレアは魔剣を手にしてから、血を求めるようになってしまった。ただ、血を求めるだけで家族や仲間などには手を下したことはない。

 だから、あれは冗談。

 が、シルヴィはカトレアの圧に飲み込まれている。


「おーい。そろそろ授業を始めさせてくれないと全員に宿題出すぞー」

「さあ、授業始めましょう。先生」


 俺の言葉にスッとカトレアは着席。カトレアに脅されたシルヴィは……震えながらユーリに抱きついている。そして、抱きつかれたことでユーリが赤い目がとろんと垂れており、発情し始めていた。フェロモンを抑えていても、ああやって抱きつかれると本能が呼びこされるんだ。

 その横では、アイナが自慢とばかりに開発した魔法薬が入ったビンをレイラに見せたが、手に持った瞬間見事に弾けて地面に落ち、アイナが頭を抱え叫ぶ。 


「……本当、見ていて飽きない生徒達だな」

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