第十五話
久しぶりに、城の中を歩き、俺はどれだけ狭いところで働いていたのかと思い知らされた。いや、今ではあの狭いところが、俺としては日常になりつつある。
「改めて、この城の広さを知ったな」
「はい。毎日の清掃が大変です」
「でも、外をあまり駆け回れないから、これぐらいの広さのほうが私はいいですぅ!」
魔界でも、広々とした建物が当たり前となっていた。この城だって、親父が俺のために用意したものだ。結局、全然使っていないが。
王都へも赴いたので、こちらの世界の城は知っている。王城よりも、大きいんじゃないか? この城は、魔界でもまだ小さいほうなのだがな。やはり、世界も違うと色々違うのか……。
「アレン様、おかえりなさいませ」
「ああ」
食堂の前に立っていたメイドと挨拶を交わし、扉を潜って中へと入っていく。軽く二十人は座れるであろう長いテーブルに、豪華な料理が並べられている。中には、人間界で初めて食べた料理もあり、俺は思わず笑みを浮かべる。
「さっそく、人間界の料理を作ったようだな。いい出来じゃないか」
「はい。料理人達も、初めて見る食材や料理にやる気が上がりに上がっておりました」
「そうか」
人間界に来て本当によかったと思いつつ、自分の席に座る。
「ジレット。お前も座れ」
「よとしいのですか?」
「何を言っているんだ。いつも、共に食べていただろ?」
「そういうことなら、失礼致します」
確かに、ジレットは、俺の部下であるが、そこまで上下関係が厳しいわけではない。こうして、同じテーブルで食事をするのは魔界に居た時から当たり前のことなんだ。
そして、メルリィはいつも俺の隣に居る。
「では、さっそく頂こう。丁度、昼時だしな」
「はい」
「いただきますー!!」
ナイフとフォークを手に持ち、俺は丁寧に分厚い肉を切り分け、口に運ぶ。うん、いい肉厚。それでいて、軽く噛むだけで、綺麗に千切れる。
このソースは、魔界のものか? いや、少し違うな。人間界で味わったソースとの混合か? さっそく、アレンジしているみたいだな。
「アレン様。教師生活をして、もう一ヶ月は過ぎましたが、どうですか?」
「もちろん、楽ではないな。俺の生徒達は、やけに元気が良すぎてな……いつも、俺のことを困らせる」
「いいなぁ、私もアレン様の生徒と遊びたいですぅ」
「その内、紹介する。あいつらも、お前と会えば大喜びで遊んでくれるはずだ」
なにせ、常識破りな子達だ。メルリィを見たとて、そこまで驚くことはないはず。それどころか、興味津々で接してくれるだろう。
「わーい!!」
「よかったですね、メルリィ」
「うん!」
メルリィも、この城に置いておくのも限界だ。暴れたということは、そういうことなんだろう。メルリィは、魔界でも有名な魔獣だ。
種族名は、ナイトメアシルバーウルフ。その美しき銀色の毛には、全て魔力があり、装飾や防具などの素材によく使われている。そのため魔獣ハンターからよく狙われている。メルリィは、俺が魔獣ハンターから狙われていたところを助けたことで、懐かれこうして一緒に居る。
「ですが、よくぞご無事で。生徒の中には、天使も居られるので」
シルヴィは、天界から追い出されたが、俺とは違って永久追放というわけではない。その堕落した根性を叩き直すために人間界に落とされた。
なので、天界からはよくどんな感じなのか監視の目が来るのだ。そのため、ジレットは俺が天界の天使達から正体がばれないかと心配してくれている。
「何度かあったが、俺も馬鹿じゃない。悪魔だとばれないように、対応はばっちりだ」
おそらく、天界の者達には、俺が力の強い人間ぐらいに見えているだろう。それに、悪魔と言っても俺はそこまで異型ではない。
悪魔は、何種類存在し、その中でも俺は人間に近い姿をしている。なので、魔力などを隠すだけでも悪魔とは簡単にはばれないはずだ。
「天使かぁ。そういえば、天界には魔獣と似たような獣が居るんですよね?」
「ああ、天獣というのがな。簡単に言ってしまえば、天界の魔獣版というところか」
ちなみに、人間界には聖獣という存在が居る。これは、元々天界に住んでいた獣なのだが、人間界を監視するために天界から移住してきたらしい。
俺もまだ出会っていないが、いつかは会って見たいものだ。
「ごちそうさま」
「お口に合いましたか?」
「ああ。それにしても、これは張り切り過ぎたな」
半分は食べたが、俺もそこまで大食いじゃない。なので、テーブルには、まだまだ料理が余っている。
「申し訳ありません。アレン様が、帰還するということで料理人も。いえ、私達も張り切っていたんです」
「気にするな。これは、使用人達や兵士達に食べさせるとしよう」
「それはそれは。彼らもお喜びになるかと思います」
さて、食事も終えたし、これから何をするか。帰ってきたはいいが、特に何をするでもない。魔界に居た頃は、強くなるために特訓をしていたり、知識を集めるため読書をしていた。
教師になってからは、更に知識を集めるため王都などの大きな図書館で、多種な本を読んでいたが……。
「アレン様ー! 食後の運動しましょう!!」
「それも、いいかもな。よし、メルリィ! 行くぞ!!」
「はぁい!!」
メルリィも、力ある者なのに子供っぽいところはあいつらに似ているな。……そうか。俺が、すぐあいつらに慣れたのは、メルリィと接していたからなのか。
「どうしたんですかぁ? 早く外に行きましょう!!」
「ああ。だが、窓を突き破ろうとするなよ」
「はーい!!」
休みの日は、ここで過ごし、帰ったらあいつらとまた……。悪魔の王族として、世界を征服しようと昔から育ってきた俺が、こんなゆるい日常を過ごすことになるとは。
けど、こんな日常は、全然悪くない。
そんなこんなで、今作はこれで終わりです。
……はい、言いたいことはわかります。ですが、申し訳ありません!
試験的に書いたものなので、これで終わりなのです!
あ、次回作はもう考えています。もし、投稿した場合はよろしくお願いします。




