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第十四話

「今日こそ、お前達を倒してやる!!」

「ふふーん!! やれるものなら、やってみろ! 人間!!」


 あいつは元気だなぁ。やっぱり、テストもプリントもやりきったからか? それとも、明日から休日だからなのか? シルヴィとカトレア、ついでにアイナが隣のクラスの男子三人組と睨み合っていた。

 シルヴィとカトレアはわかるが、アイナは……ノリで付き合っているんだろうな。


 廊下の窓から見える、生徒達の元気な姿。

 トールは相変わらず、シルヴィ達と勝負をして勝ちたいらしい。まったく、怪我をしなければいいが。


「あぁ、またやってるっ!」

「ミーナ先生か。まあ、あれも一種の多種族の触れ合いって思えば。それに、何かあれば俺が止める。今日は、認めてやってほしい。あいつらも、そこまで馬鹿ではないはずだ」

「わかりました……あっ、そうだ! これよかったら」


 廊下の窓から、生徒達の戯れを見ているとミーナ先生が、俺に小さな箱を渡してきた。蓋を開けると、中には色んなおかずが入っていた。


「おかず、作りすぎたのでその……」

「ありがとう。ありがたく食べさせてもらう」

「は、はい!」


 やはり、一人暮らしともなれば、これぐらい作れて当たり前なのか? 俺も、彼女を見習って更に料理の腕を上げるか。


「どりゃああ!! 私の必殺ボールをくらえっ!!!」

「うおおお!? あ、危ねぇ……お前! 顔面狙っただろ!?」

「狙ってませーん。たまたまですー」

「この……!」

「あ、あの、あれ本当に大丈夫なんでしょうか?」


 あの天使め。俺の言ったことをまったく聞いていないようだな。少し、手加減をして子供と戯れる感覚でやれないものか。

 ミーナ先生が、心配しているから、そろそろ注意してくるか。


「おーい! そこの天使ー、いい加減手加減というものを覚えろー」

「来たな!! これでも、くらええええっ!!!」


 注意するために出て行った俺をロックオンし、仕返しとばかりに目を光らせ、ボールを思いっきり投げつけてきた。


「アレン先生!! 危ない!!」

「大丈夫だ」


 ミーナ先生の心配する叫びを背に、俺は天使の全力投球のボールを片手で受け止める。きゅるきゅると回転しているボールは、普通ならば皮膚が摩擦で剥がれてしまうだろうが、俺は魔力の皮膚で覆っているので、心配ない。


「す、すげぇ……」

「本当に、あの人何者なんだろう?」

「さあ? 普通じゃないっていうのは、わかるけどな」

「このおおおおお!! なんで、止められるの!? 片手っていうのが、またむかつく! ねえ! あんたって、種族なに!? 人間って絶対嘘でしょ!?」

「気にするな。そんな教えて欲しければ、俺に勝ってみせろ」


 ボールを軽くシルヴィへと投げ返し、もう一度来いと挑発する。そんな軽い挑発に、シルヴィは簡単にのってくれた。

 

「カトレア! ちょっと力貸して!!」

「やだ」

「あんただって、先生の正体知りたいでしょ!?」

「……はあ、しょうがない。一度だけ付き合ってあげる」


 一度は、断ったカトレアだが、俺の正体をどうしても知りたいらしく、シルヴィの持つボールに魔力を纏わせた。


「ついでに、私もほいっと」


 アイナはまたノリで二人に付き合う感覚で、魔力を重ねた。


「おー、これは、結構やばそうだな」


 魔力だけならば、カトレアとアイナは上位悪魔にも匹敵するだろう。そんな二人の魔力を同時に受けたボールを、あの天使の馬鹿力で投げつけられば……。


「お、おい! さすがに、それはやり過ぎじゃないか!?」


 と、トールもさすがにやばいと思い魔力の波動を見詰め叫ぶも、シルヴィは止まらない。


「後悔したって、遅いんだからねぇ!! 全力全開だああああっ!!!」


 放たれたボールは、当たれば大型の魔物でも一発で倒せるほどの威力だ。


「アレン先生ッ!?」


 先ほどよりも大きな声で叫ぶミーナ先生を安心させるために、俺は涼しい顔で拳を握り締め。


「まだ甘いな」

「ええええ!?」


 下から突き上げ天へと飛ばす。うーむ、やはり多少は痛いな。さすがは、二人の魔力が纏ったボールだ。痛いと思ったのは、久しぶりだな。


「よっと」


 天へと飛ばしたボールを無事キャッチし、驚いて開いた口が塞がらない生徒達へと俺はこう告げる。


「そろそろ休み時間は終わりだ。早く教室に戻って、次の授業の準備をしろよ」

「は、はい……」


 やり過ぎたか? だが、あいつらの教師を務める者として、あいつらよりも上でなければならない。これで、少しは俺へと敬意を示す、か? 







「久しぶりだな、ここも」


 今日は、学校が休みの日だ。それを利用して、俺は久しぶりに魔王城へとやってきていた。実際、俺は魔王ではないのだが、人間界からしたらこの城は、魔王城という認識なんだろう。

 今は、結界により姿を消しているため、俺が眺めているのはただの草原。

 だが。


「おかえりなさいませ、アレン様」


 一歩前に進めば、空間が歪み、目の前にどでかい城が現れる。俺の城を守っている結界は、認められた人間だけが通れるもので、認められていない者は、そのまま素通りすることになる。

 その場に城があるが、ぶつかることは無い。

 これは空間操作により作られた最上位の結界なのだ。


「ああ。それにしても、もう少し城の配置を考えたほうがよかったか?」

「いえ。これほどまでに、何もないほうが、全方位を眺められるので、このほうがよろしいかと」

「そうか。それよりも、メルリィは」

「アレン様ぁ!!!」


 出迎えてくれたジレットに、城で暴れたという俺のペットメルリィのことを問いかけた刹那。

 城のほうから可愛い声が響き渡る。

 

「おっと」

「会いたかったですぅ!! わおーん!!!」


 飛び掛ってきた大きな獣。銀色の綺麗な毛並みは、太陽の日差ざしで輝いており、とてもふさふさとしている。体長は、二メートルはあり俺は軽々と受け止めているが、普通の人間だったら押し潰されているほどだ。

 四本の足には、金の装飾があり、とある術式が刻まれている。金なので、重いと思われるだろうが、そこまでの質量はないので、軽々と飛び回ることも可能。そもそも、刻まれている術式が身体強化のものなので、金が重くても問題はない。


「メルリィ。ちゃんといい子にしていたか?」

「城壊しちゃいましたぁ! ごめんなさい! アレン!!」

「うんうん、謝れる素直な子は好きだ。それで? 壊したところは?」

「あちらになります」


 ジレットが指差すところは、城の一部の廊下。今では、修繕されているようでなんとも無いようだ。


「アレン様! アレン様!」

「なんだ?」

「早く、アレン様のお仕事の話聞かせて!!」

「ああ、もちろんだ。ジレット、他は?」

「中で待っております。当然、おいしい人間界の料理も用意しておりますので」

「わかった。じゃあ、行くぞ。ただいま、俺の城」


 今日は、あいつらの声が聞けないと思うとほっとすると同時に寂しい気がするな。これも、教師生活になったからなんだろうな。

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