第十二話
「よし、これでいいな」
「アレン先生。それって」
「ああ、見ての通りテスト用紙だ」
今日は、日ごろの勉強の成果を見るためのテストがある。今回のテストは、魔法知識についてだ。基本となる問題から、応用まである。
事前に生徒達には、テストがあることを伝えておいたが……果たして、しっかり勉強をやってきているのだろうか。レイラ、ユーリの二人は確実にやってきているだろうが、アイナとカトレアは怪しい。アイナは、真面目ではあるが、また魔法薬の実験などでテスト勉強を忘れている可能性がある。
そして、カトレアも真面目ではある。ただ、魔剣のことばかり考えているため底が心配だ。
(で、最後に一番心配なのが、あの天使……念入りに言っておいたが、果たしてやってきてるだろうか)
一番心配だったシルヴィには、他の五人以上にテストがあることを伝えた。
その時のシルヴィの言葉だが。
「わかってるってー。私だって、そこまで馬鹿じゃないよー」
とのこと。そんなゆるい返事に更に心配になった俺は、かなり! 念入りに言った。テスト勉強をするようにと……。
「そっちは、大丈夫か?」
俺のクラスだけではなく、ミーナ先生のクラスもテストがある。纏めたテストの束を手に持ちながら、彼女へと問いかけると、笑顔でテストの束を手に取った。
「はい。皆、授業中も私にわからないところを積極的に聞いてきたんです。テストに出る範囲もしっかり把握して、ノートに纏めて」
「それは、いいことだ。俺の生徒達も、そっちと同じ……いや、同じじゃ足りないか。まあ、以上は真面目になってくれればいいんだが」
「ふふふ。でも、今のあの子達は、すごく楽しそうに学校で過ごしてますよ?」
「教師としては、真面目差も欲しいところなんだがな」
とはいえ、俺も彼女達のおかげで楽しく過ごさせてもらっている。彼女達と関わることで、俺が今までやっていたこととは違った景色が見えてきている。まだ一ヶ月ちょっとの付き合いだが、もう随分と前から彼女達と一緒に凄しているんじゃないかと思えてきている。
……なんて、それは言いすぎか。だが、それだけ彼女達の影響が強いということだ。
「それじゃ、ミーナ先生」
「はい。それでは」
俺のクラスに到着したので、ミーナ先生と別れる。
がらっと戸を開けて、中に入ると。
「あっ! もうキタ!?
「……なにやってるんだ?」
さすがに真面目にテスト勉強をぎりぎりまでやっているだろうと躊躇無く教室に入ったが、それは容易に打ち砕かれた。
なにやら、カトレアとシルヴィが筆箱に隠した。俺は、眉を顰めながらも近づいていき、抵抗させる間を与えず、筆箱を奪い取り、中身を確認。
「……」
「えへへへ」
一番怪しいと思った消しゴムを取り出し、カバーを外す。そこには、案の定何かの文字が書かれていた。可愛らしく笑うシルヴィと、視線を逸らすカトレアだが、俺は容赦はしない。
「没収」
「そんなー!!」
「終わった……違う、違う。私は、やればできる子。天使には、とりあえず負けない自信があるッ!」
「わ、私だって、普段勉強してないからだめだけど。本当は、本気を出せばすごいんだから!!」
「それは、楽しみだな」
にやっとテスト用紙を見せびらかし笑うと、二人はいつもの元気がなくなる。まったく、やっぱりというか、なんというか。
「……アイナは?」
「ま、まだ来てません」
「今、来ましたー!!」
テスト用紙を配ろうとしたが、アイナがいないことに気づく。また遅刻か……と頭を悩ませたところで、寝癖を残したままアイナが到着。
「こんな時まで、いつも通りのお前で先生は安心した」
「あははは……」
「というか! 朝からテストっていうのが鬼畜!! こういうのって、普通はある程度時間が経ってからとか、午後にやるものでしょ!?」
大人しくしていたと思いきや、突然の咆哮。
「俺達の学校は、他と違うからな。それに、テスト日は最初からテストなんだぞ?」
「え!? そうなの!?」
「う、うん」
嘘だと思っていたらしいシルヴィに、、ユーリが肯定する。俺も、子供の頃は魔界学校に通っていた。そこでも、テスト日というものがあり、最初から最後までテストで埋まっている。なので、一時限目だけがテストというのは、まだ優しいほうだ。
「わかったら、座れ。テスト用紙を配るぞ」
「よいせ、よいせっと」
筆箱を取り出し、まだ寝癖を残しままアイナは席に着く。テストが終わったら、直しておくように言おう。
「心配するな。普段の授業をしっかり聞いて、勉強をすればできるものばかりだ」
「ぐぬぬ……! 最後のあかぎだぁ!」
テスト用紙を配ろうとしているのに、教科書を開き少しでも覚えようと必死になっているシルヴィだが、普段からちゃんと授業を聞いていないため、何をどう覚えればいいかわからないだろう。カトレアも同様で、ノートをぺらぺらと流し読みの要領で捲っている。
「そこまでだ。さっさと仕舞え」
「も、もうちょっと」
「だめだ。もう開始時間になってるんだ。さっさと始めないと、テストをする時間がなくなる」
今頃、ミーナ先生のクラスはもうテストを始めているだろう。こっちも、早く始めないと時間が刻々となくなっていく。
「……」
「……」
まったく言うことを聞いてくれない。
「没収」
「あー!!」
「横暴だ」
「そうだー! 少しは、優しさを私達に示せー!!」
「俺は、十分優しいだろ」
普通なら、すぐ没収されるはずだ。カトレアからはノート、シルヴィからは教科書を没収した俺は、テスト用紙をやっと配ることができた。
「全員に行き渡ったな? まだだぞ? おい、そこの天使。返そうとするな」
「ば、ばれた……」
「まったく……よし、じゃあ開始!」
開始の合図と同時に、全員がテスト用紙を捲る。静寂に包まれた空間で、ただただペンが文字を書く音が響く。俺は、誰かがカンニングしないように見張る。
こういう小刻みな音だけが響く空間は、嫌いじゃない。生徒達が、真剣に何かに取り組む姿というのは、いつ見てもいいものだ。
「うーん……」
「これは、こうだったかな?」
すらすらと答えを解いたいく生徒も居れば、そうでもない生徒も居る。特に苦戦しているのは、シルヴィだろうな。やはり、付け焼刃では無理だったようだ。隣の席のユーリは、特に苦戦することなくすらすらと書いている。
「すぴー……」
寝てる。
「アイナー、起きろー」
「ハッ!? す、すみません!」
さすがに今回の徹夜は魔法薬の調合でないと思いたい。それから、刻々と時間は過ぎていく。残り時間が、五分というところだが、シルヴィはまだ苦戦している。カトレアは、ぱぱっと答えを書いてそのままだ。開始前は、あんなに苦悩していたのに。
やはり頭のほうは悪くないようだ。アイナもアイナで、睡眠欲に負けず答えを書き込み、今は力尽きている。
「そろそろ時間だ。言っておくが、答えをしっかり書いていても、名前の記入が無ければそれで終わりだからな。ちゃんと確認しておけよ」
「ふおぉおおお!?」
「そこの天使。あまりうるさいと、減点するぞ」
そんなこんなで、終了時刻になった。
「終わりだ。ペンから手を離して、用紙を裏返せ。特に、シルヴィ」
「おわたー!!!」
と、ペンを投げ捨てる。あれは、やっと答えを書き込んでやり遂げた! なのか。全然解けず、終わったぁ……なのか。
「テスト用紙を回収するぞ」
本来ならば、後ろから前へと生徒達が持ってくるのだが、数が少ないので、俺自ら回収することにしている。
「返却は、明日のホームルームにする。しっかり、自己採点しておけよ」
「もう無理ぃ……」
「採点するまでもない。案外、答えを書けたからっ」
「私もぎりぎりでしたねぇ……ふへぇ」
「アイナちゃん、いつもより眠そうだね。テスト勉強で徹夜?」
「魔法薬の調合っす」
……これは、アイナもきつそうかもな。今から、採点するのが不安になってきた。




