5.妖精の頼み
「こ、ここは……」
俺は信じられずに、首をぐるりと回して周りを見た。へたり込んでいる俺を囲むように、石柱が円を描いて立っている。社会科で習ったストーンヘンジを思い出す。先史時代に作られたそれは、何のために作られたか、謎に包まれているという。
円の直径は100メートルほどもあるだろうか? 5、6メートルの高さがある石が30個ほども並んでいる。
あたりは、薄もやがかかっている。どうやら早朝のようだ。薄暗い丘の上に、石の柱が、静かに浮かび上がっているのだった。
「召還のための結界よ。この国のいたるところにあるわ。太古の昔に誰かが作ったみたい。でも、今ではもう、作れる人はいないの」
ポーティが言った。召喚? 召喚って何のことだ。結界って何だ。もう訳がわからない。
とにかく今知りたいことは……
「これが、夢じゃないっていうのか?」
「そうよ。実際にあなたの身体がこの国に転移したの」
そんな馬鹿な。そんなこと、あっていいはずがない、あり得ない。
あり得ないことは起きないはずだ。じゃあ、これは起きていないことなんだ。そうか、よかったよかった。俺は現実から逃避した。
「嘘だ嘘だこれは夢だ。まだ夢を見ているんだ! そうだろ?」
「時間がないんだから、だだをこねないで」
ポーティがたしなめるように言う。
俺は、頬をつねったり、息を止めたり、全身に力を入れてみたりしてみた。
本当はまだ寝ているんじゃないのか? 本当の俺はベッドにいるんじゃないのか?
だがどうやっても目は覚めなかった。
「マジかよ……」
「さあ、行きましょう」
妖精が言った。
「どこへ?」
俺は恐る恐る尋ねた。
「世界を救いによ」
そういえば、前に夢の中でポーティは言っていた。国が魔物に襲われて大変だ、とか何とか。国を救う勇者を探す、そのためにやってきたと。え、ちょ、ちょっと待った。
「魔物と戦うの?」
「そのために特訓したんじゃない」
ポーティは当然のように言う。
「あのシャービルと? 夢でさえ、あんなにおっかなかったのに、実際に、あれと戦えっての?」
俺は、想像してみた。あの歯だらけの魔物と、対峙している自分を。夢でなく、現実の世界で。
「無理だ」
俺は正直に言った。あんな化け物と戦うなんて、とても正気の沙汰とは思えない。本当に、あれが存在するのだとしたら、戦うなんて、馬鹿げている。ボクサーだってレスラーだって勝てそうにない。なのに、この、ただの一高校生の俺が?
「何言ってるの? あなたは勇者なのよ」
「何言ってるのはそっちだよ。俺はただの高校生だよ」
「…………」
妖精はうつむくと黙り込んでしまった。気を悪くしたのだろうか。心なしか、光が弱くなったようにも見える。
でも、だからと言って、俺に命を賭けてまで戦う義理はない。だって、知らない国の、知らない人々だ。関係のない俺が、どうして、そこまでやらなくちゃならない?
いや、そもそも……
「本当に、人がいるの? ここ」
妖精は、顔を上げると言った。
「会って。街へ連れて行くわ」