44.賭け
「……おい、魔王。今、この場は世界中に配信されている。みんなが見ているんだ。何か言いたいことはあるか」
老人がその言葉を訳すと、魔王は妙な音を立てた。シャービルの悲鳴よりも耳障りな音。どうやらあれが笑い声らしい。
「面白い。よく聞け」
老人が話す。
「この世界は気に入った。壊しがいがありそうだ」
「みんな! こんなやつの言いなりになっていいの? 世界をめちゃくちゃにされて、それでいいの?」
ほたるが叫ぶ。しかし……。
「ハハハ! 馬鹿め。逆に、神の力が増大しておるわ!」
「そんな……」
ダメか……。ここまでなのか。俺の賭けは、失敗に終わったのか?
「さあ、もっと力を寄越せ。人間ども」
人間ども? 俺は、思った。もしかしたらいけるかもしれない。
「人間どもよ。私の奴隷になるか、死ぬか、どちらかを選べ。死にたくないものは、私に力を送れ」
いいぞ。もっともっと調子に乗れ。
「どんどん祈れ。愚かな人間どもよ。死にたいのか? よし、まず見せしめにこいつらを殺してやろう」
「八神、どうだ」
「フォロワー1万人突破! 完全にバズってます!」
シャービルが動く。襲いかかる準備をしているのだ。
俺は腕に力を込めてみた。シュウっと音を立て、青白い光が両腕に現れる。
「ひかり」が、僅かだが発動したのだ。やった! きてるぞ。
突進してくるシャービルを避けながら、攻撃を放つ。
「何! どういうことだ」
老人が驚いて叫ぶ。
「先輩! 魔王叩きが始まった! 『魔王』のアカウント、炎上してます」
八神が嬉しそうに言う。
「力が戻ったのね、セイヤ!」
ポーティが俺の頭の横へ来て言った。
「ああ、そうみたいだ」
俺は、老人と魔王に向かって、
「お前らには、人間ってものがわかっちゃいないんだよ」
話したって、理解できないだろうな。そう思いながら俺は言った。
「何を言っている。『理解』する必要はない。神は『命令』するのだ」
馬鹿なやつだ。墓穴を掘っているのが全くわかっていない。俺は叫んだ。
「愛と応援は強制して手に入れることはできないんだ!」
だが、俺の言葉なんか聞いちゃいない。……それでいいんだ。
「何をしている、クズども! とっとと力を寄越せ、この役立たずが」
「あーあ、言っちゃった」
俺は呆れ返って言った。やっぱり、こいつ、わかってない。
「クズ? 役立たず? とっとと力を寄越せだって?」
「やった! 『魔王』がアカウント、削除しました!」
そう、こいつらには人の気持ちがわからない。そのことが、みんなには、わかった。
そういうことだ。
「お前さ、あんま……」
両手に精神を集中しながら、俺は言った。
「フォロワー、なめんなよ?」
シャービルが、一斉に飛びかかってくる。
魔王も、両手を開き衝撃波を放つ。敵の総攻撃だ。しかしそのとき。
力が、完全に、戻った。
それどころか、今までよりも、数段強くなっている。発動した「ひかり」は、目がくらむほど強く輝いていた。
いけるはずだ。これが人間の願いならば。魔王を倒すことがみんなの望みならば。
大きな、ひかりの刃が回転し始める。俺は、渾身の力を込めて、それを放った。
「みんな、祈ってくれ。俺もみんなのために祈る」
俺は目を閉じる。
「ひかり」の光があたりを包んだ――。




