43.最後の戦い
俺たちは、また、階段を上がり始めた。
「おっ」
八神が声を上げる。
「先輩! フォロワー増えてます、500人突破しました」
「そうか、よかった」
「コメントも増えてます。読み上げますね」
「これ、特撮か?」
「何かバケモン出てきたんだけど」
「すげー迫力だな」
「バケモンキモすぎ」
「バケモンコワすぎ」
「ハンバーガーうまい」
「さっき一瞬、妖精みたいなの映ったぞ!」
「何だよ、ハンバーガーって」
いい気なもんだ。俺は思った。きっと、みんな、飯でも食いながら、この配信を眺めてるんだろうな。
俺だって、できればそっち側に回りたかった。
「くそっ」
俺は毒づかずにはいられなかった。俺の前には大量の化け物がいて、それで力も消えてしまって、爆死必至ときている。
そのとき、隣を歩くほたるが目に入る。涼子が、八神が、ポーティが。
俺には仲間がいる。俺には仲間がいて、それで皆、俺の力になってくれる。
そうだ。これは俺だけのためじゃない。ここにいるみんなと、ここにいないみんなのためだ。みんなのためなら頑張れる。
進むしかない。もう、後戻りはできないのだ。
*
最上階にそいつはいた。
ワンフロア全体をぶち抜いた、だだっ広い部屋。その薄暗い部屋で、俺たちを待っていた。
黒いマントを身に纏い、背を向けて立っている。周りにはおびただしい数のシャービル。隣には、白髪の老人が立っていた。顎髭を長く伸ばしたその老人には、口が二つある。
「お前が魔王か」
俺が言うと、隣に立っている老人が口を開いた。
「口を慎め。神の前だぞ」
「馬鹿言ってんじゃねえ。誰が神だ」
黒マントの男が何かを喋る。聞き取れなかった。
「お前が、ヌースを倒した者か」
老人はどうやら通訳をしているようだ。魔王はこちらの言葉を喋ることができないらしい。
「あなただってセイヤが倒しちゃうんだから!」
ポーティが叫ぶ。
「そうよ! 晴夜くんにかかったらあなたなんか……」
ほたるはネコの着ぐるみの頭を取って投げ捨てる。
「ちょちょいのちょいなんだから!」
他のみんなも、頭を脱いだ。八神は、顔が写らないよう、後方から撮影する。
魔王がまた何か話す。老人はあざ笑うように言った。
「力もないのに、威勢のいいことだ」
くそっ、ばれている。俺は臍を噛んだ。
「……八神、視聴者、増えてるか」
俺が訊くと、八神が答えた。
「うなぎ昇りです。フォロワー数、1271! あの化けもん、本物かって話題になってます。それに、一瞬、明月ほたるが映ったって」
俺は祈った。もし、俺の考えが正しければ……。
「あと英語とか、フランス語の書き込みも増えてます!」
「お前たちの望み通り、世界を混沌に陥れてやろう」
俺たちの会話を無視して、老人は話し続ける。
「望み通り? 誰もそんなこと望んじゃ……」
八神が言いかけたとき。
魔王が振り向き、右手で空を払った。
凄まじい衝撃波が俺たち全員を吹っ飛ばした。背中を打ち付け、痛みに呻く。……桁違いの魔力だ。
「うるさいぞ。神が話している途中だ」
そのとき、魔王の顔が見えた。ぱっと見、人間のようにも見える。だが、それはやはり人間のものではない。
青白い肌に、目と口だけが、異様なほど真っ赤に浮き上がっている。
「八神、望んでるんだよ。みんな望んでるんだ」
俺は言った。
「え?」
「そもそも、みんなが望んだから魔王が現れた。そしてここへやって来た。力ってそういうものなんだ」
「どういうこと?」
涼子が言う。
「ポーティが初めの頃、俺に言ったことがあったんだ。これは――『ひかり』は、精神の力だと」
「わからないわ。どういうこと?」
ほたるが言った。
「俺自身の精神力を指しているのか、と思った。でも違う。それは世界中みんなの、祈りの力だったんだ」
「つまり?」
涼子が言う。
「つまり、俺から力が消えたのも、ヤツの力が巨大になっているのも、みんなの望みなんだ」
「よくわかっているじゃないか、小僧」
老人は言った。
「その通りだ。人間は、世界の終わりを望んでいる。我が神がそれを叶えてくださる」
「そんな! そんなのって……」
ほたるは泣き出しそうだ。
「仕方ないよ。それが人間が決めた未来だ」
そう言うと、俺は立ち上がり、魔王に向き直る。
そして俺は最後の賭けに出た。




