40.行軍
電車乗り換えのため俺たちは歩いていた。
新幹線で行けるのは、ここまで。ここからは在来線とバスを乗り継いで行くしかない。
新幹線でも注意されたが、着ぐるみでバスに乗るのは、やっぱり無理かな……。また配信を一旦止めなきゃならないだろうか。俺がそんなことを考えていると、八神が言った。
「先輩、質問コメ結構きてます」
「何だって? 米……?」
「質問コメントですよ。俺たちが何やってんのか知りたがってます」
「そうか」
俺はまた、朝したのと同じ説明を繰り返そうとする。
「ええ、みなさん、これは、昨今起きている正体不明の傷害事件や失踪事件の犯人を……」
しかし、まだ途中だというのに、八神が遮る。
「先輩、かたいっす」
「かたいよー」
と、ほたるも言う。
「……ええ?」
水をさされて俺はイラッと来る。挨拶しろって言うからしてるのに……初対面の人への挨拶なんて、多少かたくなるのも当然じゃないのか。
「じゃあどうすりゃいいんだ」
するとほたるがカメラの前に走り出て、元気よく言った。
「みんなー。バケモノ退治に行くよー! 見ててねー」
「あ、いいすね」
八神が褒める。俺は呆れる。
うそ。挨拶って、そんなんでいいの?
「いや、軽すぎないか?」
「こんな感じでいいの。みんなよろしくー」
ほたるがカメラに向かって手を振る。
よろしくー? ちょっとフレンドリー過ぎないか。いつからみんなと友達になったんだ。配信って、どれもこんな感じなのか? 俺が疎いだけ? これじゃ八神のこと、おっさんくさいなんて言えない。
俺が落ち込んでいると、
「私も映ろう」
涼子も出てきて、
「にゃあ~」
とポーズをとる。
「かわいいかわいい」
「…………」
だめだ。俺はため息をつく。ちょっと、このノリにはついていけない。
と、とにかく。
これでフォロワーが増えるんなら、まあいいか……。俺があきらめ気味にそんなことを考えていると、
「ねえ、私も出たい」
と声がする。
「ダメだ。お前が出たら、大騒ぎになっちまう」
俺はポケットの中のポーティに小声でそう言う。
俺たちがやろうとしていることを、ポーティに説明するのは骨が折れたが、一旦理解すると妖精は大いに興味を示した。この世界の魔法はすごい、と感激して飛び回ったものだ。
「視聴者が増えるのはいいんだが、さすがに妖精が出たら、魔王のところに行く前に、俺たち捕まるかも」
「……つまんない」
それでも、と思う。最後の手段として、ありかも知れないな。ポーティの出演も。
妖精が語りかければ、みんな信じるかもしれない。魔王の存在を。
だが、今のところ、まだポーティを映すわけにはいかない。
まず魔王が何をしようとしているのか、どんな奴なのか暴かないと。
それに、俺の考えが正しければ――。
「なにぼーっとしてるの?」
涼子が訊いてくる。
「いや、何でも」
とにかく、魔王のところに行かなければ。ヤツを見つけるまで旅は終わらない。逆に言えば、ヤツの元へたどり着いた時に、全てが……。
「こっちで合ってるんだな」
俺が確認すると、
「うん」
「合ってる」
ほたると涼子はそう答えた。
「そうか」
何はともあれ、近づいている。
視聴者は、きっとまだ気づいていない。
それは、俺たちにとって、命の危険すら意味するということを。




