39.生配信
「落ち着け。配信はできるか」
「はい、まあ」
八神はようやく正気を取り戻したようだが、まだ興奮気味だ。
「いちおう、テストはしてあるんですけど、もう一回確認したいんで……」
そう言うと八神はスマホを取り出した。
「先輩、挨拶お願いします」
「え? あ、あの、どうも、よろしくお願いします」
いきなりカメラを向けられてしどろもどろになる俺。
「なに緊張してんすか、先輩。着ぐるみ被ってるのに」
「うるせえ!」
こほん、と咳をして、俺は話し始めた。
「……あの、最近、街なかで起きている、犯人不明の失踪事件や傷害事件。あれ、人間の仕業じゃないんです。えと、それでその親玉をこれから倒しに行きます」
「わ、映ってる。晴也くん映ってるよ」
ほたるが自分のスマホを確認しながら言う。
「いや、あの、名前呼ばないで……」
俺は慌ててそう制する。誰だかわからないように着ぐるみを被っているのに、名前を呼んだら意味が無い。
この中じゃ、一番撮られ慣れているはずのほたるだが、案外、抜けているところがあるみたいだ。
「あ、そうか。ごめん晴也くん」
「…………」
わざとじゃないよね?
午前9:30、「魔王倒しに行きます」、とコメントして、生配信を開始。
アカウント名:「ネコ勇者一行」。
フォロワー数:ゼロ。
「八神……、ゼロはまずい」
「始めたばかりだから、まだ誰も見てないんすよ。当然す」
そういうもんなのか。まあ、まだ朝だしな。
……いやそれにしても、ゼロはないわ。
大体、俺のさっきの挨拶は何だったんだ。
「これホントに増えるのか?」
「それはわかんないす」
と、頼りない返事に心配になるが、俺は言った。
「……まあとにかく出発しよう」
9:40。街なかに繰り出す。
「ねー、ちょっと歩きにくいね」
「視界が狭い……」
「ネコの着ぐるみって結構暑いんだな……」
などと言いながら歩いていると、
「あ、ネコさんだ!」
と声がする。目ざとい子供が、早速俺たちを見つけて近寄ってきたのだ。
「ネコさんー」
「にゃあ~」
「こんにちわだにゃあ~」
ほたると涼子は楽しそうに相手をしている。
周りを見ると、結構人がいて、物珍しそうにこっちを眺めている。
案外、この格好、注目を集めているようだ。
「先輩!」
八神が言う。
「何だ」
「視聴者増えてきてます」
「いいぞ。何人だ?」
「視聴者数、7。フォロワー数、1」
「しょぼ!」
ほたると涼子が同時に叫ぶ。
「それじゃだめだ。もっと話題にならないと」
「話題ですか」
「歌でも歌ってみる?」
「あっ、ほたるさんの歌、聞きたいっす!」
八神が熱を込めて言う。
「ありがとう。でもやっぱ『踊ってみた』の方がいいかな? ネコが踊ってたら、かわいくない?」
「あ、かわいいかわいい。それやりたいー」
ほたるの言葉に涼子まで乗ってくる。
「お前ら、これから命がけの戦いに行くんだぞ」
和気あいあいと行軍は続く……。
9:50、ネコ4匹が街を行進しているシュールな映像が受けて、視聴者数・フォロワー数が飛躍的に伸びる。
「フォロワー100突破しました。結構受けてますよ。これで、本当に魔王が出れば……」
「出るさ。それが生で配信されたら、きっと警察だって動くだろ」
「狙い通りですね」
「え?」
「えって、それが生配信の狙いなんでしょ?」
「ああ、まあな……」
俺がもごもご言っていると、
「くそ、何だよコレ!」
八神が急に声を荒げた。
「どうした?」
「貼られたリンクを辿ってみたら、SNSに『魔王』、ていうアカウントができてるんです。誰だよ!」
「それで?」
「フォロワーがどんどん増えてる……。魔王は世界を変えてくれる。私、魔王様を信じてる? ……ふざけんな!」
八神は怒り心頭だ。
確かに良い気持ちはしない。魔王は俺たちの敵だ。何故それを応援する?
みんな、世界の平和を願っているはずなんじゃないのか。そう信じたかった。
……だが、この結果を見ると、案外そうでもないみたいだ。
ネコ勇者応援派と、魔王応援派。一体、どっちが勝つのだろうか……。
10:40、電車で移動中。
乗客がじろじろと見てくる。なるべく知らない顔を通す。
大人は遠慮して何も言ってこないが、子供は物怖じせずに、着ぐるみに触ってくる。
涼子たち女子は、子供の頭を撫でたりしてうまく対応しているが、俺と八神は、
「やめなさい」
と必死で子供の手を払っていた。
「先輩ー、フォロワー減ってますー」
「画変わりしないからなあ」
「景色でも撮っときますか」
八神がカメラを外へ向ける。
車窓をびゅんびゅんと家々が通り過ぎて行く。
俺たちは順調に、魔王の元へ近づいている。
そして順調にフォロワー数は減っていた。




