38.悶絶
午前9:00。
俺たちは、ネットカフェに集まっていた。ここなら駅が近いし、更衣室がある。とある理由から服を着替えなければならなかった俺たちには、うってつけだった。
更衣室の前で俺が待っていると、
「先輩、おはようございます」
と、やってきたのは八神一だ。
「ところで先輩、何で生配信が必要なんです?」
現れるなり、八神はそう訊ねてきた。それにしても約束の時間より大分早い。ニコニコ顔の八神は、走ってきたらしく、息が弾んでいた。
こいつにだけ、時間を遅く伝えてよかった。しかし、よっぽど今回の旅が楽しみなようだ。こいつ、本当に何しに行くかわかってるのか?
「いくら警察や自衛隊に電話しても、信じやしないだろうからな。生配信すれば、動くかな、と思って」
そう、魔王を倒すとなれば、警察や自衛隊の力が必要かもしれない。しかし実際その存在を証明できなければ、動いてくれるとは考えにくい。
あの女性記者の力を借りる、という案もちらりと浮かんだが……やはり正体を明かす危険は冒せない。
「なるほど! いい考えすね」
八神は納得したようだ。
「ところで、パソコンとかカメラは要らないのか」
「今どき、これさえあれば配信できるんすよ」
八神は自慢げにスマホを構えた。
「そうなのか? すげーな、最近のテクノロジーは……まだ始めないでくれよ、準備があるんだから」
「準備?」
「ああ。とりあえず、仲間を紹介しないとな」
すると、更衣室のドアが開き、ネコの着ぐるみを着た涼子が出てきた。頭部は手に抱えている。
「まずはこいつ」
「こいつとは何よ」
「涼子先輩! 先輩も行くんすか。つうか、何でネコ……?」
八神が驚く。
「そう。ちなみにこいつも能力者だ」
「え? え? 涼子先輩が、能力……?」
面食らっている八神の元へ、奥から、もう一体ネコの着ぐるみが姿を現した。今度は頭もちゃんと被っている。
「ねえ、これすごく暑いよー」
「またネコ?」
八神の頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるのが見えるようだ。俺は説明する。
「顔がバレないように、着ぐるみを着て行くんだ」
「顔、バレたらマズイんでしたっけ」
「魔物と一緒に映ったりしたら、色々面倒だろ」
「なるほど」
ようやく納得する八神。
「で、これ誰です?」
今出てきた着ぐるみを指さして八神が訊く。
「お前も知ってる人だよ」
「え、誰だろう……。当てますよ。うちの生徒っすか」
「ちがう」
「え? 生徒じゃない? じゃあ、えーと」
「もういいよ。絶対当たらないから」
「?」
不思議そうな八神の前で、ネコの着ぐるみが頭に手をやる。
次の瞬間、着ぐるみの頭部を取ったその顔を見て、八神は叫んだ。
「あ、明月ほたる!」
「君が八神くん? よろしくね」
「な、何がどうなって……」
八神は目を白黒させている。当然だろう、大ファンだった、歌手の明月ほたるが急に目の前に現れたのだから。
「ちなみに、彼女も能力者」
俺がそう言うと、八神一は悶絶した。




