37.もう一人
「いた」
ようやく見つけた。教室にいない、と思ったら、そいつは校庭の隅のベンチで寝転がっていた。
「おい八神」
俺が声をかけると、八神一は眠そうな顔で起きあがった。
「何すか、先輩。超能力の告白に来てくれたんすか」
「そうだ」
「……えっ?」
八神は上半身を起こし、期待に満ちた目で俺を見る。
こいつ、前々から、俺が何か隠していると疑っていたからな。
ずっとごまかしてきたけれど、今日は本当のことを言ってやろう。
「俺は特別な力を持つ勇者だ」
鳩が豆鉄砲をくらったような顔の八神。
俺は思わず噴き出しそうになるが、我慢する。こういうのは、真顔で言った方が面白い。
「今、異界から魔物が転生してきて、大変なことになってる」
「何だぁ。ふざけてるんすか」
急速に興味をなくした様子の八神は、あくび交じりにそう言った。
「これから、魔王を倒しにいくんだ」
「つまんないす先輩」
そう言い捨てると、八神はまた、ベンチに横になりかけた。
「何だよ、せっかく本当のこと言ってるのに」
「…………」
八神は完全にすねてしまった。
仕方ない。あんまりからかってもかわいそうだ。
そろそろ本当に教えてやろう。俺は言った。
「こいつは妖精のポーティ」
「はじめまして」
俺の胸ポケットから出てきた妖精を目にするや、八神はベンチから転がり落ちた。
*
「ま、マジで妖精だ。生きてる……」
八神は完全に眠気が覚めたらしく、まじまじとポーティを見つめている。
「もういいでしょ。いつまで見てんのよ」
「ご、ごめんなさい」
妖精に叱られ、八神は目を逸らす。が、まだ横目でちらちらと様子をうかがっている。
俺は、ポーティが八神以外の人間の目にとまらぬよう、体で隠す。
「じゃ、さっき話してたのは全部、本当?」
「そうだ」
「謎のヒーローは、先輩ってこと?」
「そうだ」
八神はまたぶっ倒れそうになっている。俺が支えてやると、ふらふらしながら、八神は訊いてきた。
「先輩、本当に魔王を倒しに行くんすか」
「ああ、そうだ。……それでお前に頼みがあるんだが」
「はい?」
「その様子、生配信したいんだ」
「えーっ?」
素っ頓狂な声を上げて、八神は訊き返してきた。
「マジですか」
「ああ。……無理か?」
「すぐ用意します。いつ出発っすか」
「できるんだな。だが、お前は来るな。やり方を教えてくれればいい」
「馬鹿言わないでください。俺がいなきゃ、先輩じゃ無理です」
「死ぬかもしれない……いや、おそらく死ぬぞ」
「わかってないすね」
八神は言った。
「こんな面白そうな話、乗らなかったら、それこそ死んでも死に切れませんよ」
八神は、真面目な顔で冗談みたいなことを言う。
いくら押し問答しても、八神一の意志は変わらなかった。
「もう、勝手にしろよ馬鹿」
「やった!」
八神は飛び上がらんばかりに喜んだ。
「いつ出発するんすか」
ウキウキ顔で八神が訊ねてくる。まるで遠足の日にちを知りたがっている子供だ。
俺はため息をついて、訊いた。
「いつ準備できる?」
「すぐできますよ」
間髪入れずに八神が答える。
「じゃあ、出発は、次の休みだ」
俺が言うと、八神は満面の笑みで、
「わかりました。それまでに遺書、書いときますよ」
「……ギャグか本気かわからんぞ。もっとわかりやすいの頼む」
すると八神は言った。
「合点承知の介!」
うーむ。こいつ、おっさんくさい上に、覚悟が足りん……。




