3.級友
学校はいつもと変わり映えしない。
とにかく、これは授業が終わることを祈り続ける苦行だ。そう思って耐えるしかない。だけど、こんなこと後何年続ければいいんだ? 暗澹たる気持ちで、俺は数時間を過ごした。
そんなこんなで放課後。
俺は夢のことを考えていた。
毎晩、同じような夢を見るのは、やはり変じゃないだろうか。俺はどこか、おかしいのか?
もう、かれこれ一か月以上も、あの夢を見ている。妖精と、戦闘の特訓を行う夢。
俺はため息をついた。かと言って、病院で相談するようなことでもなさそうだし……。
「夜白先輩~」
考え事をしながら歩いていると、後ろから話しかけてきたのは、背の低い、栗毛の男子だった。一年後輩の八神一だ。
「先輩、何か面白いことないすかー」
「ねぇーよ」
「ないすよねー。鼻白むなー」
「何でお前は俺につきまとうんだ」
「面白い動画とかもないすか」
八神は俺の質問に答えずにそう言った。
「お前の方が詳しいだろ、そういうのは」
八神はITオタクで、最新の情報に精通している。ネット界隈で八神が知らないことを俺が知っているはずもないのだ。
「そういえば、先輩も星屑アトランダム聞きました?」
「な、何だって?」
急に耳慣れない単語が出てきたので、俺は思わず訊き返した。
「星屑アトランダム。明月ほたるの新曲」
「ああ、明月ほたるね……」
明月ほたるは、今中高生を中心に人気のある女性歌手だった。俺のクラスでもほとんどが彼女のファンらしい。
「名曲っすよ。聞いてみてください」
「ふーん。八神は、明月ほたる好きなの?」
「嫌いな人いるんすか。めっちゃかわいいし。同じ人間とは信じられないっすよねー。俺の一コ上だから、先輩と同い年じゃないすか?」
「そうなの?」
「そうなの、ってなんすか。鼻白むわー」
「その鼻白むわーって流行ってんの」
八神はまた答えずに、「鼻白むわー鼻白むー」と言いながらどこかへ行ってしまった。何なんだあいつは。
「夜白は男にモテるわね」
今度はショートカットの女子が話しかけてきた。
「全然うれしくねーよ」
それは、同級生の逢坂涼子だった。こいつとは、クラスメートなだけでなく、幼稚園からの知り合いだ。よく言えば幼なじみ、悪く言えば、腐れ縁ってやつだ。
「夜白さあ、最近疲れてない?」
「え?」
「何か考え込んでることが多いみたいだけど、何かあった?」
おお、さすが幼なじみ。と思った。
俺が悩んでいることを、いとも簡単に見抜いているとは。
そこまでばれているのなら、相談しようか、とも思ったが……。
「別に何もないよ」
と、妙に強がってしまった。
「ふーん、そう」
「うん」
「ま、何かあったらいいなさいよね。あんたのことは、お母さんからも頼まれてるんだから」
ちぇっ。母さんも、涼子に頼まなくてもいいのに。
幼なじみは、親のことまで知っているから面倒だ。そう思った。
帰りにゲーセンへ寄った。
プリクラの筐体に、見覚えのある顔がプリントされている。明月ほたるの写真だった。
「この髪、学校にしてきたら叱られるだろうな」
セミロングの明月ほたるの髪は、金色に染められていた。まるで外国人みたいだ。
「同い年ねえ」
俺と同い年で、プリクラとのタイアップまでしてるのか。うらやましいを通り越して、感心してしまった。住む世界が違うというのだろうか。
俺はおもむろにUFOキャッチャーのコーナーへ足を向けた。
何となくやってみると、百円でカプセルをゲットすることができた。
「おっ、ついてるかも」
何が入っているんだろう? カプセルを開けると、そこに入っていたのは腕時計だった。それ程悪くないデザインだが、問題は文字盤にでかでかと入っているメーカー名だった。
「PEMOI……」
「ぎゃはは!」
突然後ろから現れたのは、クラスメートの藤井だった。俺の取った腕時計を見て爆笑している。
「ペモイ! 夜白がペモイの時計取ったー!」
藤井はずっとペモイペモイと連呼している。
俺は、憂鬱な気持ちで家へ帰った。
やはり、ついてない。
とっとと帰って、飯食って風呂入って寝よう。