20.非日常
涼子や八神の言う通り、どうも最近たるんでいる。学校は遅刻するし、授業中眠り惚けて、先生に大目玉をくらう始末。
俺自身、わざとやっている訳ではないのだが、確かに何か気が抜けてしまった感じがする。
まあ、あんな大冒険から帰ってきたばかりなのだから当然かもしれない。ついこの間まで、俺は異世界で魔物と戦っていたのだ。命をかけて、人々の思いを背負って。まあ全て夢だったのかもしれないけど。
それが、急に退屈な毎日に送り戻されてしまったのだから、そのギャップに体がついていかないのだ。時差ボケ、みたいなもんかな。
「ポーティのやつ、元気でやってるかな」
なんとなく、そんなつぶやきが漏れる。元気だけが取り柄みたいな妖精だから、きっと大丈夫だろうけどな。
悪かったわね! というポーティの声が今にも聞こえてきそうだ。何だかなつかしい。数日しか経っていないのに、もう何ヶ月も会わないような気がする。
そんなことを考えながら俺は道を歩いていた。時刻は五時四十五分過ぎ。夕闇が街に降り始めたころ、特に何を買うあてもなく、ぶらりと近くのコンビニへ散歩に出たのだった。
角を曲がった途端、違和感で足が止まった。
暗闇で奇妙な影がうごめいている。
それは人間ではなかった。人間どころか、地球上のどんな動物とも似ていない。歯だらけの大きな口。うろこの生えたドラム缶のような体に、二本の足。
映画の撮影。とっさに浮かんだのはそんな言葉だった。しかし。
――あれは作り物なんかじゃない。
全身の毛が逆立つ。危険だ――。
そいつは身構える間もなく躍り掛かってきた。
必死で俺は横へと転がる。がちん、と頭の近くで歯が噛み合わされる音がする。
間一髪避けたのもつかの間、すぐに化け物は俺の方に向き直り、また突進してきた。大きく開けた口には、涎が光っている。鋭い歯が肉を切り刻もうと、不気味に噛み合わされている――。
やられる。そう思った瞬間。俺は右手でなぎ払った。敵が苦痛のうなりを上げる。
そう、俺は無意識のうちに「ひかり」を発動したのだった。
「ひかり」は、見事に命中した。続けて左手でもう一撃。相手の頭部を真っ二つに割るように、「ひかり」が突き刺さった。耳障りな声を立て、そいつが倒れる。
「危なかった……」
俺は起き上がり、その残骸を見下ろした。信じられない思いで一杯だった。
「これは、シャービル……?」
間違いない。この醜悪な見た目を忘れるはずがない。
「どうなってるんだ? こっちの世界にシャービルが出るなんて……」
それに、今俺は「ひかり」を使った。この力を使えるのはあっちの世界だけだと思っていたのに……。
ばらばらになったシャービルは、次第にしなびていき、そして消え去った。
後に残されたのは、突進するときシャービルの立てた爪の跡だけ。
俺は、ふぅーっと長く息を吐きながら、思った。
何かわからないが、異常なことが起きている。
肌寒さを感じ、ぶるっと身震いすると、どこかで犬の遠吠えが聞こえた。




