16.グレイグトー
また岩の化け物の拳が繰り出される。俺は必死で頭を伏せる。棺が砕け、残骸が飛び散る。あえぎながら見上げると、今度は化け物の足が見えた。――踏みつぶす気だ。
「あぶない!」
俺は横へ転がる。化け物の足が振り下ろされ、棺が木っ端微塵になる。俺は青くなる。あれが俺だったかもしれないのだ……。
息つく日まもなく、岩の化け物は、棺を踏みつぶしながらまた迫ってくる。
俺は走りながら、振り向きざまに「ひかり」を放った。
腹部に命中した……はずだった。だが、化け物はびくともしない。そのまま意に介さないように突進してくる。
「うあーっ!」
またスレスレで避ける。頭の斜め上で、「ブンッ」という空を切る音が聞こえる。
このままでは、いつかやられる。何とかしなきゃ。だけど一体、どうやって戦えっていうんだ。「ひかり」が効かないっていうのに――。
「ちょっと待てよ?」
俺はあることに気づく。
「あの一帯だけ棺が無傷なのは何でだ?」
俺の視線の先に、岩の化け物の攻撃を一切受けていない区画がある。あの辺だけ化け物が通っていないということだ。これは偶然なのだろうか。それとも……。
とっさに、俺は転がっているランプを確認する。ランプがサーチしているのは……。
「ヤツじゃない!」
「なんですって?」
ポーティが驚いて叫ぶ。
「ランプの光がヤツを指していない。あれはただの木偶だ!」
「じゃあ、本体は別にあるってこと? 一体どこに……」
ランプの光の指している方向。それは無傷の棺のある方向だった。化け物はそこを避けて通っている。
俺はその方向へ駆ける。足をもつれさせ、転ぶ。化け物の拳が迫る。
「こっちよ!」
ポーティが化け物の顔の周りを飛んで気を逸らしている。化け物は、蚊かハエでも払うように、ポーティを追う。
俺は立ち上がり、棺へ急ぐ。
ひとつだけ、蓋が少しだけ開いている棺がある。中を確認する。俺は叫んだ。
「ナメクジだ!」
「ヌースのこと?」
ポーティが訊き返す。
「何で光がこいつを指してるんだ? こいつには魔力はほんの僅かしかないって……」
ポーティが飛んできて棺を覗き込む。
「これは……グレイグトー!」
俺も横から覗き込むと、ナメクジは赤い宝石のようなものにへばりついていた。
「何だよそれ」
「いにしえの宝よ。魔法のルビー。魔力を増幅する力を持つの」
「そういうことか」
このナメクジの魔力が、ルビーによって大幅にパワーアップしてしまったんだ。魔王の正体は一匹のナメクジだった、というわけか。
そのときだった。荒々しい足音を立て、岩の化け物がこちらへ向かって突進してきた。
「はやく! そいつをルビーから引き剥がして!」
「そんなこと言ったって……」
俺は棺の隙間から手を突っ込んだ。あと少しのところで届かない。顔を上げると、化け物は目の前まで迫っている。
「もうだめ!」
ポーティが叫ぶと同時に、俺はナメクジ野郎をつかみ取った。
化け物の動きがその瞬間に止まった。顔をあげると、化け物の拳が、俺の顔の数センチ前にあった。
俺はその場にへたり込んだ。
「危なかった……」




