14.神殿へ
朝食を終え、俺達は、宿を出発した。
また泣き出しそうな顔の女の子に見送られた俺達は、例によって結界へ向かった。
「なあ、このままどっか散歩して帰らない?」
俺が言うと妖精は、
「馬鹿なこと言ってないで、さっさと歩く」
「やれやれ……せっかく、こんなにいい天気なのに」
天は高く、空が澄み切って、ハイキングにうってつけの日だった。のどかな景色と相まって、何だか決戦に向かう気分ではなくなってくる。口笛でも吹きたいくらいだ。
けれどやがて結界が見えてくると、どきんと動悸がして、否が応でも気づかされる。ああ、俺は今から戦いに行くのだ。
結界内に入ると、妖精は言った。
「じゃあ、いくわよ」
「ああ、もう好きにしてくれ」
俺があきらめ気味にそういうと、妖精が呪文を唱え、白いトンネルに吸い込まれる。俺はランプを抱えながら、目を瞑った。
やがて、足元に地面の感覚が戻る。
「さあ、着いたわよ。どうしたの」
「うーん……、何度やっても、これは慣れない……」
「あそこに見えるのが神殿よ」
ポーティは知らんぷりして話を進める。見ると、結界のある丘から更に高いところに、神殿らしきものが見えた。俺は空を見上げる。結界による転移で相当な距離を移動したらしいが、天気は相変わらずピーカンだった。
「ランプの光はあそこを指しているわ」
「ああ」
俺は、真剣な顔になって言う。あそこに魔王がいるのか。シャービルよりも数段強い敵なのだろう。勝てるのか? 俺に。シャービル相手にだって、びびりまくっているというのに。
「行きましょう」
ポーティが促す。俺は仕方なく歩き始めた。一歩近づく度に、鼓動が高まる。死地に赴く兵士とは、こんな気持ちなのだろうか。たどり着くころには、心臓が割れそうな気がしていた。




