12.前夜
次の日は一日休んで観光に充てた。
ポーティはしぶったが、俺がどうしてもこの世界を見て回りたい、と言って押し切ったのだ。異世界へ来たのに、ただ敵と戦うだけじゃ、どう考えても損だ。異世界の珍しいものをこの目に焼き付けて帰りたい。
ポーティの案内で、街なかを歩く。街は、今まで見たこともない色や形の屋根、壁、柱で満ちていた。
元の世界と似た建物もある。俺の世界にもデザインの建物。だが、八割がたは目にしたこともない独創的な建物だ。そういう、絶妙なバランスも、俺の心を刺激した。
「へえー」
「ほおー」
「はあー」
などと感嘆の声を漏らしながら、そこら中を見て回った。
景観は文句なく美しいし、人は俺をみると「勇者さま」と、声をかけてくれる。何てすばらしい世界なんだろう。
ところどころに立っている、木や草もやっぱり、地球のものと違う。今通り過ぎたところに生えていた草からは、何か音が鳴っていた。
「なあ、あれ、草が鳴いてんの?」
「そうよ。セイヤの国ではあんまり鳴かないの?」
「あんまりっていうか……うわ、あれもすごい」
それは赤い実と、青い実と、黄色い実が同時になっている樹木だった。
「カラフルだなー」
俺が見上げていると、木の向こうにある店の看板が目に入った。俺は急いでその前へ駆け寄った。看板にあるイラストに、俺の目はくぎ付けになっていた。
「な、なあ、ここってもしかして……」
興奮しながらポーティに尋ねる。
「ここは装備品のお店よ。武器や防具を売っているの」
「武器や防具!」
俺は矢も盾もたまらずその店へ飛び込んだ。やっぱり冒険といえば武器に防具だよな! 背後でポーティがブツクサ言っているのが聞こえる。
「まったく、どこの国でも同じなのかしら、男の子って……」
店の中は、どこもかしこも剣や鎧で一杯だった。それも、くねくねと折れ曲がった剣や、渦巻き状の剣、刃だらけで着るほうが怪我をしそうな鎧など、地球で見たこともないデザインのものばかりだ。
「すごい……!」
俺が目を輝かせていると、隣でポーティがため息をつく。
「すごい、じゃないわよ。戦いの道具なのよ、これは」
「わかってるよ。でもデザインとして、すごいじゃないか」
「……あっ、勇者さま!」
店の主人は、出てくるなり俺を見て泡を食っている。
「あ、どうも。すばらしい装備ですね」
俺が言うと、主人は満面の笑みを浮かべ、言った。
「勇者さまになら、どれでも差し上げますよ。何なりとお申し付けください」
「本当に!?」
「だめよ」
ポーティがたしなめる。
「あなたには、『ひかり』という武器があるでしょ」
「じゃ、じゃあ、あの鎧だけでも」
「ダメ。『ひかり』の能力は、動きやすいのが一番」
とりつく島もない。
「なんだよ、つまんないの。損な勇者様だぜ。このかっこじゃ、コンビニ行くのと一緒だよ」
結局ポーティに止められて、俺は泣く泣く何も貰わずに店を出た。店主も、名残惜しそうな顔をしている。
「勇者様、また是非いらしてください……」
店を出ると、俺は口をとがらして言った。
「せっかくくれるって言ってたのに……」
「まだ言ってる。とっとと帰るわよ」
ポーティはご機嫌斜めだ。はやく魔王を倒しに行きたいのに、観光案内なんかさせられて、イライラしているのだろう。
「待ってくれよ」
俺は急ぎ足でポーティの後を追いかけた。
宿に帰ると、女の子と宿の主人が迎えてくれた。
「おかえりなさいませ」
女の子の笑顔が、俺を癒してくれる。本気で、俺の帰りが嬉しいみたい。
そして晩に出される飯はうまい。最高か、ここは? ああ、これで魔物さえ出なければな……。
明日も、観光したい。いや、できれば、一週間くらいはここに滞在したい。もちろん戦闘なしで。そう思った。しかし。
「さあ、明日に備えて、早く寝るわよ」
「戦いを前に、そんな簡単に寝られるかよ。武器も防具も買わしてくれないくせにさ」
「まだ言ってるの? 女々しいわよ」
女々しい、か。女々しいかもしれないけれど、やっぱり戦いは恐ろしい。毎日が、今日みたいな日だったら、どんなにか、よかっただろうに。
俺の思考は、明日に迫った決戦に飛ぶ。
魔王か。一体どんな奴なんだろう。シャービルよりも強いんだろうか。いや、そんなの当たり前だよな。なんてったって、魔王なんだから。シャービルを束ねて、命令を出しているやつだろう?
……勝てるんだろうか、俺に。勝てなかったら、どうなる? 死ぬのか? 死ぬんだろうな、やっぱり。死ぬ前に、ここのうまい飯、もっとたらふく食っておけばよかった……。それにしてもポーティは日本語がうまいなあ。俺にも教えてくんないかな。
そんな風に徐々に思考に脈絡がなくなっていき、いつしか眠りに落ちていた。




