第五話 時にはプールも楽しくなる
翌日。俺は昨日のシスコン事件を気にしながらも朝っぱらから生徒会室に向かった。
外は六月なのに猛暑日で早くプールに入りたいと思いながら登校する生徒も少なからずいるだろう。俺は早くプールに入りたかったからな。でも俺には学校のプールでの楽しい思い出は「プールの水、気持ちいい!」くらいだった。何故かというと色々やらかしてしまったからだ。
例えば、出来心でプールの水を全部抜いたらプール開きが先延ばしになって犯人が俺ってわかった瞬間、自由時間があっても一人で二十五メートルプールを無言で往復したりしていた。そのおかげで泳ぎが上手くなりプールの授業の成績が上がったことは事実なんだけど。こんな感じで好感度が下がってしまい、俺からしたら学校のプールの需要が「プールの水、気持ちいい!」くらいになってしまったのだ。
そして俺は汗だくになりながらもクーラーを求め生徒会室の扉を開けた。
生徒会室に入ると柊がテレビゲームをやっている辻に止めるように言っていて滝川先輩が二人にお茶をぶっかけているというカオスな状況だった。
「お前ら何やっているの?」
「あ、峰岸君おはよう。こんなのいつものことでしょ?」
この生徒会ってどの学校の生徒会よりも一番カオスなんじゃないか?たしかにいつもこんな茶番みたいなことをやっているが毎回疑問に思ってしまう。
「そうだ!みんなに伝えなきゃならないことがあったんだ!今日の放課後にプール掃除があるから忘れずにね」
「なんで私たちがそんなことしなきゃいけないんだよ!師匠もなんか言ってやれよ」
「言われたことを全部やっていたらここは生徒会じゃなくて便利屋になるよ?」
「学校の役に立つならたとえ便利屋になろうと構わないわ!」
「あーもういいっす。生徒会のイメージ丸潰れっす。自分一人でやってくださいっす」
しかし柊の圧に負けて結局俺達はプール掃除をさせられることになったが辻が教師共に抗議したら掃除を終わらせたらプールに入っていいことになった。抗議の様子は凄まじかったな。あまりにも過激すぎて最後の方なんて校長が出てくるくらいだったぞ。でも結果オーライだな!
そして放課後。
「よっしゃー!掃除するぞー!」
あれだけ嫌がっていた辻が一番やる気だった。今度から辻にやる気を出させるときは馬の鼻先に人参をぶら下げると同じ原理で辻が食いつきそうな餌でやらせればいい。喜んで引き受けてくれるだろう。
それにしてもやっぱり女子の水着姿となるとやはり胸に目が行ってしまう。辻は貧相な胸だったが柊は意外にも豊かな胸をしている。いつもは制服姿でそんなに目立たなかったが水着となるとスタイルもよく目立つものだな。着痩せするタイプか?
あ、偶然目に入っただけで決していやらしい目で見ていたわけじゃないからな!
俺がボーっと突っ立てると辻がホースで水をかけてきた。なんとなく予想していたがあいつのやる気は五分も経たずに切れたのだ。あいつの場合は馬の鼻先に人参をぶら下げても人参だけを取ってそのまま走り去っていくような奴だったのだ。
「師匠!私と勝負だ!」
「受けて立つ!」
「峰岸君も立たんでいい!」
「明日香ちゃんはいい子なんだからしっかり掃除しなきゃダメでしょ!」
そう言っていた滝川先輩だったが数分後には辻と一緒に遊んでいた。
真面目に掃除をしていたのは俺と柊だけだった為、掃除は二時間ほどかかった。不幸中の幸いというか今日は全校生徒の授業が二時ほどで終わっていて俺達は何とかプールに入る事ができた。四人でやれば絶対もっと早く終わったのに。俺も遊べばよかったかな?でも流石に柊だけに任せてプールに入るって言うのはあまりにも柊が可哀そうだからな。
辻が私物として浮き輪・ビーチボール・水鉄砲などと鉄板と言えば鉄板な遊び道具を持ってきていた為かなり充実していた。というかあの道具たちはどこから持ってきたのか今更だけど疑問に浮かんだ。でもこれだけあれば超楽しいよな!
「師匠!さっきは勝負できなかったが今回は邪魔が入らない!私と滝川を含めて水鉄砲で勝負だ!」
辻が俺に宣戦布告した瞬間、辻と滝川先輩に水がかけられた。
「誰だ!?」
「私よ!秋先輩も辻もさっきは全然掃除しなかったのに私が邪魔をしないと思うかしら?」
特撮ヒーロー映画の登場シーン並みのセリフ口調で柊は二丁の水鉄砲を構えて二人に水をかけた。
そんなこんなで俺達は水を得た魚のように心行くまでプールを楽しんだ。辻が私物を持ち込んだせいで片付けが絶望的に大変だったんだけど。プールサイドには水鉄砲が散乱して水面に浮き輪が浮いていたりと、まぁ酷かった。あいつは全く片付けなかったけどな。
あいつの前世って遊び人だったんじゃないか?
でも俺達はなんやかんやで楽しんで今年初のプールが終わった。