第十二話 バカと海―後編
翌日。俺はあのハーレムバーベキューが夢だったんじゃないかと思った。しかし朝起きて柊に会うと、顔を赤くして去って行ったのを見ると多分現実だな。
俺達は朝飯を食べた後、みんなで部屋に集まることになった。
「で、なんで俺達は集められたんだ?」
「それはあなた達が夏休みの課題をしっかりとやっているかどうか報告する為に集められたのよ!」
「せっかく夏休みをエンジョイしていたのになんで柊は悪夢を呼び出すんだよ!」
呼び出すも何も夏休みが始まった時点で呼び出されているだろ。まだ悪夢ってほどでもないよな?夏休みの最終日ならわかるがまだ一ヶ月ほど残っているんだぜ。まだ余裕で遊べるだろ!
「なんか師匠、余裕そうに見えるけどもしかして終わっている?」
「まだ一ヶ月もあるんだ!一つもやらなかったってまだ大丈夫!」
「たしかに!頭いいな!」
「大丈夫じゃないわよ!高校は量が多いんだから早めに消化しないと大変なことになるわよ?」
「今からやれば余裕でしょ」
「じゃあやる?」
「えっ?せっかくここまで来たのに?そういう柊はどうなんだよ?」
「私は計画的にやっているわよ!それよりどうするのやるの?やらないの?」
俺は「やらない」って言おうとしたが「やらな――」と言いかけた瞬間にらまれてしまい、条件反射で「やる」と言ってしまった。
辻ももちろん「やらない」と言おうとしていたが柊の殺気に気付けずにそのまま「やらない」と言ってしまい、柊に軽い説教を受けさせられて強制的に課題をやらされることになっていた。
というわけで俺と辻は合宿二日目で課題に追われることに。
柊たちは海で遊んでもよかったのだが海に行くと俺達が絶対に抜け出すからということでトランプをしたり本を読んだりとインドアな遊びをしていた。しかし俺達は全くやる気を出さずにダラダラしていた為、頑張れば午後からは遊んでもいいという条件が付いた。
俺達がやっとやる気を出したと思った頃はお昼前で、結局ほとんど課題が進まないまま昼食を迎えることになった。
昼食は高級イタリアレストランで出てくるようなフルコースだった。多分一人五万くらいするんじゃないか?
「なぁこの料理って何人くらいで作っているんだ?」
「一人だけど?」
「この料理を一人で作っているだと!?しかも超美味い!」
「そんなことはどうでもいいんだよ!この島にある山に肝試しに行きましょ!」
「き、肝試し!?」
「もしかして夏美ちゃんって幽霊とか嫌いなの?」
「そ、そんなことはないわ!」
「声震えているぞ。別に無理してやる必要は無いし」
「大丈夫だからっ!」
「そ、そうか。あ、そういえば肝試しって普通はペアとかで行くじゃん?でも俺達五人だけどどうする?」
「一人が脅かし役ってことにする!開始は午後八時。以上!」
そして肝試しの時間となったわけだが――
くじ引きでペアと脅かし役を決めることになりペアは俺と柊、双葉と滝川先輩、脅かし役が辻だ。脅かし役が存在する肝試しはやっぱり怖いよな。脅かされること前提で事が動いているってことだし。
辻は脅かす準備をするために先に山に登り、俺達は懐中電灯だけを持って山を登って頂上で待っているということになっている。
柊は大丈夫と言っていたが震えていて全く大丈夫そうでは無かった。
「辻がしょうもない小道具で脅かすだけなんだからそんなにビビることは無いって」
「そんなこと言われても怖いよ……」
やっぱり怖いんじゃん!さっきから震えているもんな!怖がるのは構わないんだけど変な声とかは出さないでくれよ?後で絶対、双葉が「あーついに襲っちゃったか」とか言ってきそうだから。
「あのさ、どうせ寄りかかるなら腕に抱き着いてきたほうが歩きやすいんだけど?」
「あ、ごめん!でもいいの?」
「夏祭りでも手、繋いでいたし今更だろ」
先に行った双葉たちは叫んだりしてないから大して怖くないんだろう。
「そろそろ俺達も行くか?」
「うん……」
柊は俺の腕をギュッと抱き歩き出した。周りは暗かったが夏ということもあり八時でも真っ暗というわけでは無かった。山だったから懐中電灯が無いと進めないくらいだけど。
というか女子に腕を抱き着かれたことなんて無いから肝試しより体に意識が行ってしまうのだが。なんて言っても柊の大きくて柔らかいものが当たっている俺はどうしようもできないんだよ。俺って別に変態じゃないよな?世の男子がこの状況に居たら絶対こうなるだろ??
「というか全然脅かしに来ないな。もしかしたらこのまま終わるんじゃね?」
「なんでフラグを立てるの!それって絶対に話している途中に脅かしに来る奴じゃん!」
「俺ってフラグ回収のプロだから十分あり得るな」
俺達が話しながら歩いていると白い布を被った辻が「ワー!」と言って出てきた。
俺のフラグ回収って凄いな……
「よっ!脅かし役ご苦労様!」
「あれ?全然怖がってない?滝川は腰を抜かしたのに」
「マジで?これで腰を抜かすとかどれだけ天然なんだよ。ほら?全然怖くなかっただろ?」
そう言って柊を見ると腰を抜かしていた。嘘だろ……どれだけ怖がりなんだよ。俺は柊のビビりが重症過ぎて驚いているよ。
俺は柊を担いで辻は双葉と滝川先輩を呼びに行き無事に下山することができた。
しかし俺達は部屋で肝試しの話をすることになってしまった。
「というかお二人さんいつの間にそんなにラブラブになったの?」
「ラブラブって変な言い方するなよ!」
「でも柊が師匠の腕に抱き着いていたじゃん?」
「あれは柊が凄いビビってたからだよ。付き合っているとかそういうのは無いし」
「そうだよ!別にそういう関係じゃない!」
「大和君と夏美ちゃんの建前ではそういう設定というわけね」
俺達は茶化されながらも二泊三日の充実した合宿が無事に幕を閉じた。