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ぷろろーぐ


日本に住む謎の死を遂げてしまった青年。


彼は大学生で勉強ばかりしていたからか、 若干の退屈を覚えていた。 親に金を払ってもらっているという自覚はあったし、 自分にも夢があったのでサボるといったことはしなかったのだが、 退屈なものは退屈だ。 だから何か趣味でも探そうかと考えていた時のこと。


その退屈を待ち望んでいたかのようなタイミングで友人が折角だから怖い遊びをしてみないか、 という話を持ち出してきた。 確かに学生といえば恋愛話をしたりするのが定番だし、 怖い話や遊びもその一つだ。 彼はその話に乗る事にした。 聞いたことのあるような怖い遊びをしてみたいので検索結果の中でもかなり深いところを探し、 幾つも読み漁る。 その中の一つにあった遊びがヲニごっこだった。 他で見つけたものと違ってこれは非常に軽いノリで書かれており、 用意するものはとても簡単だし、 その遊びのやり方も非常にシンプル。 これが(すべて)の始まりだった。


やり方としては包装紙を外した飴玉を13粒用意し、 それを握り足元にばらまく。 その後に"鬼さん、 鬼さん、 鬼ごっこしましょう"と三回言うだけだ。 本当にただそれだけしか載っていなかったのだ。 何が起きるかということすら載っておらず、 そのままマウスを動かし下の部分を見ようと画面を動かした。


予想通りといえば予想通りだが、 そのすぐ下の部分に書いてあったコメント欄にはやっても何も起きない、 という事しか書かれていない。 そして彼は友人と話した結果、 調べている途中に本格的なものばかり見てしまったのもあり、 下手に現実味を帯びているよりは良いのでこのヲニごっこという遊びをする事にした。


次の休みの日。 彼は待ち合わせをした友人と飴玉を買いに行き、 すぐにそれを済ませた後に適当な公園でヲニごっこを試す。


ジャンケンで負けた結果、 話を持ち出してきた友人ではなく彼がする事になったが、 コメントにもあったように何か起きるということはなくヲニごっこは終了。 ちらばった飴玉はどうすればいいのか書いていなかったので片付けようと思ったが、 彼がそう思った頃には大量の(あり)が群がっており、 そのまま放置して帰ることとなった。


結局なんの退屈しのぎにもならなかったと苛立つ気持ちもあったが特に気にすることはなく、 友人と別れて家に帰った後は勉強をしたりと、 いつも通りの日常を過ごして眠りに入った。






彼ははっと目を覚ます。 寝転んでいた場所がとても硬かったのでベットではなく、 どこかの床で起きたようだ。 背後には大きな窓があるのか微妙に月明かりが()して周りはほの暗く、 埃っぽい古臭い匂いのする空間だったのを冷静に判断できたこともあってか、 ここが夢の中だろうという事に彼はあっさりと気がついた。 というのも基本的に人間は夢を見ても、 それを夢だと気付かないものだ。 思い通りになっているわけではないのだが、 今、 自分が見ているのはいわゆる明晰夢というやつなのだろうと彼は悟った。


しばらくすると彼は目が慣れてきたので周りを見渡し、 ここが(やかた)のような建物だという事に気がつく。 これは一体どの記憶だろうか。 少なくとも彼が一度も見たことも感じたこともない不気味な空間だった。


「ヲニごっこしましょ」


突然聞こえた声に彼は驚いた。 正面に目をこらすと立っていたのは5人の子供。 だが子供とは言えど何歳かまでは分からないが身長的には小学校中学年ぐらいだろうか。 それよりも聞き捨てならない言葉を聞いた。そう、 "ヲニごっこ"だ。 ヲニごっこというのはもちろん昼間にやった怖い遊びのこと。 ただ今は頭の理解が()(かく)、 追いついていなかった。


「き、 君たちは一体誰なんだ」


彼は最初に出てきた疑問をたっぷり数秒ほどかけてから口に出した。


「ヲニごっこしましょ」


だが質問してきた1人の子供は機械のようなその言い方と、 同じ言葉を繰り返すことから察するに彼が先に返答しないと返答し返してくれない様子だった。 質問を質問で返すのは確かに駄目なのかもしれないが彼が焦燥感にかられているのは言うまでもなく、 この行為に関しては仕方がなかったというのもある。


「ヲニごっこってあの普通の鬼ごっこの事なのか」


結局のところ彼はむやみに分かったとは返せず、 本物の鬼ごっこの事なのかと質問で返してしまう。 だがここで意外にも女の子は別の言葉を口にした。 質問内容についての質問だからだろう。


「そうだよ。 私たちが鬼であなたが子の普通の鬼ごっこ。 捕まったらあなたの負けね。……………………ヲニごっこしましょ」


最後の三度目の台詞を聞き、 ここまで機械的だとここ自体がほの暗いこともあり、 彼は恐怖を覚え、 そのためかこれが夢なのだと感じていても身体が反射的に震え始めていた。


「わ、 分かった。 鬼ごっこに付き合うよ」


「ん……………………。 じゃあさっきの質問に答えるね。 私の名前はなのだよ」


なのという子が自分の名前を言うと他の子供達も次々に口を開き、 自己紹介をしてくる。


「……ぼ、僕はにのです」


「自分はぬのだよ」


「ねの、 それが私の名前」


「ののですよぉ」


身体(からだ)全体に影がかかっていて分かりにくかったこともあり、彼は今、 気がつくことになったが全員女の子だった。


「それじゃあお兄さん。 ヲニごっこを始めていいのかな」


「え、 ああ。 う、 ん───────」


内心はかなり恐怖に染まっていたが、子供の遊びに付き合う程度だろうと考えるようにしていた。 ただ女の子たちの姿をよく見ると、 彼の考えは180°ガラリと変わった。


ナイフにチェーンソー。 おまけにスタンガンロッドや国外だとネイルガンとも呼ばれる釘打ち機なんかを手に持っていた。 これらを持つ彼女たちを見て、捕まえるのではない。 捕まえると称しながら本当は殺す気なのか、彼女たちにとって捕まえるということは殺すということ同義なのだと彼は気づいた。 ただ、 にのという子だけ唯一素手で何も持っておらず、見た目からしてもそうだろうと思わされるような子だった。


そして彼はある結論を出す。


これは本当にヲニごっこという遊びをしたことで想像している夢などではなく、 実際にどこか夢ではない場所で起きている死の遊びなのだと。 仮に殺されたとして夢なら夢で構わない。 ただの杞憂だったのならそれは万々歳だ。 だから彼は今、 彼が冷静でいるために。


そう結論づけるしかなかった。


「それじゃあ今から600秒数えるね」


「ま、 待ってくれ。 どれくらい逃げ続ければいいんだ」


日出(にっしゅつ)終わりまでだよ。 ふぅ…………もう時間もったいから数えるね。 いーち、 にーい、 さーん───────」


これ以上は時間を稼ぐことも、 この場にとどまることもできない。 気がつくと彼は全速力ですぐそばにあった階段を駆け上り始めていた。


「日出終わりっていつまでなんだよ……………………。そもそも今何時かも分からない」


日出という言葉は耳にしたことがあるような気はするが、この状況で思い出せるわけもなく、何時のことを指すのかは分からない上に、今が何時かも分からない。どの程度逃げ続ければいいのかも理解できないほど、彼の心はこの数分程度で疲れていた。


階段を上りきって彼はかなり焦っていたこともあり、 すぐそばにあった部屋のドアを開けてタンスの中に隠れるという安直な行動を起こした。


走り終わったのに心臓の鼓動が落ち着くことはなく、 むしろ時間が経つごとに高鳴っているように思えた。 身体全体の震えは未だに止まっておらず、 夢なら早く覚めてくれと彼は願った。


そして何分過ぎたのかもわからなくなった頃、 "それ"は部屋の静寂を突然破(やぶ)いた。


「……失礼します」


恐らくあの5人のうちの誰かがドアを開けて入ってきたのだ。 彼は突然のことに困惑していたが、 隠れるという目的から生まれたものなのか、 あれだけ続いていた身体の震えも心臓の鼓動も自然な流れで止まっていた。 たまたま階段を上ってから一番近いこの部屋を見に来ただけだと、 そう信じて。


だがその願いはむなしく、 タンスの扉は開いた。


「…………あの。 そんなに体が震えてると何処にいるかすぐばれちゃいますよ」


何故だろう。


体の震えは止まっているはずだし、 実際に今もそうだ。 だがさっきと同様、 彼に考える暇も余裕もなく、彼女を部屋に設置してあったベットに突き飛ばして部屋のドアノブを回そうとしたその時だった。


彼の左腕はなかった。


もちろんないというのは比喩だが、 本当にないと言えるほどに左腕の感覚が損なわれており、 彼の意思では一切動く様子はない。 すぐに使える逆の右腕でドアノブを回し、 部屋を脱出することができた。


そのまま出た勢いで目の前にあった通路を右に曲がろうと開けっ放しのドアを乱暴気味に叩きつけるように閉める。


するとそこには。


「結局、 自分が汚れ役なのか」


そんな声とともに開けっ放しのドアの後ろに隠れていたチェーンソーを振り上げているぬのいう子が立っており、彼の右腕にそれが振り下ろされた。


「ぐ、 あっ」


悲鳴をあげようにもあまりもの痛みに彼は声が出ない。 そして壁に体をぶつけながらも再度走り始めようとして彼女の横をすり抜けて先に行こうとしたその時。


すると足元を何かが一瞬だけ通り過ぎ、 彼は正面から顔面を打つようにして倒れこんだ。 なぜ倒れたのかと足元を見る。 すると右足首が半分ほど切られていて、 そこから不恰好に折れ曲がっており、 その折れ曲がった足首からの上部分と下部分を繋いでいるのは皮だけとなっていた。


「ううう……………………」


彼は泣いていた。 痛みと苦しみに耐えきれなくなり、 何故卒倒しないのかと。 そして涙で濁った視界に5人のうち、 誰かの足が目に入る。


「お疲れ様」


その言葉とともに彼は意識を失った。


次の日、 ベットの上に彼はいない。 部屋の中にあった家具も使われることは恐らくない。






人は二度死ぬと言われている。 一度目は肉体的に、 もう一つは記憶的に。


彼は一度の死で両方を失った。


もうこの世のすべての人が彼を思い出す事や誰かが墓を建ててくれることもない。 それは全てヲニごっこに修正されるのだ。


ヲニごっこ、 それは死の遊び。





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