とある森の妖精のお話
賢明に生きている姿は美しい、と人は言いました。
そこいら中に生えている何の変哲もない緑たち。それらは賢明に生きている筈なのです。
朝露に輝き、風に耐え、日の光を力に変えて。
(今日も美しい)
妖精のフェアルは今日もその緑たちを優しい表情で見つめながら、空を飛んでいました。
チューリップの花の中にすっぽりと収まってしまうような小さな妖精。フェアルの羽は空の色を映し、大地の色をも映しました。金色の短い髪の毛、緑の服に、緑の帽子。
前に人間の言っていたことをフェアルはそうだと思っていました。賢明に生きて、輝いている草花たちが美しいと。
笑顔で、ときおりくるくると回りながら飛びます。
フェアルはただ飛んでいるわけではありません。
草木や花、そこに住む生き物たちに挨拶をして回っているのです。その挨拶から、フェアルは今日の様子を感じ取ります。
元気なのか、少し調子が悪いのか、それをみるのもフェアルの毎日です。
「おはよう、フローラ」
フェアルの視線の先にいたのは、色とりどりの花びらをワンピースの様に身にまとった、花の妖精でした。
金色の長い髪には赤とピンク、オレンジ色の花で作られた冠がのっていました。
「おはよう、フェアル。今日も良いお天気よね」
フローラは花の妖精だけに、笑顔も花が咲いたように可愛らしいのでした。
しかし、その表情はすぐに曇ります。
「こんな日は、来るわね……」
「人間、のことかい?」
フェアルがフローラの顔をのぞき込むと、フローラはこくりと首を縦に降りました。
「人間は好きよ、好きだけど……」
かわいらしい顔の眉間にしわを寄せながら、フローラは自分の気持ちを言葉で表そうと必死に考えていました。
フェアルはそれを黙って見つめていました。
「何て言うかね、人間は言っていることとしていることが、違うような気がするの」
フェアルはうんうん、とうなずきながら話を聞きました。
「だってね、フェアルこの間──」
フェアルとフローラが話をしていると、ガサガサと音がしました。フェアルとフローラは急いで木や葉の陰に隠れて辺りを見ました。
そこにいたのは人間でした。
「ああ、花はきれいだね」
「ここは気持ちがいいですね」
人間は花に鼻を寄せ、その良い香りを味わったり、葉を手で触れて愛おしそうに見ていました。
「あ、あの花、君に似合うよ」
2人居たうちの1人、男が草をかき分け、綺麗なピンク色の花を木からもぎ取りました。
「美しい花だね、着けておくれ」
花を手渡された、もう1人の人間、女はそれを笑顔で受け取り、髪に着けて微笑みました。
その笑顔は、彼女は、とても、可愛らしいものでした。
2人はその場を去り、歩いてどこかへ行きました。2人が通ったところはフェアルもフローラ一目瞭然です。
フェアルとフローラは顔を出し、姿を見せました。
「ほらね、人間はうそつきよ」
フェアルは地面の近くまで行き、先程まできれいに輝き、美しかった緑にそっとふれました。
一筋の雫が、その緑に落ち、最後に一瞬、輝きました。
とある森の妖精のお話
>Do you like green?
本当に存在するならば一度会ってみたいです。
きっと、嫌われてしまうかもですけれど。
2015/5 秋桜空