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モノクロの彼女

 どこかの誰かが言った、努力をすれば何時の日か報われると。しかし、その何時かとは何時来るのだろうか。努力をしても、全く報われる事の無い日々を送る、この「俺」はどうしたらいい。

 勉強をしても、何時も、敵う事の無い。


「今回は危なかった、お前に負けるかと思ったよ」


 俺は笑う事しかできなかった。次回もまた勝負しようと友人は笑いながら言う。どうやら、俺が本当に笑っていると思っている。あいつは何にも分かっていない。友人といっても元を辿れば赤の他人だ。それくらいは俺も理解している。いや、せざるを得ない。


 一緒にいる事は楽しい。今のように講義を受けたり、食堂でお昼を食べたり。でも、楽しい事だけではない。もともと何でも出来る奴だったから、仕方がない。俺はよく頑張った。講義の最中俺は自分にそう言い聞かせていた。


 カチカチカチ。


 シャープペンシルのノックを繰り返す。


 カチカチカチ。


 ……ああ、また折れた。



 講義が終わると俺はゆっくりと立ち上がって、その場から消えたくなる。隣にいるはずの友人が遠くにいるように感じられる。外は晴れていて、夕日が綺麗というのに、俺には土砂降りの雷雨にしか感じられない。


「一緒に帰ろ?」


 隣から声がする。

 友人は至って普通に返事をした。


 俺には分かる。普通を装っていても嬉しげな事を。普通にするのは、俺に気を使っているからだと、いう事も。

 俺もドラマか漫画かなんかで見た事がある。よくある設定だろう。友人にできた彼女が自分の好きな女性だったって事くらい。仕方がない、あいつは優しいから。


 帰り道、コンビニのATMで残高を確認する。いくらアルバイトをしているからといっても所詮、アルバイト。大学の講義をサボるわけにもいかない。4年間だけ。それだけしか、お金は出せない。両親が最後に言った。俺にとって、本当に贅沢は敵だ。


 俺はコンビニを出て、アルバイト先である飲食店へ向かう。今日も大量の皿洗いが待っている。仕事をこなすのはいい。別に、単純作業の様なものは嫌いじゃない。好きに近い。でも、好きと出来るはイコールとは限らない。そこが問題だ。


 大通り、スクランブル交差点。


 色とりどりの人々が行きかう中、モノクロがぽつんと1人。「彼女」は交差点の真ん中。人々は彼女に気が付いているのだろうか。いや、知らないわけはない。彼女に気が付いているのに、見ないふりをしている。


 皆と違うから、どこか、違うから。


 自分には関係ない、関わりたくないから。だから、皆彼女が見えているのに知っているのに、無視している。俺も最初はそうだった。でも、交差点を渡っている最中、彼女から目が離せなかった。

 彼女も俺をじっと見つめている。視ている。


 ――こんにちは。


 口元が動き、そう言ったように思えた。声が聞こえたわけではない。それでも、俺には分かった。どうしたらよかったのか分からないが、人の波にのまれ俺は交差点を渡り切った。

 信号が赤に変わり、車が行き交い始める。彼女は、どこにも居なかった。



 俺は不器用なのかもしれない。


 時々……嘘、何時もそう思う。きっとこれは自分が不器用なせいだからこんなに苦しい。全部俺が悪い。そう思っている。

 たまには違う風に考える事もある。例えば、俺以外の人間が悪い、と。俺がいる世界が悪い、と。こんな事は押し付けだと思う。そう感じているのだが、最近はそう思う事の方が多い。困った。


 頬に冷たい缶ジュースを当てながら、夜空の下、またあの交差点に着いた。俺が行く時、ちょうど信号が青に変わる。

 周りの人と一緒に動き始める。


 視線を感じた。


 彼女が、居る。

 俺は、歩く。彼女のもとに行く。これはほんの好奇心だ。モノクロ、他の人間が無視を続ける彼女への興味だ。ほんの少し、確認するだけ、話をするだけ。


「やっと、会えた」


 彼女は俺に向かってそう言い、微笑んだ。






 ほんの好奇心だった。


 それだけ。


 モノクロの人々を掻き分け、俺は走った。世界は変わった。あの日から。努力、それができない俺にとって、この世界は良かったのかもしれない。

 彼女によって俺はそれを知った。


 逃げている最中手首が強い力によって掴まれる。


「捕まえた」


 ――あーあ、捕まっちゃった。











モノクロの彼女

>Do you like Black and White?


寓話のようなものを目指した、つもりです。

うーん、難しいです……。


2015/4 秋桜(あきざくら)(くう)

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