怪物との一戦。<後>
ありがとうございます!ゆっくりとお楽しみにください!
(ま、まさかあいつ。これを狙って…!?)
「し、しまった!」
攻撃に夢中で、周りを見ることが出来なくなっていたためか、レンは怪物の行動で、ようやくその意図に気付き、俺の元へと駆け寄ってきた。
だが、それと同時に怪物は俺の方へと牙を向きながら急降下してきたのだ。
迫る怪物。高まる焦燥。
だが、怪物の攻撃があと少し遅れていたら…という瞬間に、またしてもレンがその攻撃を防いだのだった。
「……ううっ!」
だが、一度はうまく防いだものの、2度目はそう簡単にはいかなかったのだ。
タイミングギリギリだったためか、レンは怪物の攻撃を無効化し、反撃するという余裕はなく、ただ俺を庇ったために攻撃を受けてしまったのだ。
「おい、しっかりしろ!」
腕だけは何とか動かせた俺は、倒れこんできたレンを上手く受け止めるとそのまま体を揺さぶり、状態を確かめた。
「…やっちゃった…。あいつの牙には……毒が」
どうやら生きているようであったが、状況はあまり良いものではなかった。
「早く……私を置いて逃げて…」
「……そうしたいのは山々なんだが、足が動かなくて逃げられないんだよ…」
ただでさえ、腰が抜けて立ち上がれない状態だったのが、レンが俺の上へと乗っかり、さらに身動きが取れなくなってしまったのだ。
「……キキキ。ちゃンス…」
そのどたばたした状況に、怪物は余裕を感じていたのか、少し離れた場所に着陸し、ゆっくりと俺たちの方へと迫ってきた。
「……ッ」
その様子に俺は、今までに感じたことのない、強い恐怖を感じ、全身を硬直させた。
体の震えは止まらず、嫌な汗が額を伝う。
もうだめだ。 心のなかで俺はそう思っていた。
――何を恐れている?――
「!?」
だが、時を感じるのも困難なほどの一瞬だ。突然何者かが話しかけてきたような気がし、周りを見るがレンと怪物以外のものは見当たらない。
「……?」
俺の様子にレンも戸惑っているようだった。
――戦う手段があるのに何故戦わない?――
謎の声を気のせいかと思いかけたその時。またもや声がどこかからか聞こえてきた。
どうやら、謎の声は俺にしか聞こえていないようすで、レンは周りを見渡している俺を不思議そうに見つめていた。
剣をとって戦え。謎の声は恐らくそういいたかったのだろう。
真剣なんて持ったことがなく、剣道も授業で少しだけやるぐらいしか心得ていない。
(…でも、何もせずに終わるよりは…!)
俺は、その声に従い、突然立ち上がった。
先程まで硬直し、動かなかったはずの、俺の体は、今では何も感じず、重りがとれたような軽さを感じていた。
「な、なにを…?」
毒で痺れて話しづらいのか、突然立ち上がった俺を見て、小さな声でそう言った。
俺は、導かれるように転がっていたレンの剣を握りしめ、そして、怪物にそれを向けた。
――剣の構えがなっていない。…ならば、我の指示で剣を振るだけで良い――
「そんな簡単でいいのか…?」
指示通りに剣を振るだけという簡単な指示に、戸惑う俺だったが、ここまできて後には引けない。とにかく指示には従おうと、怪物の方を向き直した。
「き、危険よ…!早く逃げて…!」
後ろからはレンの小さな叫びが聞こえてきたが、何故かこの時は俺の頭のなかに「逃げる」という言葉は浮かんではこなかったのだ。
「キキキ。ばかナやツダ!」
そして、素人のような構えを見た怪物は、さらに余裕をもったのか、俺を嘲笑いながら戦闘体勢へと入った。
……………。
少しの間、その場に静寂が訪れる。
「キキキ。…イタだき……まーース!!」
最初に俺を襲ってきた時の叫び声をあげながら怪物は、俺の方へと飛びかかってきた。
迫ってくる怪物に、俺は今か今かと指示を待った。
―――今だ。―――
「うおおおお!!」
その声をはっきりと聞いた俺は迷わずそのまま剣を振り下ろした。
――ボウッ!!――
「ギャアアア!!」
無我夢中で剣を振り下ろした俺に、何が起きたのかということを理解するのは少々時間がかかった。
突然俺の振り下ろした剣から「業火」とも表せるほどの炎が出現し、怪物を焼き払ったのだ。
それに驚いた怪物は、逃げるようにどこかへ飛んでいってしまった。
「…今のは……一体……?」
何が起きたのか、理解できていなかった俺であったが、突然、体の力が抜け、そのままコンクリートの地面へと倒れ込んだ。
「……瞳の色が…黄土色……?まさか…」
いつの間にか立ち上がっていたレンが話したその言葉を最後に、俺の意識は闇の中へと消えていった。
ご視聴ありがとうございました!次回もお楽しみにください!