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神々の祠  作者: 幻想
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「出会い」

「お客さん終点ですよ!」


近くで誰かが声をかけている。


「ん……」


いつの間にか寝てしまっていたみたいだ、目を開いたら40代くらいのバスの運転手が立っていた。


「すみません…ここは何処のバス停ですか」


俺は半分寝ぼけながら運転手に聞いた。


「ここは終点、北最上です」


「ありがとうございます」


一言だけ言うと俺はバックを取りバスを降りた。


「うゎ……すごい田舎だな」


目の前の一面には田んぼや山やとにかく緑が溢れていた。確かに自然が多いとは聞いていたが想像以上の田舎だった。


「でも確かにいい所だなぁ~」


確かに田舎だが都会ではこんな景色は見られないし、こんなにも自然を体感した事もなかったので素直にそう思った。

でも、なんで俺がこんな所に居るのかと言うと3日前に遡る。


……(春休み終了3日前)……


俺の家は代々陰陽師の家系で除霊やお払いや妖怪封じをしている。家柄で言えば日本のトップ3に入るほどなのだが俺がそれ以上にすごいと思う事がある。それは祖父が全盛期は世界でも名の通った陰陽師であることだ。まぁ……今でも現役バリバリであちらこちらに遠征に行ったりしているが、そんなじいさんからいつもの変わらない朝にあんな事を言われるとは思っても見なかった。


「実は遠征の仕事依頼があってのぅ……」

お茶を飲みながら祖父は言った。


「遠征?どこまで?」

俺は特に気にもしなかったが昔からじいさんの土産話は意外と面白かった。


「山形までのぅ」


「山形?あぁサクランボの?」

確か山形といえばサクランボで有名だったはずだが。


「そうじゃ、他にも山菜なんかも美味いぞぉ」


「へぇ……またしばらく留守になるのか?」


「いや、行くのはお前じゃ」


「……はぁ?」

俺は思わず間の抜けた声をだしてしまった。

「いや……確かに今は春休み中だけど3日後には学校に行くよ?」

もしかしたら日程を言い忘れたかと思い、俺はじいさんに言った。


「知っとるわぃ」

平然とした顔でじいさんは答えた。


「明日から行ったとして1日で除霊して出来るランクなのか?」


「いゃ…Aランクじゃ、一真では一ヶ月かかるじゃろぅ」


「はぁ?」

再び唖然としてしまった。確かに俺は子供の時から才能があるだの言われてSランク任務も達成したこともあった。けれどAランクでも数日で終わるようなレベルではなかった。


「3日後に学校に行くよ?」

俺は半信半疑の状態で言った。


「知っとるわぃ」

それでもじいさんは気にした感じもなく言った。

「ランクは?」

「Aランクじゃ、何じゃ耳が遠くなったか?ボケが始まるにはまだ早いじゃろぅ?」

ボケてるのは明らかにお前の頭だろ?そんな気持ちを心の奥底に潜め言った。


「学校と仕事は両立出来ないだろ?距離的に!」


「大丈夫じゃ、お前の転校手続きは全て終わっておる」


「はぁ?」

この日何回唖然としただろうか。こうして俺は強引に転校させられる事になった。この日は俺の厄日であり予想の斜め上の展開のオンパレードだった。


と言う事があって今日に至るわけだが、もうすっかり夕方になってしまっていた。

「とりあえず、じいさんが書いた住所に行ってみるか」

この村に着いたらこの住所に行けと地図と鍵、それからお守りを渡してくれたのだが。


「と言うかどこにあんだよこの住所は! 住所見ても分かるわけないし、地図には田んぼと山と家が数件あとは○印しか書いてないし!」


初めての田舎に目印にもなりそうにもならない田んぼと山おまけに砂利道、家を探してみるも辺りは暗くなりつつあり見つからない。しかも都会では考えられない程、細々した妖気が山の方からから感じる。その中でも北の山からの妖気が一番強く感じた。


「田舎じゃ妖怪たちの夜な夜なナイトフィーバーでも流行っているのか? 全く……」


「あの……」


不意に後ろから声をかけられた、振り返るとそこには160cmくらいの可愛らしい顔をした腰の辺りまである綺麗な栗色の髪の女の子が不思議そうにこっちを見ていた。


「えっと……何か?」

いきなり声をかけられたので、少し混乱していた。


「いえ、この辺りじゃ見ない顔だなって思いまして、こんな所で何をしているのですか?」

そう言って右手を唇まで持ってきて微笑んだ。


「単刀直入に答えるなら迷子です。行きたい住所があるのですけど交番の一つすら見つかりません」


俺は苦笑い気味に答えた。そもそも交番とか以前に家が無かった。


「それは大変ですね、ちなみに何処ですか?」

そう言って女の子は俺の手元のメモを覗き込む。


「この場所なら知っていますよ。でもここって今は誰も住んでないはずですよ?」

よくこんな適当な地図で分かるなと思った。流石は地元住民……。


「えっと……昔に祖父が少し暮らしていたみたいでこの村に着いたらここに行けと言われたのですけど」


「えっ?失礼ですが、おじいさんのお名前は?」

驚きを隠せない表情で女の子は聞いてきた。


「御神源氏ですが、知っているのですか?」


「いえ家の表札が合っているか聞いてみただけです」

 いつの間にか女の子の顔は元の笑顔に戻っていた。


「それで、おじい様は来ていないのですか?」


「祖父は実家に居ますよ。俺は祖父にいつの間にか強引に転校させられたのです」

今でも3日前の事は理不尽だと思っていた。


「転校? じゃあ最上高校に?」


「はい、明日から最上高校2年に手続きされています」


「ホントですか? 2年なら私と一緒ですね」


「ではあなたも最上高校に?」


「はい、最上高校緑川沙耶です。明日からよろしくお願いします」

女の子は俺の右手を握って微笑みながら言った。


「俺は御神一真です。こちらこそよろしくお願いします、緑川さん」

少なくとも見知らぬ土地で知りありが出来たのは喜ばしいことだ。


「でもせっかくこうして御神さんに会えたのも何かの縁ですし、私の事は沙耶って呼んでください。仲のいい友達は皆そう呼びます。言葉使いも話やすいので良いですよ」


いきなり名前で呼ぶのは抵抗があったが、田舎ではこれが普通なのだろうか? 少し戸惑った俺に緑川さんは不思議そうな顔をしていた。


「いや……沙耶、それなら俺も一真で良いよ」


「じゃあ一真さんとお呼びしますね」


「うん、敬語も使うことないよ?」


「私は敬語が一番話しやすいのですがダメでしょうか?」

そう言って沙耶は、困った表情でこちらを見る。そう言って一喜一憂する姿はまるで猫のようだと思った。


「そんなことはないよ。それでこの住所ってどっちかな?」

そう言った俺の表情はいつの間にか笑顔になっていた。


「そうでしたね、あの山の近くですよ。私の家の近くなので一緒に行きましょう」


「ありがとう、助かるよ」

そう言って、俺と沙耶は山に向かって歩いていく。


「そういえば、一真さんってどこから来たのですか?」

歩きながら沙耶は聞いてきた。


「神戸からだよ。こんなに広々とした土地を見るのは初めてだから驚いたな」


「確かにビルとかマンションとかはありませんからね」

そう言いながら隣で、クスクス笑っている。そして続けて聞いてきた。


「でも…なんで転校して来たのですか?」


「それが強引に転校させられて」


「強引に?」

困った顔をした俺に首を傾げていた。


「若いうちには色々な経験をしておくものだ、都会の喧騒を離れて神社や自然と触れ合って来いってじいさんに言われた」

家が陰陽師の家系である事は別に秘密にしなければならない訳ではないのだが大っぴらにする事でもなかったので言葉を選んだ。


「それは、すごいおじい様ですね…」

かける言葉が見つからなかったのかそう言って困り顔で笑っていた。

その後も雑談しながら歩いていたら沙耶が足を止めた。


「あそこの赤い屋根の家がこの地図の場所ですよ」

沙耶は少し前にある家を指差した。気がつけば辺りはすっかり暗くなっており時計を確認したらもうすぐ7時を回る所で40分くらい歩いたようだ。


「あれ?一真さんって今日、お引越しされたのですよね」

何かに気づいたように沙耶は聞いてきた。


「そうだけど?正確にはこの家に来たのは今日が始めて」


「見たところバッグしか持っていないようですが、夕飯はどうするのですか?」


「……」

俺はそもそもこんなに引っ越し先に辿り着くまでに時間を費やすとは思ってなかったのだ。


「ちなみにこの辺りにコンビニとかは?」

少し考えては沙耶に聞いた。


「となり町まで行けば1店だけありますけどここからでは車でも1時間くらい掛りますよ」

俺はその言葉を聞いて即答した。


「大丈夫。人間1食くらい抜いても何とかなるから」

即答した割にはあきらめたと言った方が正しいだろう。


「ダメですよ、夕飯を抜いたら体に悪いです。もし良ければ私の家に来ませんか?」

沙耶は屈託のない笑顔で言った。


「いや、せっかくだけどもう遅いし家の場所も教えてもらったし」

断ろうとした時にお腹の音が鳴ってしまった……


「大丈夫ですよ、私の家はここから5分程度ですから」

こちらの返事を聞く前に沙耶が話を進めてしまった。


「……すみません。ご馳走になります」

俺は恥ずかしさのあまり下を向いた。


「はい! それでは行きましょうか」

逆に沙耶は嬉しそうに歩き始めた。


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