手の温もり。
ちょっとした暇つぶしに読んでください。
こういうシリーズも書いていきたいと思ってます。
誰かがあったかい気持ちになってくれれば…嬉しいです。
寒い。
いくらマフラーを巻いたって、手袋をはめたって、この寒さは多分マシにはならない。
「…川崎」
目の前で声がしている。見上げることもできない。動けない。
「…何」
声が震えた。
「何で何にも言わないんだよ。何か今悪いこと言った?俺」
頭を左右に振る。
でも、本当は言った。
来週外国へ行く?夢のために?そのままそこに住む?
…訳わかんないし。
「そういうことだからさ。今まで仲良くしてくれた奴らにありがとう言って回ってるわけ。あーあ、彼女とかいたら泣いてくれんだろーけど!」
あっはっはと笑う。
笑えない。
そりゃね。あんたからしちゃただの幼馴染でしょうよ。
幼稚園から一緒でさ。大学までおんなじとこへ行ってさ。
…それだけなんだね。
「…頑張れよ」
「んだよ、その言い方!もっとないのか、幼馴染として!」
「頑張んなきゃ承知しない」
「はいはい、可愛くねーの」
可愛くない。皮肉って知っててもぐさっときた。
こんなに好きなの。何で気づいてくんないの。ずっと一緒にいるのに。なんで分かってくれないの?
「…ちょっと家まで送るわ」
「いらねーよ。一人で帰れるわ、バカにすんな」
「送りたい」
無理やり家から出た。寒い。心が。
いなくなる。こいつが。ヤダ。ワガママって思われるだろうけど。
でも、行かないで、なんて言えない。
可愛けりゃ言えたかもしれない。可愛けりゃ、こいつは行かなかったかもしれない。
「…もーお前の面倒見なくて済むからせいせいしたわ」
…ほら。こんなことしか言えない。
こんなこと思ってない。真逆のことしか言えない。せいせいなんてしてない。
「俺だって、お前にわぁわぁ言われなくて済むから嬉しいよっ!」
はいはい、そうでしょうね。
かまって欲しくて。何でもいいから話をしてたくて。
「…頑張れよ」
また同じことを言った。
しばらく無言で歩いていく。話すことがなくなったから。
涙なんか出ない。出したくない。でも、気づいて欲しい。
ずっと隠してきたこの気持ちに。
ふいに、隣を歩くこいつの手が、私の手にこつんと当たった。
たったそれだけ。なのにどうしようもなく手が熱くなった。その一瞬の温もりが、私の手に焼き付いたように残って。
その時だった。
私の手が、ゆっくり、暖かくなった。
「…川崎…」
気づいてなかったのは、私の方で。
何もかも自分のことしか考えてなくて。
「…何でよ…」
こつんと当たったあいつの手が。
一瞬で私の手を燃え上がらせたあいつの手が。
私の手を。
握っている。
しっかりと。確かにここにいるって、そう伝えるように。
「…気づけよ…」
知ってるつもりだった。こいつのことは全部。
そう、『つもり』だった。
「…好きなんだよ…川崎」
「…は?…何言って…」
言葉が出てこない。上手く出てこない。
何でよ。何で私なの。可愛くない、馬鹿な、お前のこと知ってたつもりの、私なの?
「…行きたくないよ、本当はさ…」
本当は、行かないで欲しいよ。
「でも、我慢しなきゃと思ってたしさ…」
笑って見送んなきゃと思ってたしさ。
「馬鹿だよな、俺…」
馬鹿だわ、私。
「…行かないで」
ぽつりと言った。驚いたように、あいつは私を見下ろした。
「行かないで。私だって…」
ちゃんとあんたに、伝えるから。
ありがとうございました!
まだまだ良くしていきたいので、感想とかダメ出しよろしくお願いします。