4-12 目は口ほどに物を言う
†††4-12
ジョン、ミリア、ベンはシャープについて中庭を移動していった。
その途中には色とりどりの花を咲かせた植物がそこかしこに生えていた。
「見事なものだろう?この庭園だけでもここに来た甲斐があるというものだ」
中庭の奥にはやや開けた場所があり、道場のような建物が建っていた。壁にはツタがびっしりと生えている。
「今日は使わないが、あの中にはそのうち入る」
「はい」
「ジョン、君は魔法は使えるのかね?」
「いえ、使えません」
「何か視えるか?」
シャープはジョンの目の前に手のひらをさしだした。ジョンには何かがあるようには見えなかった。
「何も見えません」
「よろしい。手を出しなさい」
ジョンが両手を出すとシャープはその手を取った。
体温とは別種のじんわりとした熱のようなものが手だけではなく、全身に伝わるのを感じた。
「何かを感じるかね?」
「はい」
「これが魔力じゃ。今、ワシの魔力を君に流しておる。この感覚をよく覚えなさい」
シャープが手を放すとジョンは軽くふらついた。
「あの、すみません。シャープさん」
「うむ・・・・・・。やや違和感があるな」
「シャ、シャープ・・・・・・?」
「うむ」
「あの、危険ではないのですか?」
「ん?ああ、並の人間ならな。だが、ワシがやれば問題ないのだ、ミリア」
「そうなんですか・・・・・・?」
「ああ。それに今回は急を要するのでな。やや乱暴でもやるしかあるまい」
他人の魔力を無闇に取り込むのは一般に危険なこととされている。だが、その危険性は十分に鍛錬を積んだものが指導する場合は回避できるのである。
それでもあまり推奨はされてはいないが。
「なるほど」
「ジョン、生物ならどれでも程度の差こそあれ魔力が流れておる。その木の魔力を感じ取ってみよ」
「やってみます」
ジョンはシャープの指した大木に近づき、幹に両手を添えた。
「感じたか?」
「これは・・・・・・魔力なのかな?」
「うむ。もう一度手を貸しなさい。・・・・・・この感じじゃよ」
「はい」
「よし、一時間で植物の魔力の流れを感じ取りなさい。二人は、この庭園の植物の魔力の流れを感じ取ってきなさい。それぞれの個体の違いがわかる程度に詳しくな」
「わたしは・・・・・・」
シャープはちらりとジョンを見たミリアの目の動きを見逃さなかった。ジョンに聞こえない程度に声を落としてミリアに忠告する。
「それは過保護というものだよ、ミリア」
「・・・・・・そうですか?」
「何にしても育てるときに手を出し過ぎるのはよくない。むしろ放って置いた方がよい」
「・・・・・・」
「どうするかね?」
「そうですね。・・・・・・わたしも植物を視てきます」
「うむ」
シャープはぱたぱたと中庭に駆け戻っていくミリアを見ていたが、すぐに踵を返し、懸命に木の魔力を感じ取ろうとしているジョンに近づいた。
「ミリアといったかの、いい子だ。優しいし、気が利く」
「・・・・・・そうですか?」
「いかんぞ、女性の心は難しい。丁寧に接しなさい」
「む・・・・・・」
「・・・・・・妙なところは素直でないな」
「よく言われます」
「ジョン、ちょっと目を見せてくれ」
ジョンが振り向くと、シャープはジョンの目をじぃっと見つめた。まるでジョンの心の中までも見透かすようなその瞳にジョンは動揺する。
「・・・・・・うむ。もうよいぞ」
シャープが視線をはずす。ジョンは思わず胸に手を当てて深呼吸した。
「何なんですか、一体・・・・・・?」
「ワシは目を見ればその人間がわかると思っておる。まあ、持論だがな。経験上、割と当たる」
「何割なんぐらいですか」
「まあ、二割だな」
「それは『割と』って言いませんよ?」
「ふむ、確かにそうだな」
シャープも今まで見てきた連中と同じくメチャクチャだなぁ、と悟った。
「それで?何かわかりましたか?」
「何か・・・・・・暗いものを感じる」
ジョンの動きが一瞬、ピタリと止まる。
「く、暗い?俺が、ですか?」
「最近辛いことがあったのだろう。違うか?」
「・・・・・・その通りです」
「早いうちに心の整理をすることだ。早くしておかないと後々厄介だぞ」
「・・・・・・。過去のこと、にはしたくないんですが・・・・・・」
「・・・・・・忠告はしたぞ」
シャープはくるりと方向転換をすると、庭園のどこかへ行ってしまった。
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祝100話!