4ー8 入団
†††4-8
バカ騒ぎの起きている一階から少し静かな二階、そしてベンの部屋のある三階へと上る。
二階、三階には部屋がならんでいるだけだったが、廊下の端には机とイスが置いてあり、座って話すことができた。
「ま、なにはともあれ、『東狼団』にようこそ。ジョナサン」
「・・・・・・。えっと・・・・・・東狼団って?」
「うちのレジスタンスの名前よ」
<由緒ある名前なんだよ>
「へーえ・・・・・・」
「・・・・・・本当にキティの声が聞けるんだな」
ベンが感心した様子で興味深げにジョンを見る。
「特に訓練せずに・・・・・・。へえ、こりゃすごい」
「あ、どうも・・・・・・」
<ジョン、東狼団に入ったんだろ?挨拶しないと>
「いけね、そうだった」
ジョンは黒猫に礼儀を指摘されて少しへこみつつも立ち上がり、ベンに向かって深くお辞儀をした。
「これからよろしくお願いします。えっと、至らないところがあると思いますが、」
「いいよ、そんなカタい挨拶」
「ええ!?」
<カタすぎだよ、ジョン>
「確かにカタいわね」
「え、えーと・・・・・・」
「ところで何でこんなに遅かったんだ?夕方までに連れていくって連絡したろ、ミリア?」
「ああ、そのことなんだけど、兄さん。ちょっと厄介なことになっちゃって」
「厄介?なんだ?」
「・・・・・・来て、兄さん」
ミリアはベンを手招きすると席を立った。ベンはすまないな、とジョンとキティに一言わびて後を追った。
「なんだろ?」
<さあね。『あたし、ジョンが好きなの!』とかかもね>
ごふっ、とジョンは飲んでいた水を吹きだしてしまった。
「・・・・・・てめー、覚えてろよ」
<冗談だよ、冗談。真に受けない真に受けない>
「まったく・・・・・・」
<で?ジョンはどーなのさ、その辺?>
「・・・・・・冗談じゃなかったのか、キティ?」
<気になるものは気になる>
「お前、」
<ちなみにミリアは脈ありだと思うな、僕は>
「・・・・・・!」
(ミリアが、まさか、そんな・・・・・・)
<・・・・・・プッ>
「クソォォォォッ!」
こんな猫に見透かされるなんて!とジョンは激しい自己嫌悪に陥った。
「お待たせ・・・・・・ってどうしたんだい、ジョナサン?」
「なにかしたの、キティ?」
「何でもねえよ・・・・・・!何でも・・・・・・!」
<僕はなにもしてないよ>
ギリギリとキティを横目で睨みつけるジョンと素知らぬ顔のキティを見て兄妹は腑に落ちないという顔をしていたが、話を元に戻した。
「ジョナサンは国軍にも入ったということは、まあ今のところ問題ない。ウチは今、ほとんど吸収されているからな。・・・・・・あ、今の団員には言うなよ」
「はあ」
「ジョン、あなたはあまりこの世界のことを知らないんだから明日はべらべらしゃべらない方がいいわ」
<本当にジョンはおしゃべりだからねえ>
「へいへい」
「・・・・・・それじゃあ、そろそろ寝るとしようか。明日も早いしな」
「そーね」
自分の部屋に戻って行くミリアの背を見てジョンは不思議な気分になった。
(ミリアもキティも花蓮のことを喋らないでいてくれたな・・・・・・。明日になったら二人に礼を言っておこう)
***
ジョンはベンと同じ部屋で眠ることになった。
部屋には二段ベッドが二つ。左の二段目をベンが陣取り、ベンの指示でジョンは右の二段目を占領した。
ベッドに寝転がって、ジョンはベンに質問した。
「残りのベッドの人は?」
「まだ下で騒いでるんだよ。気にしなくていい、帰ってきたら俺が何とかするよ。君はベッドを奪られないように気をつけな」
「わかりました」
「・・・・・・ところで、ジョナサン。ミリアのこと、どー思う?」
「・・・・・・あなたもそんなこと聞くんですか?」
うんざりした表情で見られてベンは慌てて首を振る。
「何か勘違いしてないか?俺はただミリアの様子を聞いただけだ」
「様子?様子ですか・・・・・・おっそろしく元気、かなあ」
ジョンはミリアと出会ったときのそれはそれは素晴らしい出会いの時間を思い出して言った。騙され、殴られ、笑われ、からかわれ・・・・・・。
「そうか・・・・・・。元気だったか。ならいいか」
「なにか気になることでも?」
「いや・・・・・・。それよりももう遅い。もう寝ようじゃないか」
「・・・・・・わかりました」
ジョンにはベンがどうも無理矢理に話を終わらせたような気がしたが、それよりもまるで話を始めたのがジョンであるかのような言いぐさがかちん、と来ていたので大して気にしなかった。
†††