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詰みゲー!  作者: 甲斐柄ほたて
第三章 狂った歯車は暴走を始める
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3-48 新たな約束

†††3-48


「うっ・・・・・・!」

「なにこれ・・・・・・!」

突然宿を襲った揺れはすぐに収まった。

しかし、クロックタウンでのことを思うとどうにも胸騒ぎがする。

「外に出ましょう!」

それはお嬢様も同じだったらしく、そう言うや否や部屋から飛び出して行ってしまった。

私もすぐに後を追って外に出ると、町の人々は皆一様にぽかん、とした表情で西の空を見ていた。

お嬢様もその方向を見ている。


真っ赤に灼けた夕日に茜色に染められた空に一筋、うねうねと曲がりくねった黒い影が伸びていた。

その黒い影は植物の成長を速回しで見ているかのように見る見るうちに巨大になっていった。

「お嬢様!」

私はお嬢様の手を取ると、影をよく見るべく高台へ上るための道を人をかき分けて走り出した。

「あれはさっきの町から伸びているの!?」

「わかりません!ここだ!この鐘楼に上りましょう!」


寺院に隣接するざっと見て四、五階はある鐘楼の前で私は立ち止まり、お嬢様を連れて扉を開けた。鍵はかかっていない。

見上げると吹き抜けになっていててっぺんにある大鐘が下から見えた。鐘楼は塔のように縦長になっており、螺旋階段が壁に沿ってぐるぐると輪を描いててっぺんまで続いている。

「お嬢様、行きましょう」

「ええ」

再びお嬢様の手を引き、階段を駆け上る。吹き抜けになっているせいか、ハトの巣やフンがあちこちにあった。

てっぺんの梯子を先に上り、後に続いて梯子を上ってきたお嬢様を引き上げる。


「・・・・・・あれはやはりクロックタウンですね」

頭の中の地図と影の伸びている位置を照らしあわせて、そう私は結論づけた。

高台から見ると影は周りの建物を飲み込むようにして大きくなっていた。

影は先ほどよりもさらに巨大になり、形状が安定してきていた。

「あれがわたしの住んでいた街・・・・・・」

実感湧かないわね、と言ってお嬢様は影に飲み込まれつつある街から視線を反らした。

「記憶が戻らなくても問題ない、なんて言ってたけど・・・・・・。正直妙な気分だわ。何て言うか自分の体が切られているのに痛くないっていう感じかしら・・・・・・」

やや自嘲気味にお嬢様はふふ、と笑った。

「お嬢様、」

「わかっているわ。今は個人的な感傷なんか捨てないと。あの影をなんとかしないとね」

「そうですね。ですが・・・・・・」

「なに?」


街を眺めるお嬢様を見て私は不意にお嬢様が遠くにいるように感じた。

いや、以前のお嬢様ではなくなったように感じたのだ。


「お嬢様、私と約束して下さいませんか?」

「どんな約束?」

「『もう弱音は吐かない』という約束です。」


このままでは昨日の約束は無かったことになる。

それは昨日までのお嬢様を忘れてしまうようでとても怖かった。

だからもう一度約束を結び直そうと思ったのだ。


「イヤよ」

「え!?」

しかし、お嬢様は私の真剣な提案を一刀のもとに切り伏せた。フリーズした私を見て、お嬢様がケケケ、と笑う。

「イヤよ、そんなの。わたしは弱音は言いたいときに言うわよ」

「あの、お嬢様、」

しどろもどろになった私を見て、お嬢様は真顔になった。

「・・・・・・その約束、いつしたの?」

「え?」


お嬢様は記憶を失くしているはずだ。約束について話した覚えも無い。だったらどうして・・・・・・。

「どうしてわかったのかって顔ね・・・・・・。わかるわよ。顔を見れば。あなたわかりやすいもの。・・・・・・それで、いつわたしはあなたとその約束をしたの?」

「・・・・・・昨晩です」

「そう・・・・・・。あなたがまた約束を結びたい気持ちはわかるわ。でもわたしとしてはその約束はやっぱりイヤ。わたしはわたしだから・・・・・・。今のわたしも尊重して欲しいの。だから、ね?」

お嬢様は私の手を取った。

「わたしの弱音はあなたが聞いてよ」


そしてお嬢様は不意に、にっ、と笑みを見せた。

全くしょうがないお嬢様だ。

お嬢様はきっと頑として譲らないだろう。そういうところはまるで変わっていない。

「しょうがないですね。お嬢様の提案とあれば、私はそれに従うのみです」

「よし。じゃあ・・・・・・」

「どうしたんです?」

じゃあ、と言って手を差しだそうとしてお嬢様はその手を止めてしまった。かわりにぽかんとした表情で私の顔を見つめている。

「あー・・・・・・、ごめん。あなたの名前、聞いていい?」

「私の名前はオーレン。オーレン・ブルーウォーターです、お嬢様」

「そう・・・・・・。オーレンね。わかったわ」

そう言うとお嬢様は私に手を差し出してこう言った。

「じゃあ、オーレン。握手よ。約束、忘れないでね」

「承りました、お嬢様」

私はお嬢様の小さな手を握り返した。


「さてと・・・・・・。あれを何とかしないとね」

「そうですね。行きましょうか」

西の空に伸びていた影は既に変化を止めていた。

塔。巨大な塔である。直径も高さもわからない。わかるのは塔の根本は少なくともクロックタウンのあった場所の何倍もの面積を占領し、先端は雲の遙か上に伸びている、ということ。

「・・・・・・ちょっと見ない間にすっかり大きくなっちゃって」

「少し大きくなり過ぎですね。叱ってやらないと」

「・・・・・・必ず、必ず倒すわ。例え何年かかってもね」

お嬢様はもう一度西の空に禍々しく聳え立つ巨塔を睨むと、踵を返して鐘楼から下りた。

「・・・・・・お嬢様が宣言なさったのだ。覚悟するがいい」

私も巨塔を一睨みしてお嬢様に続いて鐘楼を下りた。















†††


第三章おわり~

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