1-12,1-13 VS女魔術師①
†††1-12
「賭け?」
「そうよ」
出会ったときは可愛らしいとしか思わなかった少女は真剣な顔つきになっている。まあ、まだ十分すぎるほどにきれいだが。
「とりあえず店を出ましょう」
そう言った途端店の主人がコップを拭き始めたように見えたのは気のせいではないだろう。
表、店の外で俺と少女は互いににらみ合った。
「あたしがあんたをボコボコにするからあんたは逃げなさい。次にあの鐘が鳴るまでの間にあんたが立っていられるようだったり、『参った』を言わなければあんたの勝ち。そのまま帰してあげるわ」
「勝てなければ?」
それはつまりは目の前のかわいらしい少女が俺を相当痛めつけるという意味なのだが。
「もちろんレジスタンスに入ってもらって、その後壊した罪を償ってもらうわ。壊したことを後悔するほどにね」
「うーん・・・・・・」
「あんたに断る権利は無いと思うけど?」
少女が意地の悪い表情を浮かべる。
「・・・・・・わかったよ。その賭けに乗ろう」
†††1-13
「鐘の音はどのくらいの間隔でなるんだ?」
「一時間よ」
少女が怪訝そうな顔をして答える。まあ、そんなことを聞く奴は日常にそうはいまい。
しかし、少女の怪訝な表情を見て俺は気づく。一時間って「こっちの世界」の一時間なのか?元の世界と違うのか?
そんな疑問を持ってもそれをどうやって聞けばいいのだろう。
「何考えてんの?もう始めるわよ」
「あ、ああ。いいよ」
少女はゆっくりと手を挙げ、よーいどん!、とばかりに自分で手を振り下ろした。そして懐に手を突っ込み何かを取り出そうとした。それを見て、いや、見ずに俺は一目散に回れ右して人気のない路地に向かって走り出した。
少女のぽかんとした顔が目に浮かぶようだ。巻いてしまいさえすれば俺の勝ちなのだ。
「甘い!」
腹に重い何か、がめり込ん、だ・・・・・・。
俺は思わず膝をついた。少女の細い足が見える。俺の目の前に立って俺を見下ろしている。
「言ってなかったっけ、あたしは魔術師なのよ」
†††