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3-16 杞憂
†††3-16
「何だ?」
お嬢様が不思議そうな顔をしている。
「私からも謝らなければならないことがあります。・・・・・・今日の特訓については内容も最後の言葉も酷でした。申し訳ありません」
「うむ。気にせずともよい」
「それともう一点・・・・・・」
「まだ何かあるのか?」
お嬢様の眉が上がる。
「・・・・・・実は旦那様は明日、急遽会議に出席なさらなければならなくなりました。そのため、」
「もうよい、わかった」
お嬢様は私の言葉を遮った。
「お父様は明日はわたしと過ごせなくなったのであろう?」
「は、はい。その通りです」
私は心底驚いた。前回を見る限り、旦那様に関してのお嬢様の暴走ぶりはすさまじかった。
最初に学校へ行こうとしたのも、元はと言えばお嬢様の暴走を危惧しての配慮だ。
それが今回はまるで子猫のように大人しい。
私の考えは全て杞憂だった、ということか。
「・・・・・・明日は時間ができてしまったな。というわけで明日も引き続きよろしく頼むぞ、オーレン。魔術の稽古だ」
お嬢様は弱音を吐くこともなく、涙を流すこともなく、笑みさえ浮かべて、そう言ったのだった。
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