1-7, 1-8 衝動
†††1-7
「え?ど、どうして」
驚きのあまりうまく声が出てこなかった。ハンナの母は遠くを見やるように窓の外を見、気だるそうに頬杖をついた。
「何度軍を出しても負けるからよ。終いには兵隊まで逃げ出す始末なんだと」
「え、それじゃあ・・・・・・」
「そうよ」
ハンナの母はふっ、とやけっぱちの笑みを浮かべ、今まで腹の底に眠っていた感情を抑えきれずに不気味な声色で言う。
「この世界はね、滅ぶのよ、近いうちにね」
†††1-8
「そんな・・・・・・」
俺は何も言えなかった。
「だからあたしはあの子を、ハンナを連れてここに来たの。多分この辺りが魔物がやってくる最後の場所、国の南東の大陸なの。皆この辺りに移住を始めてるのよ」
そんなことをハンナの母は口元に笑みさえ浮かべて言った。
しかし、その目は虚ろだった。子供の前では決して見せなかった絶望が目を通して伝わってきた。
なんとかしたい、と思った。いや、ただ単純に心が痛んだ。
なんとも幼稚な感情だ。多分テレビで動物たちが森林伐採でどうの、貧しい子供たちがどうのこうの、などとやっているのを見ている時に湧く感情に似ていた。
でもひょっとしたら、とも思う。
平凡な人間が元いた世界からひょっこり違う世界に迷い込んでしまって、その世界のために戦ったりして、何かうまいこといっちゃう、というのは物語のテンプレートと言ってもいい。王道だ。
ひょっとしたら俺もうまいこといっちゃうのかもしれない。
俺は今まさにそんな設定にぴったりの人間ってワケだ。
だったら試してみるのも悪くは無い。
死んで元々。というかそもそも夢の世界かもしれないのだ。何をしたっていいだろう。
俺は適当にそう決意し、半ば衝動的に口を開いていた。
「俺に町への行き方を教えて下さい」
†††