1-6 五年で七割
†††1-6
昼食の野菜たっぷり栄養満点、雪山帰りにぴったりの暖かいスープをいただき、おなか一杯になってハンナが幸せそうに昼寝をしているとき、母親が話を切りだした。
昼食の皿を片づけた後のテーブルに母親と俺は向かい合って座っていた。
何から話そうかね、とつぶやく母親の表情からは何を考えてるのか読めなかった。
「うーん。そうさね。ことの起こりは五年前さ。たったの五年。それでこの世界の様相はすっかり変わってしまった」
どうやらただの世間話ではないようだ。
「北西の大陸の端の端、そこに穴が開いたと言われてるわ」
「穴・・・・・・?」
落とし穴だろうか?
「落とし穴ですか?」
「そんなわけないでしょ。穴からね、何かこう、訳の分からないものがいっぱいでてきたの。魔物って言われてるわ」
「魔物・・・・・・」
大分トンデモ展開なようだ。
「そう。その穴から無限にわき出てくるの、この世界のどんな動物よりも速くて、凶暴で、強い生物が。話では人間の三倍もある巨人とか、火を吐く竜とか」
まるでRPGに出てくる敵キャラだ。できれば一生関わり合いになりたくない。
「それでどうなってるんですか。その穴は。塞がったんですか?」
「まさか」
窓から入る日の光が母親の顔に陰を作り、その表情に写る絶望がより輪郭をはっきりとさせていた。。
「穴は塞がってないわ。国は穴を塞ごうと何度も何度も軍を出したんだけどね」
「今、抗戦中?」
「そう聞いてるわ。でももう穴を塞ぐどころの話じゃないのよ」
母親は背もたれに全体中をあずけ、虚ろな目で天井を見た。
「もう、この国の七割は占領されてしまった、という噂よ」
†††