2-6 決意表明
†††2-6
「・・・・・・重いわよ。と言うよりも今のあんたの態度が軽いのよ。なんで今そんなに軽いの」
<そうだよ!不謹慎だよ!>
「いいんだよ。心変わりしたんだから」
俺は二人の文句を聞き流して肉を一欠片口に入れた。
するとミリアとキティからそれぞれ杖と猫パンチの攻撃をもらった。
杖は普通に痛いし、パンチは爪が立ってたのでそこそこ効いた。
「全く、昨日自殺しようとした人間の言葉とは思えないわね」
<見損なったよ!ジョン!>
「ううっ。てめえら、覚えてろよ・・・・・・!」
俺は二人を恨みの念を込めてにらみ、なかばヤケ気味に叫んだ。
「俺は死ぬのが怖くなったんだよ!笑いたきゃ笑え!死んだ人間が恋しくなって死のうとしたのに、死ぬのが怖くなってやめにしたんだ!俺は・・・・・・」
そこまで一気にまくし立てて、俺は本当の怒りの矛先をごまかしていることに気づいた。。
俺が不謹慎だとか言ったミリアやキティなんかじゃない。
俺だ。
俺は俺に腹を立てているのだ。
死んで花蓮に会いたいと自殺を試み、怖じ気づき、いまだのうのうと生きながらえている俺。
「俺は・・・・・・、情けねえ人間なんだよ・・・・・・」
そんな言葉が自然と口をついて出た。
両手で顔を覆い、うつむく。情けない自分を、醜い自分を見られたくなかった。
顔を覆う俺の手を暖かい何かがゆっくりと引きはがす。
ミリアの手だった。
「・・・・・・死ぬのが怖いことの何がいけないのよ」
ミリアが静かに、しかし怒りさえも秘めた声で言う。ミリアはしゃがみ込んで俺の手を握り、下からのぞき込むようにして俺と目を合わせた。
「死ぬのが怖いなんて当たり前よ。この国にいる人は皆その恐怖と戦ってるの。いつ魔物がやってきて、町を、家族を、滅茶苦茶にしていくのかわからない。不安で不安でたまらないわ。でも毎日を今まで通り、いつも通り、生きていくしかないの。そんな私たちの気持ちが今日ここに来たあなたにわかるの?・・・・・・あたしは、」
ミリアは決然と立ち上がった。座ったままの俺を、立ち止まって絶望にくれる俺を上から見下ろす。
「あんたがまた死のうとしたり、死にたいとか言ったり、考えたりしたら、許さない」
俺はミリアの目を見た。真っ直ぐな目。一分たりとも曲がらない瞳。俺は彼女の目によく似た目を知っている。とても懐かしい、恋しい目だ。同じように覚悟を持って毎日を生きる人間の目だ。
俺もミリアにならって立ち上がった。
ミリアは俺に道を示してくれている。
ならば俺は彼女に俺の心を示さなければならない。
でなければ俺は花蓮にも、ミリアにも申し訳が立たない。
「・・・・・・わかった。俺はもうそんなことしない。二度と。誓うよ。そして一度は過ちを犯した償いとして、あいつに、花蓮に、恥じないよう、俺はこの国でこの国の人のために戦う。これ以上・・・・・・誰かが死ぬのを見ているだけなのはごめんなんだ」
ミリアはしばらく黙って俺の覚悟を計るように俺の目を見つめた。
「当然よ。あなたはもうレジスタンスの一員なんだから」
ミリアが手を差し出す。俺はその小さな手を握り返す。俺たちは強くうなずき合う。キティが握手した手に乗る。顔を洗う。あくびをする。俺がぱっと手を離す。キティが落ちる。キティが猫パンチを繰り出す!効果は抜群だ!
「はーあ、ばかね・・・・・・」
にゃにゃにゃにゃにゃー!と繰り出される猫パンチの連打でやられる俺の情けない姿を見て、ミリアはそうつぶやいた。
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