1-5 丘の上の奇妙な集落
†††1-5
え、と振り返ると小さな女の子が不思議そうに青い目で俺をじいっと見ていた。思わず見つめ返してしまった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「えっと、君は?」
女の子が何も言わなかったので俺から質問した。
「あたしは向こうの家に住んでるの」
そう言って指をさす。その指の先にはドーム型の家々が建っていた。妙な家だった。
半球状で、遠目からだと何でできているかはわからなかったが、白く、家にしてはいやに小さかった。
「お兄ちゃんはどこから来たの?」
「俺は・・・・・・」
夢の中でもこんな小さな子供に嘘を言うのはためらわれた。かといってわからないんだよ、あははー、も子供に言う選択肢としては無かった。
「ハンナー!どこだい?」
そのとき救いの声が俺の耳に届いた。女性の、おそらくはこの子の母親の、声だった。
「お母さーん!ここだよー!」
ハンナと呼ばれた少女が母親に向かって手を振る。母親はハンナを見つけて、ついでに娘の隣にいる男を見つけてやや目元を険しくしてずんずんと近づいてきた。
「料理の手伝いをしてほしかったんだけど・・・・・・あんた、誰だい?」
肝っ玉母さん的な雰囲気を醸し出しつつ、腰に手を当てて聞いてくる。ありがたいことにさほど敵意は感じられなかった。
「坂井翔太と言います。・・・・・・散歩していたらここに来ました」
嘘は言ってない。言ってない。
「へえ・・・・・・。今から昼食なんだ。あんたもどうだい?」
「えっ、いいんですか?」
「いいさ。ハンナ、牛の乳を搾ってきてくれる?」
「わかった!」
そう言ってハンナは母親の頼みを聞いて走っていった。
転ばないようにね、と叫ぶ母親に手を振り返すハンナ。
全く、と母親は苦笑いを浮かべる。しかし、振り返って俺を見た時にはその目に笑みは残っていなかった。
「・・・・・・あんた、本当はどこから来たんだい?」
え、と口ごもる俺に母親は言う。
「ここは崖に囲まれた山の上なんだ。入り口を通れば鈴の音が鳴るようになってる」
俺は母親の目をしっかりと見た。ハンナと同じ澄んだ青色だった。
「・・・・・・それをなぜ今言うんですか。俺が襲いかかる、とか思わないんですか」
ハンナの母親はにや、と笑った。
「おもしろいことを言うわね。なんとなく大丈夫だと思ったのよ。・・・・・・今なら娘もいないしね。で、あんたは何なの?」
「わかりません。実は俺もどこから来たのかわからないんです。と言うよりも俺は今ここが夢の中だと思っています」
母親が俺をしばらくぽかんと見つめ、いきなり笑いだした。
「あはははは!あんた本当に面白いね!その夢の世界についてご飯の後にでも説明したげるよ!」
そう言って笑い続ける母親の後ろでを俺はため息をついた。
なにやら面倒なことに巻き込まれているのかもしれない。
†††