2-3 黄色い髪飾り
2-4 ,2-5は割と重い内容です。ごめんね。
†††2-3
「今日は俺の方が早かったな」
「今日だけよ!」
信号の向こう側に来た花蓮に向かって俺は叫んだ。
「これで俺に偉そうに言えなくなったな」
そう言って俺はにやにやと笑った。花蓮が道路の反対側で手を振り上げて怒っている。
「一回だけじゃないの!今日は時計が鳴らなかっただけよ!」
「俺と同じ言い訳だな~」
「翔太と一緒にしないでよ!」
花蓮は一度ふう、とため息をついた。
「信号、まだ変わらないのかしら?」
「いつもこんなもんだろ?」
「あっ、点滅した」
その道は今思えば非常に見通しの悪い道だった。
狭い車道に交差する形で横断歩道が設置されており、横断を始めるまで車道を確認することはできない。
十分に注意して渡るべき道であった。
「なんだよ。なんで、そんな笑ってんだよ」
「ふふふ、だって待ってくれてたんでしょう?」
「あ、ああ?だっていつもお前待ってんじゃん。お前が遅れたら俺が待つのは当たり前だろ?」
その時の花蓮の笑顔は本当に綺麗だった。
「あ、そういえば、お前さ」
「うん?」
花蓮が小首を傾げる。俺はふい、と背中を向けて叫んだ。
「髪留め変えたよな!」
その時、信号が変わって、間の抜けたメロディが鳴った。
花蓮がててて、と横断歩道を走って渡ろうとする音を俺は後ろ向きのまま聞いていた。
ギキキイイイイイィィィィィッ!!!!!
背後で、硬くて無機質で耳障りで不吉な音がした。
不自然な静寂が俺の呼吸と鼓動を速める。
俺が振り返ると、すぐ後ろにいるべき花蓮はそこにいなかった。
見えたのはブレーキの跡をアスファルトに長々と焼き付けて停車していた大型のトラックだけだった。
そのトラックの若い運転手は何かを凝視して時が止まっているかのように動かなかった。
彼の視線の先を見て、俺は世界の理不尽さを悟った。
†††