2-1 部屋はいくつ取ったんだろう?
特に意味は無いけど『2』に突入。
†††2-1
黒いローブを身にまとった少女が野菜と鶏肉のスープをすする。
彼女がいつもかぶっているこれまた黒いとんがり帽はテーブルを囲む四人目の椅子の上に鎮座している。それがマントの男にはなんとなく子供のように見えた。
「あなたはこれから私たちのレジスタンスに入るわけじゃない?ジョン?」
「ショウタな」
彼女の言葉にマントをまとった男が答える。
マントは内側はやや黒みがかった赤、外側はやはり黒みのある青だ。
マントの下の服はその宿屋の周囲の人間と比べて珍妙、と言わざるを得ない。
宿屋の食堂にいる他の客は誰も彼も単色で厚手で露出の少ないゆったりとした服が多いのに対して、マントの男の内側の服は本人曰く、半袖と短パン、とかいうものらしい。
<だから僕たちは君の話が聞きたいんだよ、ジョン>
テーブルの上の一角にちょこん、と乗っかって小皿に取り分けてもらったスープをぺろぺろとなめつつ、ちらちらとマントの男を見上げながら黒猫が言う。
「ショウタだ。お前たち、俺の話をもっとよく聞こうか」
「そうなのよ。聞かせてよ、あなたの話」
「・・・・・・ミリア、俺の名前は?」
「ジョン」
「・・・・・・名字は?」
「サッキー」
「思いっきり間違ってんじゃねえか!話を聞く前にまず俺の名前を覚えろ」
「ふう・・・・・・。あなたには一度きちんと話しておく必要がありそうね、ジョニー」
「ジョンだ!・・・・・・いや違う、ショウタだ!」
そこでミリアは丸々二呼吸は間を取って言った。
「この世界では本当の名前を知られてはいけないのよ!」
<なんだって、ミリア!>
目をカッと見開き、世界の真実を明かすのは黒いローブ、ミリア。
世界の真実を知って驚き、口の中の物を吐き出したのは黒猫、キティ。
世界の真実を前にしても淡々と鶏肉を口に運ぶのはマントの男、ジョン。
「ふふふ、あなたが知らないのも無理はないわ。これは魔術師の間の掟。猫のあなたは知らなくてもいいのよ」
「・・・・・・どういうことだ?」
マントの男、サッキー・ジョン(坂井翔太)は卵をフォークで刺そうとして失敗し、いきおいよく皿からはじき出されたその卵を黒猫がうまそうに食べているのを見ながら質問した。
「この世界では本当の名前を魔術師に知られてしまうと非常にまずいことになるのよ!」
<ど、どうなるんだい!ミリア!>
舌っ足らずな声で精一杯の緊迫感を持たせて黒猫、キティが聞く。
「・・・・・・恐ろしいことが起こるのよ」
サッキー・ジョン(坂井翔太?)は黙ってスープをすすった。
「・・・・・・で、俺の名前は?」
「<サッキー・ジョン>」
「本当の名前は?」
「<サッキー・ジョン>」
「今の話はなんだったんだ?」
「ああ。今の嘘だから」
「カミングアウト早っ」
<え、ミ、ミリア!どこからどこまでが嘘なんだい!>
「キティ、お前はもう黙れ」
「ところでね、ジョン。今日はあなたの話をしてほしいのよ」
「話の方向を曲げすぎだろ。あとジョンじゃねえ、ショウタだ!」
<そうだね、ミリア。今日は新しい仲間、ジョンの話が聞きたいね>
「ジョンじゃねえ!あとお前はさっきの話はええんかい!」
<え、何の話?>
「もういい、この鳥頭」
「じゃあ、話してね、ジョン」
<面白い話を頼むよ、ジョン>
ジョンは怒る気力を失くした。
†††