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詰みゲー!  作者: 甲斐柄ほたて
第五章 盤上の仮面舞踏会
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5-4 一難去って…

 ~前回のあらすじ~

魔動飛行船<キャシャラト>に乗って中央大陸セントリアへ向かっていたジョン、シャープとその他四人は海上で魔物、<大蜂ジャイアントビー>の群に出くわす。ポーン級の衝突に耐え、ルーク級を片づけたジョンたちであったが・・・・・・。

<紫電槍ライトニングジャベリン>を頭部に受けたルーク級の<大蜂>は黒こげになった身体を崩壊させながらゆっくりと海へと落ちていった。


「これで敵はいなくなったか・・・・・・」


ふーやれやれ、とジョンが額の汗を拭いながら天井のハッチからハシゴを伝って降りた。するとジョンのところにシャープたちが寄ってきた。


「なんかわからんがよくやったのぉ、ジョンよ」

とシャープがジョンの肩を叩く。そんなことないさ、と謙遜しながらジョンの鼻が伸びているように見えたのは気のせいではないだろう。


そのとき、操縦席から「う、わー・・・・・・!」というどこか間の抜けた叫び声が聞こえた。ローシェがお腹でも下したのだろうか。


「どうした? 腹でも下したのか?」


ジョンたちが操縦席に入ると、ローシェは本当に具合の悪そうな顔で力なく笑い、


「ルーク級が空けた穴からポーン級がなだれ込んできました」


と言った。



         ***



「は?」


ジョンはぽかんとするばかりだったが、やはり経験の差というものはあるらしい。ペニーがいつもよりさらに髪を逆立てながら聞く。


「半壊したシールドを帰化させてスピードを上げれば振り払えるんじゃないッスか? 抵抗が減るッスから・・・・・・」

(※帰化・・・・・・魔力から具象化したマテリアルを再び魔力に戻すこと)


ペニーの提案にシエルがふるふると首を横に振る。


「試みたが、<大蜂>はすでに機体に取り付いてしまっている。速度を上げた程度では振り払えない。当然<魔銃>は使えない。機体が損傷するからな」

「えーっと・・・・・・、<大蜂>が機体に取り付いていたとして・・・・・・一体何がまずいのかしら?」


アーニャが割り込みで疑問を口にする。


「ただ機体に穴を空けられる程度なら問題は無いのじゃ。高度はさほど高くないからの。気圧や温度でどうこうということはない。問題はのぅ・・・・・・」

「スペルだよ、アーニャ」


大事なキーワードをローシェがしれっとした顔で口にした。シャープの恨めしげな視線に気づくことなくローシェは続ける。


「万が一、連中が飛行スペルに傷を付ければ<キャシャラト>は墜ちる。文字通り、墜落だ」


ローシェは手で飛行機が落ちる真似をした。その仕草はお世辞にも分かりやすくはなかったが、妙に落ち着いたローシェの様子が逆に不気味だった。


「墜落か・・・・・・。何とかならないか?」

「なりませ・・・・・・」


ジョンの質問にローシェはキッパリと答えようとして、止まった。


「・・・・・・ローシェ?」


黙りこくったままのローシェを心配してジョンが肩を揺する。するとローシェはホラー映画に出演できそうな形相で勢いよく振り返った。


「ジョンさん!」

「お、おう、なんだローシェ」


ジョンはローシェの形相にやや気後れしていた。ホラー系は苦手なのだ。


「なんとかしてください!」


そう言ってローシェはジョンの肩をがしっとつかんだ。



         ***



「なんとか・・・・・・ってこういう意味かローシェの奴・・・・・・」

「ほーお、こう一日に何度も来られると俺としては複雑な気分だな」

「黙ってろよ」


ジョンはスキル<魔導の極意(スペルハート)>で<試練の塔>に来ていた。おかげで会いたくもない<番人>と会うハメになったのだ。

四章の最後くらいに出てきた<試練の塔>。

<試練の塔>ではどのようなスペルでも獲得可能だ。

ただし、その能力は選ぶことはできても獲得条件の試練、獲得スペルに付与される使用リスクはジョン自身には決められない。


「ふん、用件はわかってるだろ。さっさと『物体を浮遊させるスペル』を修得するための敵を出せ」

「そうトゲトゲすんなよ。俺だって好きでお前をいじめてるワケじゃないさ。これが俺の『役目』なんだよ」

「・・・・・・いいから早くしろ」

「へいへい」


ジョンの言葉に応えて<番人>がぱちん、と指を鳴らす。ジョンは具象化した剣を構え、<番人>に向かって叫んだ。


「もったいぶるな!早くしろ!時間が無いんだ!」


<番人>はどこから出したのか長いベンチに寝そべって本を読んでいた。まるでこれから起こることには興味が無い、と言わんばかりだったが、それでも<番人>はやれやれと首を振ってジョンに忠告した。


「ふん、もう呼んださ。あと三秒後に部屋のまんなかに出てくるからな。ちゃんと見とけ」

「どんな敵が出てくるんだ?」


三。


「弱気じゃないか、怖いのか?」

「バカ言え。参考までに聞いてみたんだよ」


二。


「そろそろ出るぞ」

「ドンと来い!」


一。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


零。





部屋の中央に忽然と現れたそれは、



直径一メートルの、



ふわふわ浮かぶ、マンホール。




          ***



「マンホール!?」

「マンホールだよ。直撃もらうなよ、死ぬからな」


驚くジョンに<番人>がページをめくりながら忠告する。

その<番人>の様にイラッときたジョンだったが、すぐに注意をマンホールに戻した。


というか、高速でまっすぐ突っ込んでくる鉄の塊を前にしては<番人>なんか気にしていられなかった。


「速っ!」


通り過ぎざまにジョンが叫ぶ。ジョンはなんとかかわすので精一杯だった。


(でもドッジボールの玉よりいくらか速い程度だな!)


そのマンホールはまっすぐにジョンに突撃した後、直角に上に曲がり、急降下してきた。


「重力で加速するつもりかよ!だったらこれでどうよ!」


ジョンは具象化魔法マテリアルで自らを覆う巨大なイガグリが如きトゲ付き球体を作った。

マンホールはトゲの中に突っ込んでくるようなマネはしない、と高をくくっていたのだろうが、


「浅はかだな!」


<番人>のその言葉が正解だった。

マンホールは超加速落下の勢いゆるめることなくジョンのイガグリシールドに突撃した。


結果。


マンホール、無傷。


イガグリシールド、貫通。


ジョン、捕獲。



「・・・・・・誰が浅はかだって? クソヤロー」


ジョンは破壊されたイガグリシールドの中で氷の盾を構え、マンホールを凍結停止させていた。


「・・・・・・反撃特化のシールドなんて張らずに防御特化を張るべきだと思ったが、なるほど。防御の甘いシールドを張

り、突撃を誘ったわけか。やるじゃないか」

「ほら、さっさとスペルよこせ。勝ったぞ」

「厳密には殺してないがな。まあいい。くれてやろう。

<ナミノリ>だ」

「サーフボード?」

「人間なら重量に関係なく十人まで浮遊させられる。ただし使用者に触れていること。連続使用可能時間は五分。断続使用に制限は無し。魔力消費はかなり多め、だ」

「・・・・・・性能が良すぎるな。魔力消費はどのくらいなんだ?」

「連続五分使用可能と言ったが、一分で紫電槍一本分だな」

「あれ作るのに半日分の魔力使ったんだぞ? 残りの魔力で何秒飛べる?」

「魔譜を破ればいいだろうが。回復アイテムはどんどん使っとけ。死ぬぞ」

「へーへー」



           ***



「取ってきたぞ・・・・・・ってなにこれ落下中?」


ジョンが<試練の塔>から戻ると船室でシャープたちが浮いていた。自由落下というやつだ。かなりギリギリだったらしい。


「ちょうど良いところに帰ってきたのぉ」

「早く何とかしてください!」


のんびりとしたシャープとは対照的にアーニャが鬼気迫る表情でジョンに叫ぶ。

どうやら時間がないらしい。

迷っている暇は無さそうだ。


「仕方ねーなー・・・・・・」


ジョンはポケットから魔譜をごっそりと抜き取ると口にくわえて噛みちぎった。


ジョンの体の奥底から大量の魔力が溢れる。多すぎたかもしれないが、ケチっていられる状況じゃない。


「召喚、<ナミノリ>! 俺に捕まれ!」


ジョンの目の前にぼふん、とサーフボードが現れた。

ジョンはそれに乗ると浮遊魔法で移動し、仲間を回収し、

ハッチから外へ飛び出した。

同時にすさまじい砂嵐に襲われた。目を開けることも、口を開くこともできない。



この時点で<ナミノリ>発動から三十秒経過。



<キャシャラト>はジョンたちの脱出とほぼ同時に地面に墜落した。

バキバキと硬質のマテリアルが破壊される音が響く。

あれが墜落しなければミリア探しもどれだけ楽だったろう、などという考えがジョンの頭をよぎった。


しかし、すぐに

(過ぎたことだ)

と頭を振って着地地点を探し始めた。浮遊可能時間はいくらも残っていないのだ。


中央大陸セントリアに到着したらしく大地があるのは結構なのだが(海なら確実にジエンドだった)、いかんせん砂嵐が激しく、地面が見えず、下手をすると墜落よろしく地面に仲間を叩きつけてしまうかもしれなかった。


しかし

(・・・・・・ええい、ままよ!)

とジョンはキャシャラトが墜落した付近に突っ込んでいった。さきほどの音で地面までの大体の距離がわかると踏んでいたのだ。

このまま飛んでいればどの道、仲間を落としてしまう。なら一か八か!という思考が働いたようだった。


しかし、ジョンが背負っているのはお荷物ではない、仲間である。


「<ウィンディア>! ジョン、砂嵐は任せろ!」


ペニーの叫び声で砂嵐が割れて目を開けることができるようになった。


「サンキュー、ペニー!」


ジョンは地面に無事に着地し、仲間を下ろすとへたりこんだ。さきほどの魔譜の分の魔力はとっくに使いきっていた。

隣でペニーが再び風魔法<ウィンディア>を使う。砂嵐を晴らせて、目的地を見るためだ。


しかし、ペニーが晴らしてくれたおかげでジョンたちは数十体の人型の魔物に囲まれていることに気づいた。


「一難去ってまた一難・・・・・・」

ジョンは力無くそう呟くと、はは、と笑った。


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