1-19 黒猫参上
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「じゃあ、いいわね?レジスタンスに入ってもらうわよ」
「ああ、いいよ」
我ながら不機嫌な声だ。
「あんた、賭けに負けたのがそんなに悔しいの?」
「ふん」
俺たちは今、先ほど少女に勧誘を受けた店にいる。店としてはありがたい客だろう。こんなにまずい茶を日に二度も飲みに来る客などそういまい。店主は今度はスプーンを磨いている。食器をきれいにするのはいいが、店ももう少しきれいにした方がいいだろう。
「で?償いって何をすればいいんだよ」
「ああ、いいわよ。別に」
「は?」
茶をすすりながらポロッと少女の発した言葉に俺は間抜けな声を出してしまった。
「別に償いなんていいわよ。あんたが入ってくれるなら別に。あれ元々壊れてたし」
「・・・・・・なるほどね」
それなら妙な違和感も説明がつく。そもそも彼女には「俺をレジスタンスに入団させる」ということしか眼中に無かったのだ。そしてガラス細工は・・・・・・。
「あれは商売道具か?」
「ピンポーン♪」
ため息をつく俺を見て、少女はケタケタと笑った。
「ああやって嘘泣きすれば大抵の奴は帰らずに戻ってきてくれるわ。後は罪悪感を植え付けて入団しやすい状況に持っていくの」
簡単でしょ?と少女は左耳のイヤリングを輝かせる。
「ったく、あくどいよなあ。なんでそんなにまでしてレジスタンスに入れたかったんだよ?」
ずずず、と俺は茶をすすった。
「だって違法だし」
俺は茶を全部吐き出してしまった。
「違法!?」
「あ、いや、違うわ。今のウソ。今は違法じゃないわ」
「元々違法だったことは否定しないのか!?」
「まあまあ、その話はまた今度ね」
笑顔を浮かべる少女を見て俺はもう一度茶をすする。
「・・・・・・ところでなんで俺にやたら執着したの?」
「え?ああ。だってあなたレジスタンスのこと知らなかったでしょ。だからよ」
「知っていたらまず断るようなところなのか・・・・・・」
「そういうこと♪」
「なんてところに入っちまったんだ・・・・・・」
「そんなに落ち込まないでよ。なんだかんだ言ってきっと楽しいから。あ、あなた名前なんて言うの?」
「ん?ああ、俺は坂井翔太。坂井か翔太って呼んでくれ」
「サカイ、ショウタ?妙な名ね。うーん・・・・・・、サッキー・ジョンでいい?」
「絶対ダメ」
「ダメ?」
「・・・・・・ショウタ、で」
「・・・・・・わかったわ。ショウタ、ね」
その時俺たちが囲んでいるテーブルの下からにゃあ、と小さな鳴き声が聞こえた。
見ると小さな黒猫が歩いていた。
「あら。キティ、お帰り」
少女がテーブルの下に現れた黒猫に手をさしのべる。黒猫は少女の手から肩へと登った。
<ただいま~>
猫がしゃべった。
もう一度言おう。
「あ、猫がしゃべった」
「<え?聞こえるの?>」
「え?ああ、うん」
猫と少女両方に聞かれて俺は少しどもりながら答えた。
†††