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詰みゲー!  作者: 甲斐柄ほたて
第五章 盤上の仮面舞踏会
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5-2 空の旅、異変の影

ごうんごうん。

ごうんごうん。


野太い軋み声を上げながら<キャシャラト>は順調に空を駆けているようだった。小窓からは豆粒ほどになった地上の建物が見える。おそらくこの世界の一般的な市民はこんな景色を見ずに一生を終えるのではないだろうか。

そんなわけで、


「うわー!高っかいですねー!」


そう言って窓にしがみついている少女がいるのも無理は無い話なのではないだろうか。


ジョンたちが<キャシャラト>に乗り込むと、中にはパッと見て三人の男女がいた。

一人は長身の男。髪の毛が『怒髪、天を衝く』状態になっている。おそらく二十代後半。

二人目は丸っこい体型の男。大人しそうな見た目で驚異的な丸顔であること以外には特にこれと言った特徴はない。怒髪と同じく二十代後半か。

三人目は赤毛の少女だ。丸メガネに三つ編みのツインテール。たぶん十代後半。


赤毛の少女が窓から離れてジョンとシャープに近づいてきた。他の怒髪と丸顔もそれに続く。


「ご苦労様です!ペンシル准将、勇者サッキー・ジョンさん!」

「うむ、ご苦労アーニャ。二人もな」

「「ご無沙汰しています、准将」」


ジョンは『サッキー・ジョン』と呼ばれたことで少しむっとした顔をしていた。赤毛の少女、アーニャはそれにめざとく気づいた。


「おや、どうしました。サッキーさん?」

「・・・・・・できればジョンと呼んでくれると、助かる」

「わかりました!サッキーさんですね!」

「これっぽっちもわかってないじゃん!」


ジョンが声高に叫ぶと赤毛の少女はくすくすと笑った。


「冗談です、ジョンさん。レイン様にからかうように言われていたので」

「あの白髪幼女め・・・・・・。今度会ったら高い高いしてやる」

「それは罰なのか?」


と、シャープ。ジョンはそれをスルーすることにした。


「それで、そちらのお二人さんのお名前は?」


ジョンが自己紹介も済んでいない怒髪と丸顔に話をふった。すかさず怒髪が名乗る。


「あっしの名前はペニー。その筋ではペネトレイターと呼ばれてまさぁ」

「どの筋だよ・・・・・・」


髪の毛だけじゃなく口調まで変なのか、とジョンは心の中でぼやいた。そこへ、丸顔の男が名乗る。


「私の名前はシエル。その筋ではシールドと呼ばれているよ」

「だからどの筋だよ・・・・・・」

「そのうちわかりますよ」

「ふーん。ところでこれで全員なのか?」

「いいえ、もう一人いますよ。今は操縦してます」

「ここに呼びますか?」


赤毛の少女、アーニャがメガネをきらりと光らせながら言う。


「いや、ダメだろ!船が墜落するわ!」



***



船を落とすわけにも行かないのでジョンたちはぞろぞろと操縦席へ移動した。

操縦席に座っていたのはキャスケット帽をかぶった少年だった。アーニャと同じく十代後半か。


「ご無沙汰しています、シャープ准将。はじめましてジョンさん、僕はローシェと言います」


席を立ちジョンとシャープに一礼すると、


「失礼します」


と詫びてローシェは再び席について操縦を始めた。


「大陸まではあと五時間くらいで着きます。その後はどうなるかわからないので皆さん、準備をしておいてください」

「何よ、ローシェ。回りくどいじゃない。何があるのよ?」


ローシェにアーニャが随分と砕けた口調で話しかける。ペニーがジョンにささやく。


「ローシェとアーニャはデキてるんでヤンスよ」

「そうなのか!?」

「あっしのカンでさぁ」

「カンかよ・・・・・・」


二人のささやきを聞いてか聞かずか、ローシェはアーニャに厳しい声で注意した。


「アーニャ、仕事中ですよ。何ですか、その口調は」

「いいじゃないの、もうこの先ずっと仕事じゃない。だったら全部プライベート扱いにしないと身が持たないわ」

「なんですか、その理屈は」

「いーからいーから。それで何があるのよ?」

「一番の懸念は魔物との遭遇です」

「あたし飛行型の魔物はよく知らないんだけど」

「海上には連中はほとんどいない。魔力が供給できないからね」

「ふむふむ」

「だから警戒すべきは大陸に入ってからだ。<キャシャラト>は速いけれど魔物と比べて格段に速いわけじゃないからな」

「なるほどねー」

「・・・・・・ちょっといい?」


ローシェとアーニャの会話に割り込んだのはジョンだった。


「魔物って生き物だろ。魔力が必要なのか?」

「魔物は生き物ではありませんよ。あれは<具象化結晶マテリアル>の身体を持った魔動人形です」

「え?」


ジョンはポカンとした顔をしてシャープを見た。


「言ってなかったか?」

「ひとッことも言ってねえよ!」

「すまんすまん。まあ、今わかったからいいじゃろ?」

「よくねえよ!」



***



ジョンがシャープにツッコんだ四時間三十分後。

ローシェとシャープは操縦席で話をしていた。


「見てください、中央大陸セントリアの陸影です」

「うむ、いよいよだな」

「はい。・・・・・・ん?」


そのとき、具象化ガラス越しに(要するにフロントガラス越しに)前方を見ていたローシェは眉をひそめた。


「どうした?」

「十一時の方角に<大蜂>の群です」

「・・・・・・あの黒い霧か!」

「視認できる限りではポーン級ばかりのようですが・・・・・・あの中にルーク級がいないとは断言できません」

「回避は?」

「不可能です。もう気づかれています」


そう言ってローシェは少し上を指さした。具象化ガラスの端に手のひらほどの大きさの半透明な置物が乗っていた。しかし、それが置物ではないことをシャープたちは知っている。


「<硝子鴉>か」

「たった今気づきました。申し訳ありません」

「いや、いい。気づいても何もできん」


シャープは徐々に迫ってくる黒い霧に背を向け、ジョンたちが休んでいる第一貨物室へと向かった。


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