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詰みゲー!  作者: 甲斐柄ほたて
第一章 絶望する少年の運命は廻り始める
1/141

1-1~1-4 開幕

大幅に改訂しました。

迷惑かもしれませんが断行します。すみません。

†††1-1


半年前まではバラ色、とまでは言えないが幸せな人生だった。

半年前までは。

あんなことが起こらなければ俺は冬に雪山になんか登らなかったし、こんな事態に陥ることもなかった。

まあ、人生なんてそんなもんだ。


†††1-2


「ごめん、待った?」

「遅いわよ。何かあったの?」

花蓮がぼやく。俺は走って荒くなった息を懸命に整える。

「悪い、悪い。目覚ましが鳴らなくてさ」

「どうせまた、止めちゃったんでしょ」

花蓮が素っ気なく口をとがらせる。。

多分、と答えて俺と花蓮は並んで歩き出す。

耳の上当たりに黄色い花の髪留めを見つける。とてもよく似合っていた。

「時間は間に合う?」

俺は照れて髪留めを褒められなかったので、代わりに花蓮の左腕の腕時計を指さした。花蓮は時計をちらりと見た。

「余裕よ」

花蓮は腕時計に目を落としたままで微笑んだ。ただ、その笑みは彼女の長い髪で口元しか見えなかった。


†††1-3


ほんの数分前に始まった轟々と吹きすさぶ強風と雪が、俺から感覚という感覚を全て奪った。

視界はゼロ。聞こえるのは轟音のみ。感覚は無い。ついでに、においも味も無い。


地元では天狗山と呼ばれ、険しさと厳しさで名高いこの山にわざわざ冬に出向いたのには理由がある。


自殺。

その一言で説明は終わりだ。

俺は死ぬためにこの山に来たのだ。

だから格好もちゃんとした防寒着などではなく、適当なシャツに適当なジーパンだ。


自殺するなら凍死、と俺は昔から決めている。他の方法と違ってきれいだし、あまり迷惑がかからない、気がする。場合によっては死体すら見つからないかもしれない。カラスにでも食われれば完璧だろう。

いや、こんな所にカラスはいないか。

残るは身内や知人が心配することだけだが、生憎俺にはそんな心ある身内はいないし、そこまで親しい友人もいない。

俺はいなくなっても別に何の問題もない人間、というわけだ。


などと昨日の思いつきをなぞって思い出していたらいきなり猛烈に吹雪き始めた。罰当たりなことを考えるヤツだと神様が俺に天罰を与えたのだろうか。



「ふうーっ・・・・・・、ふうーっ・・・・・・」

深く荒い息を吐き出し、いやらしく足を引きずり込む積雪に抗い、俺は登らなくてもいい山を登る。

斜面はかなりきつい。一歩進むごとに確実に体力が減っていく。晴れていたとしても到底山頂まで保たないだろう。


吹き付ける吹雪が、山が、情け容赦なく薄着の俺の体温を、体力を、奪っていく。

もっともそれは俺にとって好都合ではある、のだが。


俺は心のどこかで完全にはそう思っていないことに気づく。いや、今気づかないふりをしていたことに気づいたのか。

「なかなか死ねねえな・・・・・・」

強がってそうつぶやくが歯はがたがたと鳴って、景気付けの意味が全くなくなってしまった。


それでもこのままあとしばらく吹雪のど真ん中に突っ立っていれば確実に死ぬだろう。

そして『死』はもうすぐ近くまで迫っている。

俺にはそれがわかっていた。



それでも俺は足を止めなかった。

どうしてなのか、と問われても困る。その答えを俺は覚えていないし、多分その時の俺に聞いても意識朦朧としていた俺では答えられなかっただろう。

おそらくは何かに思いっ切り反抗したかったのだろう。妙な時に反抗期が来たものだ。


重い足を持ち上げてはまた雪に突っ込んでは抜き、また突っ込む。歩くという苦行をただ無心に続けていた俺はある時、足が抜けなくなった。

「あ・・・・・・」

間抜けな声を出して俺はバランスを崩し、ゆっくりと雪に倒れ込んだ。

起きあがれない。腕に力が入らない。

「はは・・・・・・」

このまま死んでしまおう。わざわざ歩くこともない。このまま静かに・・・・・・。


その時、俺の目に微かに見えてはいけなかった物が見えた。

何か黒いもの・・・・・・、俺にはそれがあるものに見えた。


洞窟だ。


†††1-4


俺は洞窟のように見える、黒い何かを凝視した。雪の地面に倒れて、吹雪いてる中で見えるのなんてそんなもんだ。

黒い何か、それは強烈に俺の心を揺らした。

「・・・・・・」

さっきまで力が抜けていた腕に、足に、血が通い、力が入る。


考える前に俺は両腕を雪にめり込ませて立ち上がろうとしていた。

「・・・・・・ッ!」


声も無く俺は無事に立ち上がり、相変わらず深い息を吐き出しつつ、黒い何かを見つめる。


やがて俺はその黒い何かに一歩一歩近づいていった。

さっきまでとはまるで勢いが違う。死への行進から生への行進に変わったからか。


黒い何かはやはり洞窟だった。

中に入り一歩進むごとに少しづつ寒さが和らいでいく、ような気がした。俺はふらふらと奥へ進んだ。一歩進むごとに俺ははっきりした意識を取り戻していった。


奥に行く途中で、岩壁からやや突き出ている瘤が目に留まった。

俺は胡乱な目つきでそれを眺めた後、思い切りそいつに頭突きした。

「俺は・・・・・・、俺は・・・・・・!」

ロクに死ぬこともできない臆病者なのか。あんなことがあっても生きていこうと思っているのだろうか。

約束を破って。


ああ、と天を仰ぎ見る。洞窟のごつごつした岩の陰影が不気味な色合いをなし、外では変わらず吹雪が轟々と背筋の寒くなるような不吉な音を立てていた。

くそっ、とぼやきつつも足は自然と洞窟の奥へ奥へと向かう。そんな自分が情けなかった。それでも俺は足の進むままにしておいた。



世界が抜ける。

俺はそういう感覚を味わった。


「・・・・・・?」

目の前に地面があった。倒れ込んでいたようだ。

しかし、その地面には草が生えていた。

起き上がり、辺りを見渡すと、春の野が広がっていた。暖かく、赤や黄色など、色とりどりの花が咲き、緑の草が生え、白い蝶がひらひらと飛んでいる。


しかし、ここは洞窟の中だ。いや、そもそも今は冬だ。なのに暖かい。見上げれば太陽がきらきらとまぶしかった。


夢を見ている、という考えが頭の中を占めていく。きっと俺は雪の中に倒れ込み、死に導かれる前の最後の夢を見ているんだ。

そうに違いない。そう思って俺の心を達成感と寂しさが満たす。

本当にこれで最後なんだな、と。


ふう、と息を吐いたとき、声が聞こえた。

「お兄ちゃん、何してるの?」


†††

面白いと思って下さったなら他の作品も読んでくださいね。

あと、感想とかくださると私のやる気は倍増します。是非なんか書いてください。

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