表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

エンゲージ

「充電器が無い………」


レポートを書こうとして、一つのミスに気がついた。

ノートPCの充電が切れかけていた。しかし充電器は持ってきたはず、と思って鞄を開いてもそこに充電器の姿は無かった。


どうやら家に置き忘れてしまったようだ。空き時間にレポートを書こうとわざわざノートPCを持ってきたのに、我ながら詰めが甘い。


どうしたものかと頭を抱えていると、ふと思い出した。いざという時の為に、車にはPCの予備のバッテリーを積んでいた。

そのバッテリーを使えば、一晩ぐらい電源は持つはずだ。さっさと取ってきてレポートを書こう。

そう考えて、玄関へと歩き出した。













15分後―――彼は迷っていた。


「何故この研究所はこんなに入り組んでいるんだ……」


とりあえず呟いてみたが、当然誰も質問には答えてくれない。

人に道を聞こうとしても、時間が時間だからか誰一人とも遭遇しなかった。


更にしばらく歩いていて、小さな違和感を感じた。

何故こんなにこの研究所は入り組んでいるのだろうか?廊下はまるで迷路のように、くねくねと曲がりくねっていた。

よくある話ではテロリストに制圧されにくいよう、いり組んだ構造にする場合があると聞くが、そうなのだろうか?


そう考えてみると、研究所に到着した時も到着してすぐ警備員が出てきた。予め到着を予測していたかのように。

あの坂道には監視カメラやそれに準じるものが仕掛けてあるのかもしれない。

思い出してみると玄関もICカードによるロックが掛かっていた気がする。

こんな山中の研究所にしては、少し警備が厳重過ぎだ。


何か機密性の高めな研究をしている施設なのかもしれない。こういう事に顔を突っ込むといいことはない。


さっさとバッテリー取ってこよう。

頬を軽く叩いて頭を切りかえた。




しばらく彷徨っていると、先ほどの玄関を見つけることが出来た。


受付カウンターにいた警備員もこちらに気づいた。


「おや、どうかしましたか?」

「ええ、ちょっと車に忘れ物をしてしまって。取ってきたいので、車の鍵を返してもらえますか?」

「分かりました、少しお待ちください」


説明に納得した警備員はカウンターから鍵を取り出し渡してくれた。

ありがとうございます、と軽く頭を下げて車へと向かうと、後ろから声を掛けられた。


「ああ、扉はオートロックなので。再入所の時はこちらで解除しますので、扉の前で少し待っていてください」



どうやら先程の予測は間違っていなかったらしい。一体何の研究をしているのだろうか?


そういえば此処に着いたとき、木ノ原教授のことを所長と主任研究員がお待ちです、とか言っていた。

脳波操作の第一人者である教授が重要な会議ということは、何かの入力装置デバイスや、乗り物とかだろうか?


いや、たしか教授は反重力ユニットについてもかなり詳しかったような……

となるとやはり乗り物か?それとも最近はやりの反重力ユニット搭載型ビルとかだろうか……




「あのー、どうかしましたか?」

「うわあっ!?」


気が付くと真横に警備員が居た。どうやらいつの間にか熟考していたらしい。昔から些細なことで深く考え込んで、現実が疎かになってしまう悪い癖だ。


「だ、大丈夫ですか?」

「すいません、大丈夫です……」


この研究所は何を研究してるんですか?と直接聞くわけにもいかず。

ぺこぺこと警備員さんに謝り、駐車場へと急いで向かった。

ただ車からバッテリーを持ってこようとしているだけなのに既に30分は経過していた。


「馬鹿なことしてないで、さっさとバッテリー回収してレポート書かないと」


そうぼやきながら駐車場を見渡すと、いちばん向こうの方に車が駐めてあった。

近づいて鍵を開け、助手席の荷物入れを開く。

はたしてそこには目的のバッテリーが収納されていた。


「あったあった」


運転席側から身を乗り出してバッテリーを取り出そうとした。





その時、何かが空を切る音が聞こえた。


ん?と頭を上げようとした瞬間。




―――研究所が爆発した。

「っ!?」


爆風が車を揺らす。衝撃で窓ガラスにヒビが入った。

何が起きたのかもわからずに、身体をおこして研究所を見ると、悲惨な事になっていた。

2階部分は全て崩れ、メラメラと燃えている。玄関も完全にくずれていた。


たった一度の爆発で、研究所は崩壊していた。


「なんなんだよ……!」



悪態を吐きながらも、なんとか車から脱出する。

改めてみても研究所は崩れかけていた。

そういえば爆発する寸前に何か空を切る音がした。そう思い空を見上げると―――

人型形態の、黒く塗りつぶされたネクタ―がそこにいた。




訳がわからなくなった。何故こんなところにネクターが居るのか。

何故、音もなく突如現れたのか。

そして何故、手に持つロケットランチャーは、こちらに向けて構えているのだろうか。

黒塗りのネクターの身動ぎした。





―――撃たれる。






時が止まったかのように音が聞こえなくなり、目を見開いたその時。


黒塗りネクターの背中が爆発した。

バランスを崩したネクターが発射したロケットランチャーはあらぬ方向へと飛んでいった。


何事かと当たりを見渡すと、黒塗りのネクターの向こう側に3機の巡航形態ネクターが編隊を組んで飛んでいた。

翼に赤い日の丸がペイントされている、自衛軍のネクターだ。

彼らがどうやら助けてくれたらしい。


黒塗りのネクターがバランスを取り戻しすと、ロケットランチャーを3機の自衛軍ネクターへと発射した。

自衛軍ネクターは編隊を散らして回避すると、その内の1機が黒塗りネクターへと体当たり突撃した。


だが、黒塗りの方も突撃のことを読んでいたらしい。

ロケットランチャーを投げ捨て、片手のマシンガンを突撃してくる自衛軍へと乱射した。

爆音と共に銃口から発射された弾丸はネクターの主翼を貫いた。


ネクターは翼をもぎ取られ、スピンしながら急激に高度を下げる。

機首は、駐車場こちらに向けられていた。


「おい、嘘だろ……っ!?」


ここから逃げなければ。

走って森の中へ逃げ込もうとしたとき。

ネクターが地面に衝突し、大爆発を起こした。

大男に体当たりされたような衝撃が背中に当たる。

身体を吹き飛ばされ、崖から落とされた。

やばい、と咄嗟に体をこわばらせる。空中で体が一回転し、背中から地面へと落ちた。

突き抜ける衝撃に意識が手からこぼれ落ちた。

















――――――――――――――――――――


気が付くと目の前は土だった。


どれだけの間かはわからないが、どうやら気絶していたらしい。


「頭痛い……」


頭がフラフラする。生温い感覚に手を当てると血が出ていた。

藪がクッションの役割を果たおかげで、思っていたよりも衝撃は少なかった。

あのネクター達に一言文句を投げつけたかったが、ストレスの発散よりも命のほうが重要だ。ひとまずは逃げなければいけない。


体を起こすと、当たりは酷い惨状だった。

木々はなぎ倒されて燃え、地面は爆発で抉れていた。

だが、どうやら戦闘は既に終わったらしく、新たな火薬の音や機械の駆動音は聞こえなかった。



落ち着いて現状を考えよう。

まず先ほどのネクター達は見当たらない。

何処に行ったかは知らないが此処に居ないのならそれでいい。

次にどうやって逃げるかだ。

ここは山の中の研究所で、歩いて逃げたら逆に遭難して命の危険がある。

何か足が必要だ。


「……車か」


駐車場はネクターが撃墜して悲惨な有り様だろうが、もしかしたら1台は動く車があるかも知れない。

頭は重く、体の節々は痛くて運転することが出来るかは分からないが、

いつネクター達が戻ってくるかわからない此処に居るよりはよっぽどマシだろう。


足を引きずりながら研究所へ向かう。

荒れた地面と急勾配に手こずりながらも、落ちた崖を登る。

しかし、当たりはより悲惨な状態だった。


研究所は、火災は収まっていたがより大きく崩れていた。

駐車場の車のどれもが炎上していたり、大きな破片が突き刺さっていてとても動きそうにはない。


ちくしょう、どうすりゃいいんだ。

挫けそうになるが足に力を入れてなんとか立つ。

なんでもいい、何かないのか。

もう車でなくてもいい、バイクや自転車が無いかと研究所の正面を見る。


そこに居たのは、黒塗りのネクターだった。

しかし様子がおかしい。よく見てみると、黒塗りの正面には防衛軍のネクターも居た。

彼らは2機とも人型形態で対峙している。どうやら白兵戦で睨み合っているらしい。


黒塗りが両腕にナイフを構えて突撃した。

防衛軍ネクターは左腕を犠牲にして防ぎ、右腕のナイフを黒塗りネクターの胴へと突き刺す。

しかし黒塗りはもう片方のナイフを股関部分に突き刺した。

お互いのネクターが崩れ落ちた。相打ちだ。


黒塗りネクターのコックピットが開いた。中からパイロットスーツに身を包んだ操縦士パイロットが飛び出した。遠目に見ても身長は低く、手には拳銃を持っていた。


そして防衛軍のネクターのコックピットの扉も開いた。

中から以前動画で見たことのある、防衛軍の服を着た男が出てきて、黒塗りのパイロットへと射撃した。

しかし、黒塗りのパイロットはそれを回避し、崩れ落ちた壁から研究所の中へと駆け込んだ。

防衛軍パイロットもそれを追いかけるために、ネクターから降りようとしていた。


ハッと我に帰る。ぼーっと見ていないで彼に助けを求めなければ。


「おーい!!助けてくれー!!」


大声が頭に響いて痛い。

だがその声に彼は気づいていないようで、そのまま研究所に入ろうとしていた。

更に叫び、走って近づく。体が痛いことなんて気にしていれない。


「助けてくれー!!おーい!」


だが、努力虚しく防衛軍のパイロットはこちらに気付かずに、そのまま彼も研究所へと突入していった。

何故無視するんだ、と苛ついたが彼はヘルメットをしていたからそれで気が付かなかったのかもしれない。


とにかく彼を追いかけよう。

一度深呼吸をしたあと、崩れた壁から研究所の内部へと入った。


序章の前半という感じです。明日後半を投稿予定。

追記:戦闘シーンが上手く書けないので後半の投稿がしばらく後になりそうです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ