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舞台への道

まだ短いですが。

とある場所の遙か上空。


一つの大型機が空を飛んでいた。


その航空機の貨物室カーゴで、機体を黒く塗りつぶした1機の《ネクター》が佇んでいた。






「―――反重力ユニット……正常稼働中。各種武装……問題無し。各種ブースター……問題無し。全チェック項目確認終了」


操縦室コックピットの狭い空間の中でチェックシートを埋めていたのは一人の少女だった。

少し小柄な高校生程度に見える少女だが、身に付けているのは学校の制服や、町歩きの可愛い服では無かった。

身体を黒い対Gスーツで覆い、頭にはヘルメットを被っている。とても普通な光景ではない。


「マザーシップへ、こちらムーンエルフ1。出撃準備完了、現在待機中」 

『こちらマザーシップ。 目標地点までおおよそ25分かかる。いつでも出撃できるように準備しておけ』

了解ラジャー


無線通信を終えると、彼女は酸素マスクを装着し、ヘルメットのシールドを下ろした。

ヘッドアップディスプレイにもなっているシールドが、様々な情報を映し出す。


ガラス張りのコックピットからは、ネクターの足と手が見えた。

彼女が手を握って離す動作をイメージすると、その通りにネクターの手も動く。


「今日は機嫌いいね」


彼女はネクターへ語りかけるとコクリと頷き、目を瞑った。


「今回の戦闘はちょっとキツくなりそう」


いくら話しかけてもネクターは返事を返さない。しかし彼女はネクターへと話しかけ続けた。


『ムーンエルフ1へ、こちらマザーシップ。目標地点まで残り20分』

「……ムーンシルフ1、了解」


戦闘地域へと近づいていく。マザーシップのエンジン音を聞きながら、彼女は意識を更に集中する。













――――――――――――――――――――


「西沢君、疲れは大丈夫かい?」


そう呼びかけられて、耳を自分の右へ傾ける。

西沢君こと俺は運転をしていて、回りは暗い山道だ。

よそ見などしたら事故を起こしかねない。


「このぐらいの山道なら大丈夫ですよ、教授」

「そうか。しかし、こんなに遅い時間まで付きあわせてすまないね」

「いえ、私が修理に手間取ってしまったばかりに……申し訳ありません」

「いや、気にすることはない。エンストしてしまったのは単なる事故だし、君は車のエンジニアではないしね」

「そう言って貰えると……ありがたいです」


俺をねぎらってくれたのは木ノ原教授だ。

俺、西沢 あきらが通っている大学院の教授で、目的地までの運転手を頼まれていた。



――――――――――――――――――――

時は少し前に遡る。


本来なら既に教授を目的地にまで届け終わり、既に帰路へ付いているはずだった。

しかし、回りには山しかない所で車がエンストしてしまったのだ。


電波が通じないので、助けは呼べない。

しかも先には目的の施設しかないこの道に、車が通ることは極端に少ない。


不幸中の幸いといえば、空に登っている満月の月明かりのお陰で作業がしやすかったことだろうか。

そんな中で悪戦苦闘しながら修理していると、再びエンジンのかかる頃にはすっかり時間が過ぎ去っていた。


その時、音が聞こえた。

低く、身体に響き渡るような音。航空機特有のこのジェット音。

空を見上げると、航空灯の紅い光が空を流れていた。

月明かりに照らされながら、3機の戦闘機が空を飛んでいる。


《ネクター》


それがあの戦闘機達の名前だ。現代の空において最強の存在。


「んー、あれはAH-⊿のA型かな?拡張ブースターが着いているし」

「おそらくどこかの基地に移動してるんでしょう」


ネクターオタクの教授が嬉しそうにネクターを眺めていた。あの武装はリニアライフルかな?やら、追加装甲は無しかな?と楽しそうに呟いている。


しかし、俺は素っ気なす。

奴等ネクターのことがあまり好きでは……いや、嫌いだった。


嫌なことを思い出しそうになり、頭を振って意識の外へ追い出す。ついでにやつらの発する騒音も意識から追い出す。

ネクターのことはあまり好きではない。


ジェットの音にかき消される程の声で呟き、車の修理へと集中した。












ちなみにエンストの理由は何の為かも分からない、小さなプラグが抜けているのが原因だった。

修理開始から4時間が経過したところで、手前の影に隠れていたプラグを見つけ、差し込んでみたらエンジンが掛かったのだ。

その時にはネクターのことなどすっかり忘れ、フロントバンパーを蹴飛ばしたい衝動を抑えるので大変だった。


――――――――――――――――――――


眠らないように教授と話しながら山道を走って行くと、長い上り坂へと差し掛かる。

その時カーナビが目的地周辺まで到着したことを知らせた。


坂を登り終えると、そこには一つの建物があった。

玄関に車を寄せると、表札には

【茶臼岳研究所】と書かれていた。


しばらくすると、研究所の玄関から警備員が小走りに出てきた。

車窓を開けて何と名乗ろうと考えていると向こうから話しかけてくる。


「木ノ原教授、お待ちしておりました。所長と主任研究員の方々が、第3研究室の方でお待ちです」

「分かった、すぐに行く。それと西沢君、いまからこの暗い山道を帰るのは危ないよ。客室を使えるよう手配をするから、一泊して明日の朝に帰るといい」


たしかに回りはすっかり暗くなっていた。

暗闇の中で山道の運転はかなり疲れるし、なりよりも危ない。

ここは教授の提案に甘えるておくべきだろう。


「いいんですか?」

「ああ、今日はゆっくり休んで明日の朝出発するといい。

君、彼に客室を一晩貸して貰えないか?」


教授に頼まれた警備員は、無線でやりとりをし始めた。

しばらくすると了承が取れたらしく、笑顔でこちらに向き直った。


「許可が取れました、客室へ案内しますので私と一緒に来てください。

車はキーを着けたまま置いといてくだされば、こちらで移動しておきます」

「それは良かった。

では西沢君、今日は遅くなり済まなかった。ゆっくり休んでおくといい」


そう言うと、教授は車を降りて小走りに研究所の中へ入っていった。

こちらも鞄を持って車を降りると、警備員が客室へ案内をしてくれた。


施設の中をしばらく歩くと、ひとつの部屋に到着した。

警備員が鍵を開け、扉を開くと中はビジネスホテルのようなシングルルームになっていた。


「こちらの部屋になります」


そう言って鍵をこちらに渡すと警備員はスタスタと立ち去っていった。


部屋に入り荷物を下ろす。

スマートフォンの画面を開くと、午後9時半と表示されていた。


「さてと……レポートの続きでも書こう」


まだ寝るには早いしね。

そう考えて、彼はノートPCを荷物から取り出して机へ置いた。

















――――――――――――――――――――


『こちらマザーシップ、ムーンシルフ1へ。

目標地点上空60,000フィートへ到着、出撃準備は出来ているか?』

「…………こちらムーンシルフ1、何時でもいけるわ」


彼女はシートに身を沈め、目を開く。

心臓の鼓動が少しだけ、早くなっているのを感じた。


『……エリサ、今回の任務は正直言ってかなり厳しい。

こちらでも最大限のバックアップはする。

だが帰ってこれるかはお前次第だ』

「……うん。わかってる」

『そうか……。ならコレ以上は言わん。

行きて帰って来い』

「了解。ムーンシルフ1、出撃する」


彼女の言葉と共に、カーゴの扉がゆっくりと開き始めた。

外の暗闇から、風が中へと吹き込んでくる。

そして完全に扉が開いた、向こう側は完全な闇に染まっていた。


しかし彼女は怖がる様子もなく、ネクターを操り外へと乗り出す。

降下する寸前、彼女は酸素マスクの中で誰に言うのでもなく呟いた。


「それでも、飛ぶことが私の全てだから」


黒塗りのネクターが、暗闇の中へと溶けこんでいった。

某桃の果肉ジュースとは一切関係ありません。

誤字指摘や評価をしていただけるとありがたいです。

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