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二十話 アイレーンコロニー

アイレーンコロニーに向かう道中も、ケイトの質問は止まることはなかった。


質問内容は多岐にわたったが、つまるところ全ての質問は『シルヴァーナの放出する青い粒子は何か?』というところに集約されていた。


アレンは内心苦笑いしつつも、知的好奇心に溢れる研究者に向き合う。


「ケイトさん、俺はその問いに答えることはできない。それは研究者である貴女ならば分かるでしょう」

『分かるとも、ただ君は一度も知らないとは言わなかったね、それは何故だ?』


「貴女が嫌いではないからです、嫌いな人間ならともかくそうではない人間にはなるべく嘘をつきたくはない」


「それに知らないことを知りたいと考える、それは研究者であれば極々普通のことですから」

『なるほど、同業者に敬意を払っていると』


「そんな立派なものじゃないですよ、俺はその思考回路が理解できるだけで研究者じゃない」

『そうかな?、君の話しぶりは研究者そのものだよ』

「そう言ってくれるのは嬉しいですけど、俺はただの傭兵で整備士です」


『研究者の気持ちは理解できるが、教える気はないと?』

「ないですね」


『どんな対価を差しだしても?』

「はい、残念ながら」


アレンとしてはこのラインを譲ることはできない。


シルヴァーナの動力源であるエルトロンジェネレーターの詳細を知る人間は、アレンだけで十分だ。


『そうか、しかし他の研究者の意見というのも重要だぞ。特に全く別分野の研究者の意見は』

「失礼ながら研究分野は?」

『生物学者だ、医者でもある』


生物学者には良いイメージがないが、医者というのは驚きだ。


医者というのは高度な医療機械を操作できる免許を持った人間のことを指す、一般的な治療に医者の出番はないが、再生治療や、臓器移植、義体化手術などを行えるのは専門知識を持つ医者だけだ。


そういった専門治療の需要は尽きないので、医者はお金持ちというのが一般常識としてある。


船に乗る船医はさらに貴重だ。


もし船医が船に乗ってくれるのであれば、ネオンやゼナたち戦闘員の安全性がより確保することができる。


『交渉の余地がでてきたかな?』

「上手いですね、この話は一度保留にしましょう」


ブリッジのメインガラス越しに、アイレーンコロニーの姿が見えた。


◆◆◆◆


アイレーンコロニーは、非常に栄えた貿易コロニーであり、船がひっきりなしに行き来する巨大コロニーだ。


『スターリングの皆々方、曳航感謝でござる、ほらケイト殿も』

『ありがとう。アレン、修理の目途が立ったらまた連絡させてもらうよ』


ケイトと、もう一度通信する約束をして、別れたスターリングのジーベックも無事に港に入ることができた。


「へぇ、あの船に乗ってるケイトって人は医者なんだ」

「ああ、どうやらな」


コロニーの商業区に向かう高速鉄道トラムに乗りながら、ケイトのことについてネオンに話す。


「医者か、どうりで大金をポンっと出せるわけだな」

「ゼナ、リオンって護衛の傭兵はどんな感じの人だった?」


「ARMS単騎で傭兵活動しているだけあって、かなりの腕の持ち主だった。ランクは最低でもプラチナくらいはあると思う、あと護衛依頼専門の傭兵だな」

《護衛依頼専門ですか?》


「宙賊の低性能の小型戦闘艦とはいえ四隻に襲われて、私たちが来るまでスラスターの損傷しか許してないんだ。護衛に慣れてるとか言いようがない」


得意な依頼があるのであれば、それを専門にする傭兵だっているだろう。


高速鉄道トラムが停車し、目的地の駅で四人は降りる。


目的地はアンドロイドやガイノイドのボディを主力商品として販売するエグロンカンパニー系列企業の本社だ。


既にアポイントは取っている。


ビルに入り、受付のガイノイドに要件を告げると、案内アンドロイドが出てきて、四人を応接室に案内する。


応接室で五分ほど待つと、ノック音と共に痩身の男が入ってきた。


「お待たせいたしました」


ぺこりと頭を下げた男は、アレンたちの目の前に座る。


「わたくしめは販売促進部のリュゲルと申します、今回は我社のオーダーメイドサービスをご利用いただき誠にありがとうございます」


「これがデータだ」


アレンは、リュゲルと名乗った男に、エレンのボディのデータを送信する。


「これは…」

「何か問題でも?」


「い、いえ、設計図を持っていらしたお客様はお客様が初めてでしたので、驚きました」

「そうなのか?」

「はい、こういう場合はどのようなボディをお求めなのか、お客様の要望をお聞きし、わたくしめがそれに答える形ですので」


分からない話でもない、アンドロイドやガイノイドのボディは高級品で、質を求めたらキリがない。


お金持ちが専門知識を持っているとは限らないし、むしろ持っている方が少数派なのは分かる話だ。


「昔機械工学を齧ったことがあってな、それでだ」


齧ったところの話ではないのだが、ネオンがツッコまないので、リュゲルはその言葉を信じた。


「なるほど、受注は完了いたしました。お届けは七日後になりますがよろしいですか?」

「それで大丈夫だ」


「はい、それではこちらが代金になります」


リュゲルが提示したのは、4500万レボル。


大金だが、ジーベックを改装した時の支払い額を思い出しながら、アレンは支払った。


◆◆◆◆


「たけー買い物だな」

《私のボディなのですから、当然です》

「嫌味じゃなくてただの感想だよ」


ゼナとエレンの軽口を聞きながら、ビルから出たところで、アレンの通信端末がコール音を鳴らす。


「ケイトさん?」


端末に表示された通信相手に疑問を覚えつつ、アレンは通信に出る。


『やぁ、アレン、二時間ぶりだね』

「修理の手配は終わったのですか?」

『ついさっきね、それでアレンと話の続きをしたい』


「今は出先で都合が悪いです」

『そういうと思ってね、食事をご馳走するよ』


食べながら話そうじゃないかとケイトは言った。


それと同時に位置情報が送られてきた。


(どれだけ話したいんだよ)


そんなことを思うが、ケイトの研究者兼医者という職業に興味はある。


彼女が指摘したように、全く別の分野の知識が、アレンの行き詰まった設計図たちに、思わぬブレイクスルーを起こしてくれるかもしれない。


とはいえ、それは私事で仲間たちを振り回す訳には行かない。


ケイトに了解をとって、一度通信をミュートにして、仲間たちに相談する。


「アレンの好きにしたらいい」

「お金持ちが奢ってくれるんだ、断る理由はないだろ」

『私はアレン様に従います』


「ありがとう、皆」


ケイトに行くという旨を伝え、通信を切ったアレンたちは送られてきた位置情報へ移動を始めた。

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