十九話 三度目の救難信号と変人
『アレン様、亜空間レーダーにて救難信号を探知しました』
俺たちスターリングは救難信号と縁があるのかもしれない、そんなことを思いながらも、エレンの報告を聞いたアレンたちはブリッジに向かう。
「エレン、救難信号を探知したって?」
『はい、どうされますか?』
「宇宙で生きる者として助ける一択だ、エレン、進路変更。ネオン、ゼナの二人は念の為ARMSで待機してくれ」
アレンの指示に首肯した二人はブリッジを出る。
アレンの指示で、ジーベックは救難信号の発信地点へ向かう。
「エレン、もし救難信号の発信地点で戦闘が起きていたら、シルヴァーナとエルカノをすぐに発進させてくれ」
『承知しました』
救難信号の発信地点に近づいたジーベックは、超光速航行システムを解除し、通常空間に戻る。
素早く通常レーダーを見ると、五隻の船と一機のARMSの反応をキャッチする。
一隻の小型輸送艦が、四隻の小型戦闘艦に襲われ、その戦闘艦とARMSが戦っているが確認できた。
「宙賊の襲撃を受けてるな、発信源は追われてる船だ」
『シルヴァーナ、エルカノ、両機に発信許可』
『アレン、宙賊?』
「おそらくな、護衛のARMSを援護してくれ」
『警告はしたのか?』
「これからする」
『いいね、さっさと済ましとけよ』
アレンは、二人との通信を切り、小型輸送艦を襲う四隻の小型戦闘艦にオープン回線で警告する。
「こちらはマセナリー所属のブロンズランカーの傭兵艦ジーベックだ、救難信号を受信した、輸送艦を攻撃する所属不明艦に告げる、直ちに戦闘行動を停止せよ」
返答は、何のひねりもないロックオンだった。
『回避運動を…』
「必要ないだろう」
ジーベックをロックオンしていた小型戦闘艦が、青色のビームに貫かれ、爆散する。
「ネオンとゼナがいる」
◆◆◆◆
ジーベックをロックオンをした小型戦闘艦を撃沈させたシルヴァーナは、飛行形態に可変し四隻の小型戦闘艦に向けて、突っ込む。
小型戦闘艦を撃沈されたのを見て、動揺した隙を付き、二本の実体剣を持つARMSが小型戦闘艦一隻を一刀両断する。
『助太刀感謝する!』
「ん、全滅させる」
『ネオン、今沈んだ二隻も含めて、賞金首の宙賊だぞ』
「遠慮はいらない」
それを知るまでに遠慮があったかどうかは、ネオンのみぞ知る。
突っ込んでくるシルヴァーナに対して、残った三隻の小型戦闘艦は散開する。
散開しようとした一隻が、長距離射撃用レールガンの弾丸にスラスターを貫かれる。
航行不能になった小型戦闘艦をシルヴァーナの青いビームが貫き、宇宙の藻屑に変える。
「二本持ち、仲間が足を止めるから」
『承知した、銀翼殿!』
短いやり取りで、意図が伝わったことに笑みを浮かべつつ、二本の実体剣を装備したARMSと別れ、小型戦闘艦を追う。
散開して、逃げようとする小型戦闘艦をスコープに捉えるゼナは、偏差撃ちでスラスターを正確に貫く。
『見事!』
スラスターを吹かし、小型戦闘艦の足が止まるのを待っていた二本の実体剣を持つARMSを、真っ二つにする。
「まじか、対艦刀で戦闘艦を両断しやがった」
ほぼ初めて見る光景に、ゼナは驚愕する。
扱いの難しい対艦刀を使うARMSだけでも、珍しいのにそれを使いこなしているパイロットがいる事実が、ゼナを驚かせた。
旋回するシルヴァーナが、最後の小型戦闘艦を撃ち抜き、爆散する光が銀色の機体を照らす。
「青い…閃光、銀色のARMS」
小型輸送艦の操縦席から、シルヴァーナを見た女性はポツリと言葉を零した。
◆◆◆◆
『あの銀色のARMS、名はなんという?、あの放出する青い粒子は?、特殊な光子の一種だとは分かるが、あのような粒子をエネルギー源とするARMSは見たことがない』
通信を繋げた瞬間、怒涛の質問攻めにあったアレンは、思わず身を引いてしまう。
「その…質問に答えたいのは山々だが、一応宙賊に襲われたのだから、事後処理を先に済ませた方がいいんじゃないか?」
『宙賊など、どうでもいい、既に脅威は去った。それならは今は私の知的好奇心を満たすことを優先したい』
アレンは今メインモニター越しに会話する眼鏡を掛けた女性のような人種を知っている。
自らの興味以外のことは、すべて些事だと言い捨てる人格破綻者、つまるところ研究者《変人》だ。
『ケイト殿、彼らは窮地のところを救ってくれたのだ、礼を述べるのが先であろう』
困っているアレンを助けてくれたのは、二本の実体剣を持つARMSからの通信だった、その声音は女性で不思議と闊達さを感じるものであった。
『礼?、それは今必要なのか?』
『必要でござろう、宙賊に襲われていたところを助けていただいたのでござるよ!、命を救われたのなら礼をする、人としての基本でござる』
『確かに命を救われたのなら礼を言わねばならないね』
特徴的な話し方をする女性に諭された眼鏡の女性は、佇まいを正す。
『私はケイト・エルフォード、窮地のところを救ってくれて感謝する』
「傭兵のアレン・リードだ、宇宙に生きる者として当然のことをしたまでだ」
『それであの青い光子のことを教えてくれ』
『ケイト殿!』
少しだけ見直した気持ちを返して欲しい、そう思うアレンだった。
◆◆◆◆
ケイトと名乗る変人が乗る小型輸送艦は、スラスターを損傷しており、単独の航行が難しく、ケイト、正確には二刀流のARMSに乗るパイロットに説得されたケイトは、修理のために最寄りのコロニーであるスターリングの目的地でもあるリノレスIIIの交易コロニー、アイレーンコロニーまでの曳航を依頼してきた。
「報酬金の額は?」
『700万レボルでどうだ?』
「そんな大金をポンっと渡せるのか?」
『渡せる、不満か?』
「いや、その額で構わない」
変人気質が目立つ女性だが、どうやらお金持ちのようで、アレンはその正体が気になりはしたが、とりあえず頭の横に置いておくことにした。
報酬金の額としては、こちらが護衛することも依頼に含めるなら適正価格だ。
アレンたちの交渉が終わったので、曳航するための連結ビーコンを飛ばし、小型輸送艦が連結するべく動く。
三機のARMSはそれぞれ周囲を警戒する。
『銀翼殿、弓取り殿、改めて援護に感謝する、某の名はリオン・リベラート、傭兵でござる』
『ん、ネオン・ヴァイク、良い剣さばきだった』
『かたじけない』
『私はゼナ・ハーヴェイだ、対艦刀を使いこなす奴に会うのは初めてだな』
『ゼナ殿こそ、惚れ惚れする腕前でござった』
『ネオン殿も、まるで戦神のような立ち回りで感服した次第』
『褒めすぎ、でもありがとう』
『とりあえずアイレーンコロニーまではよろしくな』
『うむ』
自己紹介を終えたところで、それぞれアレンとケイトから通信が入り、三機はスラスターを吹かせた。




