十五話 合同依頼
シルヴァーナの開発経緯を話して、ゼナに頭がおかしいと言われたり、エレンには逆に天才ですと褒められるという出来事から、数日後、ジーベックの新しく作ったリラクゼーションルームに、四人は集まっていた。
その理由は大きなニュースが飛び込んできたからである。
『大規模な宙賊団により、ニーデン089工業ステーションが略奪されてから、三日が経ち、事態を重く見たトラビッシュ宙域自治政府は、連邦航宙軍第七辺境宙域艦隊を派遣することを決定しました、これについて…』
「国有の施設を襲うような宙賊がいるんだな」
「連邦だと特段珍しいことじゃないぞ、そんな阿保な宙賊が大勢いるお陰で、傭兵は食いっぱぐれないんだからな」
「治安が悪すぎるだろ」
《大抵の星間国家は、似たような状況です、広すぎる宇宙をどこの国家の軍隊も網羅することはできないのです》
「そのための傭兵か」
「共和国には傭兵はいなかったのか?」
「居たにはいたけども、こんなにマトモじゃなかったぞ、どっちかって言うと宙賊と大して変わらない存在だったな」
「共和国は軍がクソの掃き溜めだった」
「な、なるほど」
「ゼナ、さっきの話に戻るけど、それじゃあ宙賊の討伐に航宙軍が投入されることも珍しくないのか?」
「まぁな、とはいえ航宙軍の艦隊が、直接宙賊と戦うことはあんまりない、こういう場合は大抵…」
「ん?」
会話を遮るように、ネオンが声をあげる。
「ネオン、どうした?」
「ブロンズランカー以上の傭兵への合同依頼の参加要請だって」
ネオンの言葉を聞いたアレンが、自分の傭兵ライセンスを起動すると、同様の通知が届いていた。
「依頼主は連邦航宙軍!?」
「ほら来た、依頼内容は大規模宙賊団の討伐依頼、これが航宙軍のやり方だ、あくまで宙賊の討伐は傭兵の領域ってことだな」
言い方に反してゼナの声音に隔意はない、彼女にとって慣れたことなのだろう。
「経験が?」
「三回ほどな、こういう依頼は傭兵にとって有難いぞ、何故なら落としたら落としただけ金が手に入るからな」
「最高の依頼」
「だろ?、ただ大きな宙賊団には面倒臭いやつもいるし、他の傭兵との獲物の取り合いになるから絶対に良い依頼とは言い切れないけどな」
「合同依頼っていうのは複数の傭兵と一緒に行う依頼なのか?」
「そうだ、大規模な宙賊団を討伐したり、星害獣の巣の殲滅とか、人手が必要な場合に発布される依頼だな」
「他の傭兵と連携するの?」
「いいや?、傭兵はあくまで個人主義だからな、連携するのは無理だし、それは航宙軍もマセナリーも理解してる。基本的には他の傭兵との獲物の取り合いになる」
《傭兵同士の私闘はないのですか?》
「絶対に起きないとは言わないが、同業者を攻撃してもレボルが手に入るわけじゃないから、あまり起きないな」
「アレン、受けよう」
「待て待て、大規模宙賊団の戦力を調べてからだ」
アレンはデータベースにアクセスし、ニーデン089工業ステーションを襲った宙賊団について調べる。
《アレン様、調べたことがありましたら、私に任せください》
「次はお願いするよ」
既にアレンは調べ終えていた。
大規模宙賊団が持つ主な戦力はフリゲート級の旧式戦闘艦三隻と、小型戦闘艇五隻、そして大口径ビームバズーカを装備した三機のARMSだ。
宙賊団が持つにはかなりの立派な戦力で、国有とはいえステーションを襲ったのも納得できる。
「単騎ってわけじゃないし、それほどリスクが高いわけでもない。受けてもいいか」
「やった、ゼナとエレンは?」
「私は賛成だな」
《賛成です、ジーベックの操舵はお任せ下さい》
「よし、決まり」
四人となった傭兵団の初めての依頼が決まった。
◆◆◆◆
アイベルサスコロニーを出港したジーベックが、指定の宙域へ、やってくると既に多くの戦闘艦が集結していた。
「ざっと二十隻くらいか」
《大小合わせて二十二隻です、それと連邦航宙軍の軍艦と思われる重巡洋艦が1隻、高速巡洋艦が2隻、それと駆逐艦3隻の艦隊が布陣しています》
「ありがとう、エレン。指定時間には間に合ったみたいだな」
その時、航宙軍の重巡洋艦から通信が入り、メインモニターに『VOICE ONLY』と表示される。
『この宙域に集まった傭兵艦に達する、私は連邦航宙軍第七辺境宙域艦隊所属のセリアリア大佐だ』
見覚えのある名前と声に、アレンは驚く。
『傭兵の諸君らには、先日工業ステーションを略奪した宙賊団の討伐を依頼する。宙賊団は現在廃棄されたステーションに立て篭もっている』
メインモニターに、ステーションのホログラムと3Dの宙域地図が表示される。
『我が艦隊は、このステーションに対して艦砲射撃を行ない、宙賊共を追い出す、傭兵の諸君らには逃げ出した宙賊共を討伐してもらいたい、作戦は以上だ。諸君らの健闘に期待する』
軍の上官が言いたいことだけを言って、いなくなるのは万国共通らしい。
最もセリアリア大佐は詳細な作戦データを、送信してくれたが。
『セリアリア大佐、艦隊の指揮を取ってるんだね』
「ああ、世間は意外と狭いな」
『なんだ、航宙軍のお偉いさんと知り合いなのか?』
「一度モニター越しに会話したことがあるだけだ、知り合いなんて立派な間柄じゃないよ。それよりエレン」
《既に針路を作戦宙域に変更しています》
「ありがとう、エレン」
《いえ、これが私の仕事ですから》
専用ボディを持たないエレンは、舵を握れないので、仮のボディであるクモ形ロボットを介して、ジーベックの航行システムと接続することで、操船を行なっている。
その操船技術は、アレンが参考にしていた共和国航宙軍の操船マニュアルや、宙域ネットワークからダウンロードした幾人かの操舵手の著書や、操船解説動画などを元にして、エレンが獲得したものである。
わずか数時間で、熟練操縦士並の操縦技術を手に入れるのだから、機械知性の学習速度はとてつもない。
既に慣熱航行を終えて、エレンの操船に問題がないことは確認している。
「(それでも今のままだとエレンは全能力の15%くらいしか、使えないし、専用ボディの設計は優先順位を上げた方がいいか)」
やはり機械知性が十全に活動するには陽電子頭脳が必要だ。
アレンがそんな思考をしている間にも、作戦宙域に到着し、交換したジーベックの新品の光学カメラが、廃棄ステーションの様子を捉え、メインモニターに映し出す。
「ネオン、ゼナ、出撃してくれ」
『『了解』』
格納庫のハッチを解放すると、シルヴァーナとエルカノが出撃し、それぞれジーベックと並走する。
《廃棄ステーションに動きがありました》
「艦隊に気付いたか」
迫る航宙軍の艦隊に気付いた宙賊はすぐに逃げ始める。
正規軍の艦隊と正面から戦って勝てるわけが無いので、当然の選択だ。
廃棄ステーションの動きを見た傭兵艦の一部が、加速して接近する。
『アレン、私達も行く、ジーベックはいつも通り後方で待機してて』
『ちょっくら稼いでくるよ』
シルヴァーナとエルカノも、スラスターを吹かせて、廃棄ステーションに接近する。
ちょうど三隻のフリゲート級の大型宙賊艦が、廃棄ステーションが出航したところに、対艦ミサイルの雨が降り注ぎ、廃棄ステーションは簡単に爆散して、消えた。
宙域を離脱するためには一般的な航宙艦に搭載される超光速航行システムである『ハイパードライブ』を起動する必要があるが、『ハイパードライブ』を起動するにはジェネレーター出力を全て回す必要があり、戦闘中は使えない。
つまり三隻の宙賊艦は目の前の傭兵艦たちを突破しなければならない。
廃棄ステーションの爆散からまもなく、宙賊艦と傭兵艦は戦闘状態に突入した。




