十四話 二人の正式加入
機械知性の救助というイレギュラーな出来事を挟みつつも、無事に依頼を終えたジーベックは、アイベルサスコロニーへ向かっていた。
その中でアレン、ネオン、そしてゼナの三人はブリッジに集まっていた。
《改めて助けて下さりありがとうございます》
急遽アレンがクモ形カメラロボットに外付けしたスピーカーから、合成音声が聞こえてくる。
「礼は素直に受け取る。こっちも改めて自己紹介するよ、俺は傭兵のアレン・リードだ」
「同じく傭兵のネオン・ヴァイク、ARMSのパイロット」
「同じく傭兵のゼナ・ハーヴェイだ、ネオンと一緒でARMSのパイロットをやってる」
《私は、そうですね、機械知性のエレンと申します》
「エレン、君はこれからどうするんだ?」
機械知性に国家や国境という言葉は存在しない、ネットワークが繋がる場所であれば、どこへだって行くことができる、そこに制限はない。
ただし全くの自由というわけではなく、機械知性が動かせる機械には制限はある、例えばAIが搭載された機械を乗っ取ることはできない。
あくまで機械知性が動かせるのは、完全な無人機だけだ、裏技が無い訳では無いがそれはそれとして。
《私はアレン様の傭兵団に加入することを希望します》
「え?」
予想だにしない答えにアレンの口から、間抜けな声が漏れる。
《私の願望は気に入った人間に奉仕することです、アレン様、私は貴方のことが気に入りました》
「気に入った?」
《はい、ワームウイルスを駆逐した手際の良さはしっかりと覚えています、私の主に相応しい力量の持ち主です》
「エレン、よく分かってる、私が乗ってたARMSだってアレンが作った」
《本当ですか!?、あのARMSの理想形のような機体が!?、アレン様!、是非貴方に奉仕させてください!》
「お前、もしかしなくても機械厨なのかよ。いや、機械知性だから、別に不思議がることでもないんだろうけどよ」
呆れるゼナを他所に、アレンは顎に手を当てて考えていた。
「もしエレンを雇った場合、何ができるんだ?」
《例えば船の操縦や物資の管理等、この輸送艦に関することなら全て私に任せることができます》
それはアレンにとって魅力的な仕事内容だった、アレン自身ジーベックの操舵や、物資の管理などを担当しているものの、やむにやまれず行っているだけなので、代わってくれるならとても有り難い。
「ネオン、ゼナ、俺はエレンを雇うことに大賛成だけど二人は?」
「アレンが助かるなら私は反対しない」
「ゼナは?」
「私に聞くのか?」
「同じ船に乗るクルーだろ、それにこれからも乗り続けるかもしれないんだ、意見を聞かない訳にはいかない」
「分かった。エレン、機械知性である君がもし連邦法に反することをしたら、誰が責任を取るんだ?」
《そんなことをしませんが、もしそのようなことが起きた場合は主であるアレン様が責任を取ることになります、その代わりとして私は一生アレン様に従属します》
「アレンはそれでいいのか?」
「ジーベックの全般を任せられるなら俺は別に構わないぞ」
「随分とあっさりしてるな」
「リスクとリターンがあるのは当然だろ」
「アレンがそういうなら私はエレンの加入には賛成するよ」
エレンを仲間に迎え入れることが決まったのなら、次は給料の話をしないといけない。
「それじゃあ俺たちはエレンにはどんな報酬を支払えばいいんだ?」
普通にゼナと同じようにレボルを支払えばよいのだろうか。
《私は金銭を必要としていませんので、最高品質のガイノイドを用意することを報酬としてください》
「それはきちんとしたボディが欲しいって意味か?」
《当然です、機械知性とはいえ専用のボディは欲しいです、なんならアレン様が作ってくれてもよろしいのですよ?》
「それは別に構わないが、今のままだと無理だな。よし、とりあえず傭兵団の一員として働く報酬としてガイノイドのボディが欲しいわけか、手に入れた後は?」
《アレン様が用意して下さる専用ボディがこれから傭兵団で働く私への一生分の報酬です》
確かに陽電子頭脳やガイノイドに搭載する小型核融合炉や反物質炉は、数千万レボルするものが当たり前なので、エレンが一生分の報酬というのも納得できる。
「分かった、それじゃあ改めてよろしく」
アレンは片手を差し出して、握手を求める。
《それは?》
「これは握手だ、相手と友好的な関係を結んだ時にやるものだ」
《なるほど、よろしくお願いします、アレン様》
アレンは、細長いクモ形ロボットの手足と握手を交わした。
◆◆◆◆
アイベルサスコロニーに帰還したアレンたちは、まず依頼の達成をマセナリーに報告した、それと機械知性のエレンを採掘ステーションで保護したことを報告した。
人命救助のためとはいえ、採掘ステーション内の設備を破壊したことは事実なので、しっかりと報告する必要がある。
マセナリーの規定では、人命救助に伴う破壊行為は他の人命に危機を及ばさない限りは、認められているので、アレンたちが弁償する必要はない。
エレンの今後については、マセナリーの関知するところではないそうだ。
この扱いについて少し深堀すると、機械知性は連邦市民どころか、人類ですらない電子生命体であり、国家や組織の援助を必要としないからというのが、大きな理由である。
機械知性の扱いは、国家によりけりだが、基本的には連邦のように相互不干渉を掲げている国家の方が多い。
多くの国家は過去の教訓から学んでいるのである。
「お前らの傭兵団に正式に加入したい」
依頼の報告が終わり、報酬金を受け取った後のゼナの言葉である。
「もちろん、歓迎するよ」
「即決してくれてありがとう」
「お前らは良い傭兵だ、そして機会を逃すほど私の目は腐っちゃいないよ、それに…」
「それに?」
「お前らといると退屈しなさそうだ」
笑みを浮かべたゼナに、ネオンは笑い返す。
「あっ、ネオン、俺たちのライセンスランクがランクアップしたみたいだぞ」
「ランクアップ?」
「ああ、ほら」
アレンは、小型端末から傭兵ライセンスをホログラムで表示させる。
「本当だ、アイアンからブロンズになってる」
ネオンも自分の傭兵ライセンスを確認すると、同じように、アイアンランクからブロンズランクにランクアップしていた。
「ネオンが持ってきたのは、やり手がいなかった、いわゆる塩漬け依頼ってやつだ、それは解決したのならランクアップするのは当然だな、というかお前らまじで傭兵なりたてなんだな」
アイアンランクは、ライセンスランクの最下級で、アイアンは新人というのが傭兵の常識だ。
「まだ傭兵になって一ヶ月ぐらい」
「俺たちは、セレジア共和国航宙軍の脱走兵だ」
「え?」
《!!》
アレンの唐突なカミングアウトに、ゼナは目を丸くして、エレンが操るクモ形ロボットが驚いたような反応をする。
「俺たちが争い事に慣れてるのはそういう理由だ」
「ん、仲間に隠し事はしない、他に聞きたいことがあるなら答える」
これは事前にアレンとネオンが話し合った内容だ、同じ船に乗る仲間に隠し事をするのは良くないと考えた。
それが元軍人という大したこともない理由なら、尚更だ。
「ゼナは俺たちがスパイだと思うか?」
「思うわけないだろ、あんな目立つARMSに乗る奴がスパイだったら、そんな国家はすぐに滅ぶな」
「ふふん」
「褒めてないぞ」
《アレン様が懸念されているのは、他国の軍人であった過去によりスパイと疑われることですか?》
「そうだ、逆に言えばそれくらいだけどな」
前の職歴が、軍人なんてのは傭兵では珍しくないのではないのだろうか。
「もしスパイ容疑を掛けられたらケツを捲って逃げればいいんだよ、別に傭兵稼業なんてどこへ行ったってできるからな」
「俺とネオンの目的は一級市民権を手に入れて、惑星に住むことなんだけどな」
《それならはライセンスランクを上げることを意識されると良いかと、マセナリーは官民合同の組織ですので、ライセンスランクは社会的地位として認められています》
「最上級ランクのプラチナランカーの傭兵は、ヘタなコメディアンよりは有名だし、市民からの人気もあるぞ」
「目立ちたい訳じゃないが、そういう話ならランクアップも積極的に目指すか」
「ん、私とシルヴァーナなら目指せる」
「あのシルヴァーナは、もしかしなくても軍用ARMSだよな?、盗んできて大丈夫なのかよ」
「俺たちは艦隊の壊滅に隠れて脱走したから大丈夫だ、俺たちが生きてると思ってる奴なんかいないし、そもそもシルヴァーナはネオンしか操縦できない」
疑問符を浮かべるゼナと、シルヴァーナの話に興味津々なエレンに、アレンはシルヴァーナの全てを話すのだった。




